東京オリンピックの開催に向けて急成長を続けている、外国人観光客によるいわゆるインバウンド消費。国は2020年には訪日外国人観光客4000万人、インバウンド消費額8兆円という目標を掲げており、その経済効果は都市部だけでなく地方にまで波及しようとしている。その裏で、着実に拡大を続けているのが、海外からネット通販によって日本の商品を購入するという、いわゆる「越境EC」だ。
経済産業省が取りまとめた2016年の「電子商取引に関する市場調査」によると、2015年に米国・中国から日本の商品を購入するインバウンドECの市場規模は1兆3337億円で、対前年比22.0%の成長。2019年には、この規模が3兆1810億円まで成長すると推計している。これに統計には加えていない欧州からの消費を加えると、市場規模はさらに大きいものと見られる。
海外に目を向けると、米国、英国、ドイツ、北欧、オランダ、フランスの6市場における越境ECは、2020年に約15.6兆円にまで成長すると言われており、グローバルでも越境ECは重要な成長分野になっている。
では、こうした越境EC市場の動きに対して日本企業はどのように応え、そしてどのような課題を抱えているのか。イーベイ・ジャパンの事業本部長である佐藤丈彦氏に話を聞いた。
イーベイ・ジャパンは、日本国内向けのEC事業としては2002年に撤退しているが、2009年から世界190以上の国・地域に販売可能なオンライン・マーケットプレイス「eBay」を通じて、海外向けに商品を販売したい日本企業をサポートしている。eBayはグローバルで約2500万のセラー(販売者)が1.6億人以上のバイヤー(購入者)に商品を提供しており、その年間取扱高は約10兆円に上るという。その取扱高の20%以上は、越境ECによるものだ。
ここ数年で越境ECの認知と関心はとても高まっていると思います。ただ、大手のグローバルブランドやナショナルブランドを展開している企業では、すでに海外にディストリビューション(販売網)を整備していたり、ライセンスを海外に提供していたりする場合が多く、それを理由に(越境ECに)二の足を踏んでいる場合も見られます。一方、中小企業も関心は非常に高いものの、越境ECに対して高いハードルを感じているケースが多く見られます。加えて、大きく変動している為替市場の動向も、越境ECを検討する企業に大きな影響を与えている。本格的な動きはまだまだこれからではないかと感じています。
日本でも認知のある企業が越境ECに参入してきたのはここ数年のことで、日本国内での需要が頭打ちになっている中で次の事業の柱を構築しようとチャレンジしているフェーズだと思います。一方、日本ではあまり知られていないような中小の小売事業者が、eBayではトップセラーになっているというケースも多く見られます。また、越境ECに参入する企業の多くはビジネスを短期的には考えず、中長期的に育てていこうという動きが見られます。越境ECは為替変動に大きく左右されるため、その波を何回経験できたかで、仕入れや値付けのノウハウやナリッジが蓄積されていくのではないかと考えています。
そうですね。日本でもかつては、メーカーがウェブサイトを持つことさえタブー視されていた。それよりも小売店との関係を守るほうが重視されていたわけですね。ただ、最近ではメーカーも直接商品を販売して、さまざまな手段を駆使して売上を伸ばそうとしている。どこのルートで商品が売れるかではなく、あらゆる販売方法を使って商品を消費者に届ける“ワン・コマース”という発想が広がりつつあるのです。今後はその中に越境ECも含まれるようになり、どの国から購入しても、どのルートで購入しても一切の差異が生じない状況が生まれるのではないかと思います。
eBayが持つブランド力やスマートフォンの普及などを背景に、米国が最も大きなボリュームを占めており、次いで欧州、アジア(オーストラリア含む)の順で取引高が高い状況です。中国市場は、成長率は非常に高く急速に伸びている市場ですが、ボリュームは今後大きくなっていくのではないかと考えています。中国のeBayも、当初はエクスポーティング(海外向け販売)のみを手がけていたのですが、今後はインポーティング(海外からの購入)にも力を入れていく方針です。
他のアジア各国と比較しても顕著に流通量が多いのが、中古商品やビンテージ商品。欧州系のブランド商品や時計、日本メーカーのデジタルカメラ、フィルムカメラ、スポーツ用品などの人気が高い傾向があります。
理由はいくつかありますが、まずは為替変動の動きに影響されることが少ないということ。そしてもうひとつは、日本の中古商品のクオリティの高さやそれを販売する販売事業者のカスタマーサービスのクオリティの高さではないかと思います。
もともと日本人はモノを大切に使う傾向があり、中古商品に対しても高いレベルのカスタマーサービス(商品のクリーニングやメンテナンス)を求めます。そのレベルの高さが海外からも評価されているのではないでしょうか。海外の購入者にとってはもはや中古品を買うという感覚ではなく、クオリティの高い商品を安価で購入するという感覚で購入していると言えるでしょう。
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