デルが、大きな方針転換に乗り出した。
それは、デルの最大の特徴のひとつである「BTO(Build to Order)」によるカスタマイズ中心の製品提供手法からの脱却だ。同社では先ごろ、主要製品においてスペックを固定した「標準モデル」を中心とした展開へと転換する方針を明らかにした。
デルの日本法人で社長を務めるJim Merritt氏は、その理由を次のように説明する。
「カスタマーは、PCの構成を自在に組み上げることができることよりも、より低コストで、簡単かつシンプルに、短納期で提供される製品を欲している。デルは、そうした市場の変化に合わせた仕組みへと踏み出すことにした」
Merritt氏によると、「これまでは何100万通りもあったコンフィグレーションを、99%以上削減することになる」という。
企業向けの「Latitudeシリーズ」では、「ビジネスレディ・コンフィグレーション」と呼ばれるスペックを標準化した製品を用意。これにより、同社が展開する「デル特急便」を中堅中小企業向け製品の98%が利用できるようになり、いずれも翌営業日には納品できるという。
すでに日本市場においては、中堅中小企業向けクライアントPCでは全体の約10%、特にVostroシリーズでは約20%が、デル特急便を利用した販売だが、今回のBTO中心の体制からの転換により、この比率はさらに高まることになる。
また、パートナー戦略の拡大も、標準モデルの増加を加速させることにつながっている。すでに国内においても、中堅中小企業向けビジネスのうち約30%がパートナー経由となっており、さらに、新たなシステムインテグレーターとのパートナーシップの強化にも乗り出す考えを示している。拡大するパートナー向けに提供する製品を標準化することで、流通面での効率化を図ることができる。
コンシューマー製品に関しても、この基本姿勢は変わらない。
同社では、「Studioシリーズ」を「Inspironシリーズ」へと統合する方針を打ち出している。主力となる同シリーズにおいては、構成をシンプルなものへとシフト。より低価格で購入できるようにしている。
10月5日に発売した「Inspiron M101z」では、スペックが異なる2種類の製品を用意した。カラーバリエーションは4種類の中から選択できるが、BTOによるパーツカスタマイズは行わない。また、量販店モデルのラインアップを強化しており、これも標準スペックモデルの拡大を後押しすることになる。
これに対して、コンシューマー向け最上位製品となる「XPSシリーズ」では引き続きBTOによる対応を可能とし、ハイエンドユーザーが求める仕様にカスタマイズできるようにしている。パーツのスペックを理解するユーザーに対しては、カスタマイズの余地を残しているという構図だ。
今回の方針転換を、デルでは「顧客の要求変化に対応したもの」と説明するが、その一方で、効率化やコスト削減といった狙いがあることが浮き彫りになる。Merritt氏は、今回の方針変更とともに、製造拠点の集約や、製品の設計自体のスリム化などによって、製造部門では41%のコスト削減を達成したと述べている。また、コンシューマービジネスにおいては、「従来はシェアを追うことを優先したところがあったが、中価格帯、高価格帯の製品を伸ばすことで、収益性が改善している」と、収益優先の姿勢が随所で見られている。
デルの2011年度第2四半期(2010年5〜7月)の業績は、前年同期比22%増の155億3000万ドルと回復基調にある。しかし、コンシューマー事業の売上高は29億ドルで前年並み。全体と比べて、伸びが弱いのは事実だ。
また、Gartnerの調べによると、先行するヒューレット・パッカード(HP)が2009年実績で年間5895万台の出荷規模であったのに対して、デルは3990万台と、やや差が開きはじめている。IDCが先ごろ発表した2010年第3四半期(7〜9月)の出荷台数では、HPが1576万6000台となっているのに対して、デルは1113万6000台。2位の座を台湾のエイサーに明け渡し、3位に転落している。調達メリットの差を埋めるだけのコスト削減が求められているのも事実だといえよう。
デルが、自らを差別化するための柱としてきたBTOを、製品戦略の基本路線から外した背景には、こうした台所事情が大きく影響している。「BTOからの脱却」という姿勢は、短期的なものではなさそうだ。
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