現在のIPv4に代わる次世代のプロトコルIPv6は、日本が率先して対応を進めてきた。しかしここにきて、各国政府の追い上げが始まったようだ。
IPv6普及・高度推進協議会は11月28日、IPv6関連の海外動向を報道陣に向けて紹介した。同協議会で専務理事を務める東京大学 助教授の江崎浩氏が説明に立ち、米国では国防総省が軍関連ネットワークのIPv6完全移行を表明したことを受けてIPv6への取り組みが加速しているほか、欧州やアジアでもIPv6への対応を正式に表明する国が増えているとした。
IPv6は新たなインターネットの基盤技術として期待され、日本では早くからIPv6の普及に向けて力を注いできた。NTTコミュニケーションズなどがすでにIPv6の商用サービスを提供しているほか、いくつものメーカーが対応製品を発表している。しかしその利用者はまだごく限られているのが現状だ。
IPv6ではインターネットのアドレス空間が現行の32ビットから128ビットに広がるため、実質的に無限のアドレスが利用でき、利用可能アドレス数の不足にも対処できるとされている。しかしすでに大量のアドレスを確保している米国はIPv6への移行に消極的だった。
国防総省の“鶴の一声”が米国を変えた
IPv6普及・高度推進協議会で専務理事を務める東京大学 助教授の江崎浩氏 | |
---|---|
しかしその米国も、今年6月に国防総省がIPv6への移行を表明したことで、にわかに情勢が変わってきたという。同省が調達する製品はIPv6互換でなければならないとされたことから、製品を納入するハードウェア・ソフトウェアベンダーが対応を検討しはじめたとのことだ。さらに米国企業とアライアンスを組んで製品を納入している台湾やインドのメーカーなどもIPv6への対応を迫られているという。
このことがきっかけとなって、米国のISPや通信事業者はこぞってIPv6のアドレス確保にまわっているという。「米国のIPv6アドレス取得数は日本を抜いて世界第1位になった」(江崎氏)
米国がここまでIPv6に取り組むようになったのはなぜか。その背景には、戦争に対する考え方が変わったことがあげられると江崎氏は分析する。それまで自国の領土が他国に侵されたことがなかった米国も、9.11の事件をきっかけに国内が戦場になる危険性を考え出した。国防総省のネットワーク・情報統合担当副長官John Stenbitも、エンドトゥエンドのセキュリティと、パケットがネットワーク経由で必ず目的地に到達するというサービス品質が見込まれるIPv6が米軍にとって魅力的と6月の会見で語っている。
IPv6の相互接続性に関する検証も進む
米国ではそのほか、米商務省内でもIPv6利用に関する経済効果を検討するタスクフォースが設立された。またIPv6機器の相互接続性検証を行う大規模ネットワーク実験プロジェクト「Moonv6」も開始されたという。これには米国防総省の研究機関のほか、NECや富士通を含む米国内外のハードウェア・ソフトウェアベンダーが参加している。
相互接続性に関しては、IPv6関連団体であるIPv6 Forumが、IPv6の動作検証と適合機器の認証を行う「IPv6 Ready Logo Program」を開始しており、11月21日に最初の認証取得製品を発表している。日本からはNECや松下電器産業、日立製作所の製品が認証ロゴを付与された。
欧州、中国、韓国もIPv6対応を表明
IPv6対応への動きは、欧州やアジアでも加速している。ドイツ軍がIPv6への対応を検討 し始めたほか、英国政府やフランス政府内でもIPv6対応に関するタスクフォースが設立されたという。EU政府も運営する公式ウェブサイトのIPv6対応を検討しているとのことだ。
アジアでは中国と韓国が国家政策としてIPv6への対応を打ち出した。韓国政府は2010年までにIPv6を利用して現状より50倍程度高速なブロードバンド環境を構築すると宣言したという。具体的には50Mbps〜100Mbpsの速度を目指しているといい、IPv6対応の名の下にインフラの世代交代を図るのが目的ではないかと江崎氏は解説した。
中国政府はIPv6を利用して次世代インターネット網を構築する計画を進めている。今までは情報産業省(MII)と国家計画委員会、中国軍がそれぞれIPv6への対応を検討していたが、江崎氏によると、中国政府はCNGIという次世代ネットワークに関する横断的な組織を立ち上げ、国家プロジェクトとしてIPv6への対応を進めていくという。
日立製作所、NEC、富士通が中国にルータスイッチを納入
中国では商用プロバイダを使ったテストベッド(運用に関して検証と評価を行うための実験ネットワーク)を構築する予定という。中国では第3世代携帯電話(3G)は失敗だという認識が広がっており、IPv6なら儲かるのではないかという空気が広がっていると江崎氏は言う。「ゼニにならないことはやらない、といっていた」(江崎氏)
経済産業省と国家計画委員会が交わした覚書に基づき、中国で構築されるIPv6のテストベッドには日本ベンダーの機器が使われる予定で、日立製作所、NEC、富士通のルータスイッチが納入される予定と江崎氏は話す。ネットワークは北京、上海、広州をつなぐ予定で、日本のネットワークにもつながるよう、北京−東京間にも45MbpsのIPv6ネットワークが敷かれる予定という。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」