米SCOが米IBMを相手に起こした10億ドルの訴訟は、SCO対IBMという企業対企業の法廷闘争から、SCO対オープンソースコミュニティへの戦いに発展しつつある。オープンソース側の主な意見は2つ。1つは、SCOが主張している業務上の秘密がLinuxのコードに紛れ込んでいることを証明する証拠を見つけるのは非常に困難だろうというもの。そして、もう1つは、SCOが根拠のない主張を繰り返すことで、企業のLinux導入に悪影響が出るだろうというものだ。
実際、IT業界のアナリスト達からも後者の主張を裏付ける見解が出ている。ガートナーが先月米国で発表した報告書では「SCOの訴えの真偽、およびそれを踏まえた判断結果が明らかになるまでは、複雑でミッションクリティカルなシステムでのLinux利用を最小限に留めるべきだ」と記されている。
企業のLinux導入はやっと本格化したばかり。特に日本では昨年から本格的に立ち上がり始めたところだ。IDC Japanの調査では昨年2002年の第3四半期から第4四半期にかけて、国内のサーバー出荷台数に占めるLinuxサーバーのシェアが増加し始めている。富士総合研究所システム技術本部の相原慎哉主事研究員も「価格性能比でTCOを考えてLinuxを導入する企業が増えており、試験的利用から実践段階に入ったと見ている」という。
では、SCOの問題はやはり企業のLinux導入に冷や水をあびせることになるのか。国内のIT業界アナリストの見解は意外と冷静なものが多い。ユーザー企業のオープンソース利用に詳しいガートナー ジャパンの荒木一郎シニアリサーチディレクターは「この問題はあまり真剣に取り上げるべきではない」と語る。
SCOが勝訴してもコミュニティが代替コードを開発してしまう
荒木氏もSCOが勝訴すること自体を非常に難しいと見ているが、仮にSCOがLinuxの中に問題のあるコードを発見したとしても、Linuxコミュニティが問題部分を自分達で作り変えてしまうだろうと予想する。90年代前半にUnixを開発したAT&Tが、カリフォルニア大学バークレー校が開発したBSDに自社のコードが含まれているという訴訟を起こした際も、結局1万以上あるファイルの中のたった4カ所を書き換えることで和解した。「Linuxやオープンソースコミュニティの動向に詳しいエンジニアと、その知識を活用できる企業カルチャーがあれば、SCOの問題には対応できる。メジャーな機能に問題があればコミュニティが代替するものを開発してしまうし、マイナーなものであれば外せばいい。逆にそれができない企業はSCOの件がなくても、Linuxを導入すべきではない」と荒木氏は言う。
Linuxのディストリビューションを販売しているほかのベンダーも基本的には静観する構えだ。SuSEやNovellなどIBM以外にもSCOの主張に対して疑問を示すベンダーは多いが、「他のベンダーも注意は必要だが静観する構えだ」とガートナー ジャパン データクエストでベンダー企業の動向に詳しい亦賀忠明シニアアナリストは語る。
ユーザー企業側も状況は似たようなもの。「SCOによってLinuxが持つ著作権上のリスクが現実のものになったという認識はユーザー企業にも広がっているが、この程度のリスクは織り込み済みで導入を検討していた企業が多いので、これで導入を見合わせるという動きにはならないだろう」と富士総研の相原氏。
今回の提訴はSCOの売名行為
亦賀氏も相原氏もSCOの提訴は株価上昇を狙った売名行為と見ている。実際、SCOの株価は5月の中旬以降それまでの3ドル台から一気に6ドル台へと急上昇している。SCOとしては「LinuxではOSのビジネスが成り立たない。それでいいのか」ということを世間に訴えたかったのではないかと亦賀氏は考えている。
しかし、この訴訟は結局SCOにとって自分を滅ぼす捨て身の攻撃になる危険がある。「訴訟は長引くはずだし、先が見えない。いつまで続けられるかはSCOの体力次第だが、AT&Tの例に見るように、Unix文化の中でロイヤリティやライセンス料で儲けた企業は殆どない」(荒木氏)。仮にSCOが勝訴したとしても「コミュニティや自社の製品を販売してくれるパートナー企業を敵に回しているような状況ではどうしようもない」(亦賀氏)。
「IBMを訴えた勢いで、Linuxコミュニティまで敵にしてしまったSCOの戦略は明らかに失敗だった。もう少し他の主張の仕方もあっただろうに」と亦賀氏は述べた。
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