テレビを視聴していて、CMに入ったとたん音量が大きく感じられたり、逆に映画などを見ていると妙に台詞が聞き取りづらかったりしたことはないだろうか。こうした問題を解消すべく、10月から「テレビ放送における音声レベル運用規準」(民放連技術規準T032)が導入される。
新規準の核となるのが、新たな指標「ラウドネス」だ。これまでのレベル監視装置(であるVUメータ)だけでは図ることのできない「人の感じる音の大きさ」を数値化したもので、この値を平均化することで音量のばらつきを抑制することができるようになる。
この問題については、かねてより視聴者から多くの意見が寄せられてきたというが、このタイミングで動きだしたのは地上デジタル放送への完全移行の影響が大きい。デジタル放送ではその送出の仕組み上、アナログ放送時代に用いていた音声レベルを制限する機器を挿入しないのが一般的であるため、番組ごとの音量のばらつきがそのまま放送に反映されることがわかっていたためだ。
そこで日本民間放送連盟(民放連)が先導する形でNHKとも協議を重ね、ARIB(電波産業会)で国内統一基準となる技術資料を策定、民放連もこれに沿ってT032を制定した。番組ごとや放送局ごとに音量感が変わらないようにするための2つの規準が策定されたわけだ。
新規準策定に携わったフジテレビジョン技術局制作技術センター制作技術部エグゼクティブエンジニアの松永英一氏は「リモコン片手にテレビをご覧いただいていては、番組内容に集中できないということも起こりうる。新規準導入により、音量に驚いたり聴こえづらかったりする状況はなくなるはず」と期待をこめる。
さて、一般的にはCMに切り替わった際の音量の違いが指摘されがちだが「バラエティ番組などでは、CMを超えるラウドネス値を示していることもある」(松永氏)とのこと。逆に邦画などで音量が小さく感じることがあるのは「劇場で見ることを前提に音量も作り込まれているため」(同)だが、最近は制作段階からテレビ放送時を考慮した別バージョンを用意していることも増えてきたという。
ゲームやBDソフトなど、テレビ画面上で音声を発するのは放送サービスだけではない。また、同じ放送サービスであっても、民放連に加盟していないCS放送などは今回の規準の対象外だ。これらについては「積極的に新ルールを広められるよう声をかけていきたい」(松永氏)としており、少々時間はかかりそうだがいずれは解消の方向に向かうことが期待される。
ちなみに現在は適用に向けた準備期間。実施にあたっては放送局、技術プロダクションなどがラウドネスメーターを用意する必要があるためで、10月1日OA分から適用開始となる(CMに関しては、2013年3月末までの半年間は調整期間)。調整期間終了後に規準値を超えたコンテンツを納入した場合は「改稿をお願いすることになる」(松永氏)と、かなり厳しい運用が予定されている。
当初は多少のズレが出ることも考えられるが、そう遠くない未来、安定して聴きやすいテレビ放送が実現することになりそうだ。
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