ソフトバンクの“滞納”誤登録で訴訟はできる?--弁護士の見解

 ソフトバンクモバイルは、携帯電話の端末代を分割で支払う割賦契約をした一部の顧客において、分割支払金を入金していたにもかかわらず、未入金として信用情報機関に登録していたことを10月1日に発表した。原因は、システムを改修するプログラムを設定する際の人的ミスとしている。

 同社は、信用情報機関であるシー・アイ・シー(CIC)および日本信用情報機構に6万3133件の情報を誤登録。このうち1万6827件は、信用情報機関の加盟会員会社とのクレジットカードの申し込みなどの際に、影響が生じた可能性があるという。なお、現在はシステム不具合は修正されており、誤登録された情報も正しい信用情報へと修正されている。

  • 10月7日に信用情報の誤登録を謝罪した孫正義氏

 誤登録が発覚したのは顧客からの問い合わせを受けた3月。ソフトバンクは同件について経産省に報告するとともに、誤登録データの精査を社内で進め、影響を受けた可能性のある1万6827件の顧客に8月から連絡をして謝罪した。その後、連絡を受けた顧客から12件の問い合わせがあったという。

 ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏は、10月7日に開催されたヤフーのカンファレンスで登壇した際に同件について触れ、「ご迷惑をおかけしたユーザーの皆さんにはおわび申し上げます」と謝罪していた。

被害者は損害賠償を請求できる?弁護士の見解

 では、ソフトバンクが信用情報を誤登録したことで、クレジットカードの申し込みや住宅ローンの審査などに影響があった場合、顧客が同社を相手取り、訴訟を起こすことは可能なのだろうか。弁護士法人法律事務所オーセンスに確認したところ「損害賠償請求をすることは可能」との回答を得た。詳しい説明は以下の通り。

 「政府の広報オンラインでも『携帯電話端末購入時に分割払いを選択した場合、月々の請求には、通信料だけでなく、携帯電話端末代の分割支払金も含まれていることになります。この場合、携帯電話端末代金の支払いが滞ると、指定信用情報機関に滞納の情報が登録され、それにより将来、クレジットカードを作れなくなったり、ローンを組めなくなったりするおそれがありますのでご注意ください。』と周知されている。

 今回のソフトバンクの事案では、実際に携帯電話の分割金の支払いを怠ったのではなく、料金を支払っていたにもかかわらず、未入金であるという誤情報が信用情報会社に登録されてしまっている。過去にも、全国の信用金庫の共同システムで、滞納情報など300万件超の誤登録がされていたことがある。この際も今回と同様にシステム変更時の設定ミスが原因だった。このように、誤って信用情報会社に事故情報が登録されてしまい、実際にクレジットカードの発行や、家や車のローンが組めないなどの被害を受けた場合、情報の修正を求める以外に、損害賠償請求をすることはできるのだろうか。

 多少事情は違うものの、過去に似たような裁判があった。クレジット契約において、実際は滞納がなかったにもかかわらず、滞納があったとの誤認情報(いわゆる事故情報)を信用情報機関に登録されたため、新たなクレジット契約をできなかった人が、損害賠償請求をした裁判例(大阪地裁平成2年7月23日判決)だ。この事例では、Aがビデオデッキを購入した際にBから融資を受け、これを分割して支払っていた。しかし、Aに割賦金の滞納がないにもかかわらず、Bは誤って信用情報機関に事故情報を提供したため、その後Aの家族がBに対しクレジット契約を申し込んだ際に、クレジット使用を拒否されるという事件が起きた。

 裁判所は、Bは信用情報機関であるCにAの信用情報を提供するにあたり、信義則上、クレジット契約に付随して正確を期し、誤った情報を提供するなどしてAの信用を損なわないように配慮する保護義務があるとした。そして、本件では事故情報を誤って登録してAの信用を損ない、新たなクレジット契約を断っていることから、Bは債務不履行責任を負うとして、Bに対し11万円の損害賠償請求を認めた。しかしこの事案では、Cには消費者に不利益な情報を登録した場合、消費者にその旨を登録すべき義務があったとはいえないとして、Cの不法行為責任は認めなかった。

 今回(ソフトバンク)の事案では事故情報がのちに修正されているとはいえ、誤情報が登録されたことを原因として、新たなローンを組めないなどの不利益が生じた場合、誤情報を登録した会社に対し、損害賠償請求をすることができる余地がある」。

経産省や総務省による指導の可能性は?

 同件について、経済産業省と総務省にもそれぞれの見解や対応について聞いた。

 まず経済産業省では、3月の第一報以降もソフトバンクから消費者への対応状況について随時報告を受けているという。「経産省としては、誤登録をした事業者には、まずしっかりと迷惑をかけた消費者に通知やお詫びをしてもらう。また、消費者から本件への相談を受けるための窓口を設置してもらう。そういった対応について、きちんと消費者保護を図っているかという観点で順次ご報告いただく」(経産省)。

 また、総務省によるとソフトバンクから正式に連絡があったのは、同社が信用情報の誤登録を公表した10月1日だという。「ご報告をいただいたばかりなので、まずは状況を把握しているところ。(ソフトバンクには)利用者が安心して電気通信サービスを受けられるよう、誤登録の影響があった可能性がある顧客については、丁寧に状況を説明してもらうようお願いしている」(総務省)。行政指導などの可能性については「予断を持って判断をしていない。経産省とも利用者に対する周知をどのようにするかを調整していると聞いているので、そこを踏まえつつだと思っている」とした。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]