石川県議会は6月29日、かねてより話題になっていた、小中学生の保護者は子供に携帯電話端末などを持たせないよう務める「いしかわ子ども総合条例の一部を改正する条例」を可決しました。
条例により携帯電話端末などの所持規制が行われるのは全国初であり、地方が主体的に県民、市民を守る姿勢が明確化されたものといえるでしょう。条例は2010年の1月1日から施行されることになります。条例改正の内容は、「防災や防犯その他特別な目的のために所持する場合を除き」といった文言が入り、罰則はなく努力義務になっています。
また18歳未満が、携帯電話のフィルタリングを解除する場合は、携帯電話販売事業者に保護者が理由を書面で提出することを義務付けることも可決されたとのことです。今後、同様の条例が兵庫県などでも施行される予定で、ほかの地方自治体へと波及していくきっかけになるのでしょうか。
文部科学省が学校への持込を制限する通達を出して以降、子どもがいじめ、事件へ巻き込まれないように、携帯電話を規制する流れはできました。しかし、国が携帯電話の所持規制をするところまで進んでいません。今回はあくまでも地方発の条例改正です。
一方、インターネットでも地方発の条例が生まれようとしています。Googleのストリートビューに関する賛否です。
総務省では「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」にて、この問題を取り上げています。研究会の提言案では「プライバシーとの関係でサービスを一律に停止すべき重大な問題があるとは言い難い」と明言し、違法ではない見解を示しました。
しかし、40の地方自治体、地方議会から意見書が寄せられ総務省に対して対応を迫っています。まだ条例化などの具体的な動きは確認されていませんが、上記、携帯電話と同様に地方発の動きが出てくる可能性は高いのではないでしょうか。
地方が迅速に課題に対して取り組む姿勢が目立っていますが、インターネット関連の事案に関しては、あまりにも拙速ではないかと思う向きもあります。被害にあっている子ども、プライバシーや肖像権の侵害で悩まれている方は、即対応してもらいたいのは当然です。
また、罰則規定のない条例ですが可決することで、地方からの意見表明や抑止力につながることが期待されることもあるでしょう。しかし、ネット社会は、今までの手法で押さえ込もうとしても、問題解決にはならないと考えるほうがいいでしょう。携帯電話の所持を禁止したところで、パーソナルメディアのネットワーク化はますます進むでしょう。
子ども達の玩具も例外ではありません。ポータブルゲーム機がネット接続されれば所持禁止になるのでしょうか。携帯電話自体を所持禁止にしても問題の解決にはなりません。ではウェブ閲覧機能がいけないのでしょうか。もはや機能論ではないような気がします。
今後、いやがうえにもネットと付き合っていかなければならないのですから、ネット環境を健全化するために産官学が一体となって利用者保護に対する取り組みを地道に進めるしかないのではないでしょうか(安心ネットづくり促進協議会やEMAなどの取り組みが良い例)。
国、地方自治体は、最低限、今の時点でどこまで施策すればいいのか、保護者、利用者への周知・啓発はどこまで、何をすればいいのか、基本となる責任の分界点と工程表を示すべきでしょう。
運転免許を取得する、更新するときに講習がありますが、携帯電話所持にもこのような施策が必要かもしれません。子どもの安全と保護者の理解のために。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐち こういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より主席研究員。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆、編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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