オンラインでコンテンツを配信する、音楽や映画その他の業界各社が、不正コピーを防止する強靱な方法を考案しようと急ぐなか、米Microsoftはデジタル権利管理(Digital Rights Management:DRM)技術を全く新しい領域に適用しようとしている。その領域とは、個々のユーザーのデスクトップだ。
Office 2003は、市場を独占している同社のOfficeスイートのアップデート版で、まもなく発売予定である。そのOffice 2003に、今回初めて、作成した文書ファイルへのアクセスを制限するツールが導入される。これにより、ユーザーは、たとえば表計算シートの読み込みや修正を実行できる人物を指定したり、ファイルのコピーや印刷を禁止したり、または保存期限を設定できるようになる。
この技術は、Windows Rights Management Servicesの普及を狙うMicrosoftの計画のなかで、最初の大きなステップとなる。 Windows Rights Management Servicesは、情報にアクセス制限をかけることを、標準的なビジネスプロセスの一部とするための、広範囲に渡る計画だ。
アナリストによると、これはMicrosoftがサーバソフトの売り上げを押し上げるために大いに必要としている新しいやり方であり、Officeの旧バージョンを含めた競合ソフトウェアを締め出すチャンスでもあるという。また、これまでOfficeのアップグレードを見送ってきた企業に、今回こそアップグレードを行わせるための新たな理由を与えるものだ。
「仮にOffice 2003が、これまでと同様に手直し程度のアップグレードでしかないのなら、企業顧客に関心を持ってもらうのは大変だろう」というのは、米Jupiter ResearchのアナリストMichael Gartenberg。「大半のユーザーにとっては、1995年に発売されたOffice95で、機能的には頂点に達している。しかし、新しいサービスを提供するためのプラットフォームとしてOfficeを使うなら、出来ることはまだたくさん残されている」(Gartenberg)
新しいDRMツールでは、Officeのさまざまなフォーマットに関して長年維持されてきたインターオペラビリティが、ある程度犠牲になる。PCユーザーは、これまでならMicrosoft Wordの「.doc」フォーマットやExcelの「.xls」フォーマットで保存した文書ファイルを、互換性のある別のプログラムで開いたり加工することが可能だった。旧バージョンのOfficeや、米Sun MicrosystemsのStarOffice、またはオープンソースのOpenOfficeなどとも互換性があったのだ。しかし、Office 2003で作成しアクセス制限をかけた文書ファイルは、Office 2003でしか加工できない。
この点に関して、「確かに囲い込みの要素がある」と、Directions on MicrosoftのアナリストMatt Rosoffは言う。「Microsoftは、ユーザーにOfficeを使ってもらいたい、しかもOfficeだけを使ってもらいたいと強く願っている。そこで、他のソフトウェアには無いこれらの機能を、Officeに持たせたのだ」(Rosoff)
Information Rights Management(IRM)というツールが、WordやExcelを含むOfficeの全アプリケーションの、プロフェッショナルバージョンに同梱される。
IRMの各機能を利用するためには、MicrosoftのWindows Server 2003が動作するサーバと、Windows Rights Management Servicesソフトが必要になる。このサーバソフトは、文書作成者が定めたパーミションのルールを記録する。これを利用して、文書作成者は、たとえばその文書を見られるユーザーを指定したり、そのアクセス権の有効期限を決めたりできる。そして、作成者以外のユーザーがこの文書を受け取った際には、インターネット経由あるいは企業ネットワークの内側からWindows Rights Managementサーバに一時的にログインし、その文書へのパーミションがあることを証明する。
MicrosoftでOfficeのリード・プロダクトマネージャーを務めるDan Leachは、DRMの機能をOfficeに組み込むという判断は、顧客との継続的な話し合いに基づいたものだと説明している
米Jupiter ResearchのGartenbergは、このようなサービスへのニーズは確実に存在するという。とりわけ、オフィスワーカーの以前よりも活発に移動するようになり、さらにビジネス上重要な情報がパソコンに保存されることが多くなっていることを、その理由に挙げている。
サードパーティが開発する暗号化ソフトウェアなどのツールを利用しても、文書ファイルの保護は可能だ。しかし、文章作成ソフトウェアに内蔵されたツールを使うほうがずっと簡単で、使用される可能性も高いと、Gartenbergを説明する。
Directions on MicrosoftのRosoffによれば、権限管理情報を暗号化して文書ファイルに書き込むことには、妥当な業務上の理由があり、たとえばソフトウェアのコードや文書の漏洩を経験したMicrosoftの苦労を見れば、その理由がわかるという。
サーバ拡販を狙う
Microsoftのほかの新技術と同様、IRMという新しいツールも、同社の売り上げ増大に貢献する。ほぼ飽和状態にあるデスクトップ用アプリケーション市場とは対照的に、サーバ市場には成長の余地が残されている。IRMおよび拡張されたXML(Extensible Markup Language)機能は、ともにOffice 2003の最も革新的な部分であり、どちらも同社のサーバソフトを利用するものだ。特に、IRMを動かすにはWindows Server 2003が必要だが、今年発表されたWindows Server 2003は、企業間での採用があまり進んでいない。
「Officeには、すでにユーザーが必要とする可能性のある文書管理機能がすべてある。そのため、さらに付加価値を付ける唯一の方法は、Officeを大きなシステムの一部にして、そのシステム全体で付加価値を着けることだ」(Rosoff)
MicrosoftのLeachは、DRM機能を提供するのにWindows Server 2003を使うのは、単にそれがもっともよい方法だからだと説明する。「顧客が気付いた問題を解決するためには、Windows Server 2003の持つ能力の一部を利用できる必要がある」(Leach)
Leachはまた、Internet Explorer用の無料プラグインを提供して、アクセス制限のかかった文書ファイルをブラウザー上からでも見られるようにすると述べた。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」