ベンチャーキャピタリストからの資金援助で設立され、カナダのブリティッシュコロンビア州に拠点を置くD-Waveは、いわゆる「断熱量子コンピューティング」を使ってこの問題を解決したという。断熱量子コンピューティングでは、特定の問題を解決するために設計された機器が「アニーリング」と呼ばれるプロセスを通じてその問題の答えを決定する。D-Waveの最高技術責任者(CTO)、Geordie Rose氏によると、そのシステムは熱雑音で動作可能なため、デコヒーレンス時間は問題にならないという。
D-Waveは世界で唯一の商用量子コンピューティング企業だ。同社はこれまでに、Draper Fisher Jurvetson、GrowthWorks、BDC Venture Capital、Harris & Harris Group、British Columbia Investment Managementなどのパートナー企業から総額4400万ドルの資金を調達した。同社は2月に、16個の量子ビットを持つ「Orion」と呼ばれる量子コンピュータのデモを行った。しかし、査読誌でデモの結果が公表されなかったため、学者らは、D-Waveがデモを行った量子コンピューティングが本物なのか疑念を抱いた。
カナダのウォータールー大学量子コンピューティング研究所所属の理論計算機科学者、Scott Aaronson氏は次のように述べ、D-Waveの姿勢を批判した。「科学者たちはD-Waveに対し、同社が実際に成し遂げた斬新な成果について質問したが、同社は過去1年間、それらの質問には回答せず、これまで以上に最低レベルの商業主義企業に成り下がったようだ」
Aaronson氏は、Orionは恐らく古典的なコンピュータだろうと指摘する。同氏は、夏にGoogleの複数のオフィスで行った講演で「D-Waveが開発したのは、16の超伝導量子ビットを持つ機器と思われる」と語った。Aaronson氏によると、この量子ビットは、情報をシステム内に送り込み、古典ビットと同様の動きをするという。「ようするに、それは、D-Waveが実際に開発したものを表現するなら、16ビットの古典コンピュータが最もふさわしいという証左と一致する。私の言う16ビットとは、アーキテクチャのことではなく、実際のビット数が16個という意味だ。それについてはすでに先行技術が存在する」(Aaronson氏)
カリフォルニア大学バークレイ校でコンピュータサイエンスの教授を務めるUmesh Vazirani氏は、仮に量子ビットが実際に古典ビットと同じ動きをするとしても、同じ結果が出るだろうと語る。「(量子ビットが古典ビットのように動いたとしても)デモの結果と一致するだろう。なぜなら、デコヒーレンス状態にある量子ビットは古典的なランダムビットと同様の動きをし、断熱コンピュータはシミュレーテッドアニーリングを実行している古典コンピュータと同様の動きをするからだ」(Vazirani氏)
しかし、D-WaveのRose氏はこれを否定するとともに、そのシステムはさらなる進歩を遂げたと語った。「われわれはデモを行って以来、われわれのプロジェクトのサポートインフラの開発を行ってきた。また、そのインフラを使って、7つの世代のプロセッサプロトタイプの設計、構築、テストを行った。各世代のプロトタイプでは、商用プロセッサの性能および拡張性に関する特定の問題に焦点を当てている」とRose氏は語る。同氏によると、SC07では、28個の量子ビットを使い、Neven氏と共同開発したアルゴリズムのデモを行うという。Neven氏は、Googleが2006年に画像処理企業のNeven Visionを買収して以来、Googleに勤務している。
Rose氏によると、D-Waveはまだ同社のシステムを対外的に実証していないという。「(なぜなら)この種の技術を実証する上で有意義な手段は1つしかないからだ。このシステムの性能は、人々が関心を持っている測定基準で、現在一般に利用されているシステムの性能を上回るか。われわれはもう少しでこの目標を達成する」
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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