ウェブにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
AMF PENSIONというスウェーデンの年金会社による、携帯電話を使ったインタラクティブなコミュニケーションは、生活者を引き寄せるストーリーがありました。
このコミュニケーションの仕組みはとてもシンプルです。ストーリーの主人公(=コミュニケーションのターゲット)は、まだ年金のことなんて考えたこともないような若者たち。
参加しようと思う人間は、まず自分の顔を携帯電話で写真に撮ります。それを、AMF PENSIONのサイトに送るだけ。
すると3分後、自分が70歳になった時の顔の予想写真が携帯電話に送り返されてくる、という仕組みです。
70歳がまだまだ遠い先にある若者たちにとって、自分が年老いた時の写真は現実感がありません。仲間うちで見てあって、盛り上がるツールとしては最高です。誰かが試したら、自分も参加したくなります。
大切なのはそこからです。仲間うちに見せあって、ひと通り盛り上がった後、例えばひとりになって、自分が年老いた時の予想写真をもう一度見ます。すると、ちょっと不安になります。自分もいつかは老いるのだって現実を見つめざる得なくなるのです。
「そういや、年金のことなんて考えたこともなかったけど、大丈夫かな?ちょっと調べてみようか…」なんて思う若者が大勢いたのです。彼らは実際にAMF PENSIONの企業サイトを訪れ、商品を調べました。結果としてこのキャンペーンは大成功を収めたのです。
この企画が秀逸なのは、最初に情報を提供するのではなく、まず生活者を主人公にしたストーリーを組み立てたという点です。そして主人公は、自分の意志でストーリーに参加し、最終的にはその企業の商品に興味を持つようになりました。これこそが本当の意味でのインタラクティブなコミュニケーションだと言えるでしょう。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「仕事はストーリーで動かそう」(クロスメディア・ パブリッシング)。
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