第6世代「iPod nano」の登場以降、Appleが独自ブランドの腕時計を作ることは、潜在的な可能性を秘めた賢明な動きであるだけでなく、単純に時間の問題であると多くの人が考えてきた。しかし、一部の人が近頃主張していることとは関係なく、筆者は、想像上の「iWatch」デバイスを開発するだけのハングリーさが今のAppleにあるとは思わない。
筆者はテクノロジ分野を長いこと担当してきたので、ガジェット市場に何らかの変化が起きたときは、それを感じ取る、いや嗅ぎ取ることができる。筆者が話しているのは、新しい製品カテゴリがどこからともなく誕生し、最初は完全に愚かな概念のように思える、あのサイクルのことだ。やがて多くの企業が手っ取り早く利益を上げようとして競争に参加し、その製品カテゴリは一気に加熱する。
これまでのAppleは真の機会を感じ取ると、成功の秘訣を考え出してから頃合いを見計らって参入し、その市場を支配してきた。タブレットやMP3プレーヤーの市場は、Appleが「iPod」や「iPad」を発売するはるか前から存在していたが、同社製デバイスの登場によって市場は一変した。Creative LabsやRioの音楽プレーヤーを覚えている人はいるだろうか。Microsoftの「Windows」を搭載する不格好なタブレットPCですら忘れられているかもしれない。
筆者は今、スマートウォッチに関しても、当時と同じように興奮でぞくぞくしている。1月のCESで意外な大成功を収めたのは、ウェアラブルテクノロジだった。ウェアラブルテクノロジとは基本的に、アクセサリや衣服のように、ユーザーがストラップやクリップで自分の体に装着できるデバイスのことだ。CESでは、数多くのスマートウォッチやフィットネスバンド、およびそれら2つを組み合わせたものが声高に宣伝されていた。
それらのウェアラブルテクノロジには、長い間待望され、クラウドファンディングで資金を調達した「Pebble」から、映画「ディック・トレイシー」や「007」シリーズに着想を得た「Martian Passport Watch」、Fitbitのフィットネストラッカー「Flex」、さらに「Basis Band」まで、あらゆるものが含まれていた。Nikeの「FuelBand」の成功、そしてNikeはAppleが過去にフィットネス製品の開発で提携した企業であることを考慮すると、Appleが市場に舞い降りて獲物を仕留める機は熟していると筆者は思う。
これは、Appleがかつて容易に遂行していた動きだ。Appleは完全に競合他社の不意を突き、大幅に先行していたはずの多くの企業を驚かせることに長けている。その格好の例が「iPhone」だ。スマートフォンはその何年も前から存在していたが、iPhoneの登場は、苦戦していたMicrosoftの「Windows Mobile」製品群を破滅に至らしめる前兆となった。信じてほしいのだが、筆者は当時、「T-Mobile Wing」を持たされる羽目に陥っていた。「Sidekick」やキーボードを備えたフィーチャーフォン群も同じ運命に直面した。
残念ながら近年のAppleは、同社の特徴であるどう猛さを表に出していないと筆者は感じている。初代iPad以来、同社は真に破壊的な製品を出していない。初代iPad以降の注目に値するハードウェアリリースはすべて漸進的なもので、新たな要素が追加されてはいるが、市場を一変させるようなものはなかった。「iPad mini」はiPadの小型版にすぎない。そして「iPhone 5」は本質的にスクリーンサイズを3.7インチから4インチに拡大しただけだ。さらに、多くの「Android」CPUが完全なクアッドコアへ移行しているにもかかわらず、iPhone 5の「A6」プロセッサはデュアルコアである。4G LTEの採用もライバルに大きく遅れを取った。
今のAppleに必要なのは、一般の、そしてウォール街の懐疑主義者を黙らせるような、真に独創的な行動を起こすことだ。iPodやiPhone、iPadの創造に匹敵する、非線形思考の顕著な実例となるものが求められる。それは、複数のガジェットとアプリケーションを組み合わせて何か全く新しいものを作り上げる、あるいは、ほかのメーカーが便利なガジェットと宣伝するものが入り乱れた状態を一掃するかもしれない何かだ。例えば、輝くほどに素晴らしいApple iWatchのような。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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