先日行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、不況下の日本に明るい話題を振り撒いた大会ではなかったでしょうか。2大会連続優勝、すごいですね。次回からアメリカも本腰を入れてくるのではないでしょうか。
WBCの熱狂を物語るデータの一つが視聴率です。ビデオリサーチ社のデータによると、最も世帯視聴率が高かった試合は第2ラウンドの「韓国×日本戦」で40.1%(関東地区)でした。祭日の午前10時から、しかも決勝戦でもないにもかかわらず高視聴率をマークしたことには驚きです。
さらに決勝戦は平日の午前10時35分からの放映で36.4%を記録しています。在宅世帯はほとんど視ていたのではないでしょうか。ちなみに前回大会の決勝「キューバ×日本」は祭日午前10時45分からで43.4%でした。今大会の決勝が休日でプライムタイムだったら、W杯サッカーに匹敵する視聴率が出たかもしれません。
熱狂を物語る事象の二つ目は、WBCの速報をしていた携帯電話のニュース配信が一時滞ってしまったことです。ミーティング中に試合経過が気になり、たびたびチェックしていたサラリーマンが突然情報更新されなくなり、居ても立っても居られない状況だったといっていました。
WBCに関心がない人にはどうでもいい話(迷惑した人もいたでしょう)かもしれませんが、そこまで熱狂した人が多かったということです。私の周りには、今回のWBCで野球のルールが少し理解できたという人までいました(野球にとっては復活の良い転機になったのかもしれません)。
最後にWBCでの珍現象は、ワンセグを利用する人が多かったということです。街では携帯電話のアンテナを立てて画面を視ながら歩いている人が結構目につきました。
ワンセグは携帯電話であまり利用されることがない機能の代名詞でした。すでに08年1月末現在で5000万台を越えるワンセグ対応携帯電話が出荷されています。単純計算で5割近い普及率となります。ただし買い替えがありますので、実際は30〜40%の普及ではないでしょうか。それでも3台に1台はワンセグが搭載された携帯電話になっています。
新規の携帯電話出荷分では7割以上にワンセグが標準搭載されており、ワンセグの搭載されていない端末をチョイスすることが逆に難しくなっています。そんな中、今回始めてワンセグを利用した人もいたのではないでしょうか。
ある放送関係者がミーティング中にワンセグでWBCを視聴していて、ようやくワンセグの意味がわかったといっていました。放送関係者でさえあまりワンセグは利用していなかったのです。
4月6日よりNHKでは「NHKワンセグ2」が始まります。教育テレビのワンセグ帯域で平日の昼休みと深夜、土曜日の午後にサイマルではない独自番組を放送します。特徴は1つの番組が5〜15分のサイズ、便利情報をメインに携帯電話でも視聴しやすいように工夫されています。
ワンセグの活用についてはこれから試行錯誤が続いていくでしょう。しかしWBCの経験から、今視たい、知りたいライブ番組が最も求められていることが当然のようにわかりました。ということは緊急性を要する時にワンセグは非常に役立ち、ラジオが持っていた強みに匹敵するメディアになると考えられます。
いずれにしても06年4月より開始されたワンセグサービスが、3年かけてようやく動き出したような気がします。特に中高年層での利用が今後増加するでしょう。WBCがそのきっかけになったのではないでしょうか。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐちこういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より主席研究員。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆、編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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