携帯電話事業者が携帯電話端末を調達価格よりも安くユーザーに提供し、その損失を通信料金からの利益で補う販売奨励金制度。この制度の見直しは、現在総務省が開催しているモバイルビジネス研究会の焦点の1つだ。3月14日に開催されたKDDI代表取締役社長兼会長、小野寺正氏の定例記者会見では、大半の時間がこのモバイルビジネス研究会に関する話題に費やされた。
販売奨励金制度は、端末を頻繁に変える人のほうがこの仕組みの恩恵に大きくあずかっており、結果として端末利用期間の長さによって通信料金負担に不公平が生じている点が問題とされている。この点について小野寺氏は、「お客様負担の公平性については、ポイント還元、利用期間に応じた端末価格設定など、現状でもある程度公平性を担保する施策はしてきた」と前置きした上で、端末の購入価格、つまり販売奨励金の適用額に応じて通信料金が変わるという料金モデルを採用することについて検討を開始したと述べた。
「旧郵政省時代は、ユーザーの利用や解約について料金面で制限を設けるのはおかしいとされていた。しかし今回モバイルビジネス研究会で、端末利用期間に応じた料金設定を定めることは可能という認識が示されたと理解している」(小野寺氏)
また、研究会で指摘される日本の携帯電話業界の国際競争力低下については、「(各事業レイヤーの)どの部分を指して国際競争力の強化をするのか」と問題を提起するとともに、国際競争力の定義自体に認識が統一されていないと指摘。「国産端末メーカーの世界シェアが少ないのは確かに事実。しかしモジュールや部品分野では、日本の世界シェアは十分に高い」(小野寺氏)。その上で、「日本の垂直統合モデルにより、先進的な商品展開をしていることが、部品メーカーの国際競争力には資していると考えられる」と主張、逆に「販売奨励金やSIMロックを規制することが本当に国産端末メーカーのシェア拡大につながるかは疑問で、部品メーカーについては逆に競争力を低下させる要因になりかねない」とした。
これに関連して、海外の事例として日本メーカーと同様に特許による優位性がほとんどない韓国のサムスン電子が世界市場で地歩を固めている事例を指摘。「(サムスンは)韓国内ではGSM方式が採用されていないにもかかわらず、GSMメーカーとしても世界シェア3位」(小野寺氏)とし、端末メーカーの海外シェア低下は単に国内の販売奨励金やSIMロックの問題ではないとして、「端末の国際競争力低下はキャリアの責任」という意見に否定的な考えを示した。
小野寺氏は最後に、通信料金低下などの短期的なユーザー利益よりも、中長期的にユーザーの利便性を高めるほうが重要という考えを示した。そのためには、MVNO(携帯電話の回線を借りて通信サービスを提供する事業者のこと)による新しい需要の創出も必要とした上で、端末メーカー間、MVNOを含めた通信事業者間、販売代理店間の競争が維持されることが必要と述べた。「もしも販売奨励金がゼロになったら、販売店は料金競争ができなくなるだろう。その場合はサービス競争になるのかもしれない」(小野寺氏)
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