宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月24日、2004年4月から始めている「宇宙オープンラボ」の成果発表会を開催した。これまでに宇宙オープンラボに参加した企業や団体が成果を発表した。
宇宙オープンラボとは、JAXAの産学官連携部が中心となって2004年4月から取り組んでいる制度であり、企業や大学がJAXAの研究者と一緒に、特定テーマを研究するというものだ。この制度では、最大で年間3000万円、最長3年間の研究資金がJAXAから提供される。
JAXAの産学官連携部で部長を務める石塚淳氏は、宇宙オープンラボを開始した経緯について、「これまで宇宙は研究開発の場だったが、これからは宇宙をビジネス創出の場とすることで、多様な宇宙開発宇宙利用の拡大を目指したい」と説明している。
現在、宇宙にかかわる産業は、(1)宇宙機器産業、(2)宇宙利用サービス産業、(3)ユーザー産業――の3つに大まかに分類される。(1)の宇宙機器産業とは、ロケットや衛星、地上局などを開発・製造する産業であり、その市場規模はおよそ3000億円。(2)の宇宙利用サービス産業は、衛星通信やリモートセンシングデータ提供、測位サービスなどの宇宙インフラを通じてサービスを提供する産業であり、市場規模は約6000億円となっている。
(3)のユーザー産業は、(2)の宇宙利用サービス産業から提供されるサービスを利用するために必要な民生用機器を開発・製造する産業のことだ。具体的にはカーナビや衛星放送受信装置、GPS機能付き携帯電話などを開発・製造する産業である。またユーザー産業には、衛星を使った遠隔地での授業、衛星を使った中古車オークションなどの事業も含まれる。(3)のユーザー産業の市場規模は約3兆円である。
狭い意味での宇宙産業とは、(1)の宇宙機器産業と(2)の宇宙利用サービス産業を足したものであり、その市場規模は約9000億円しかない。しかも「宇宙機器産業は『ハイテク公共事業』と言えるほど、過度に官需に依存している。さらに、政府の宇宙関連予算は、2001年を境に右肩下がりで推移している」(石塚氏)。JAXAが取り組む宇宙オープンラボの目的は、これまで宇宙にかかわることのできなかった企業に対して、参入障壁を低くすることで、宇宙に関連する産業のすそ野を広げることにある。
「宇宙オープンラボは、『見上げる宇宙から使う宇宙へ』を掲げ、宇宙を舞台に誰もが宇宙ビジネスに参加でき、新たな宇宙産業が生まれ育つ環境を作ることが重要だという意識のもとで、取り組んでいる」(同)
宇宙オープンラボでは、企業や大学がJAXAの研究者と特定テーマについての共同研究チーム(ユニット)を構成、2004年4月からの開始以降、これまでに96件のユニットが登録されている。また2006年1月からは、登録されたユニットの情報を投資家を対象に配信している。今回開催された成果発表会は、投資家への説明会と交流の場を兼ねている。今回は、96ユニットのうち宇宙でCMを撮影したSPACEFILMSを含む8ユニットの成果が発表された。
2004年度に登録されたユニットのひとつである「超小型衛星による低コスト・迅速な宇宙実証・利用プロセスの確立」(CubeSatユニット)については、ユニットメンバーのNPO法人「大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)」の一員であり、東京大学教授でもある中須賀真一氏が説明している。中須賀氏は、宇宙利用の現状について「宇宙を利用したビジネスは根本的にアイデアが不足している。また宇宙に関連する政府機関や研究機関、企業から出てくる宇宙利用のアイデアには限界がある」と説明し、同ユニットのきっかけとして「宇宙で何かをやろうとする人間の数を100倍にしたい」(中須賀氏)という思いがあったことを語っている。
「宇宙を利用するための“敷居”が高すぎる。現在主流となっている衛星は大型化の傾向にあり、作るのに数百億円のカネと5〜7年もの時間が必要になっている。数百億円ではリスクが大きすぎるし、5〜7年を待っていたのではビジネスチャンスを逃すことになる」(同)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス