ウェブにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。アメリカのファストフードチェーン・バーガーキングの「WHOPPER SACRIFICE(ワッパーの犠牲者)」キャンペーンには、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
このキャンペーンは、友だちを10人を犠牲にすると、バーガーキングの名物バーガー「ワッパー」が1個無料で手に入るというもの。キャンペーンサイトにアクセスすると、「君は友だちが好きだ。でもワッパーのことも愛してるだろ?」というキャッチコピーが目に入ります。続いて「君は無料でワッパーをもらうために、何を犠牲にする?」というボディコピー。
サイトにあるアプリケーションをインストールして起動すると、Facebook(mixiのようなSNS)の友だちリストが表示されます。その中から心を鬼にして10人を削除すれば、ワッパー1個分のクーポンがもらえるという仕組みです。
削除した友人の写真は、画面上で燃えていきます。その友人にも、自分がワッパーの為に、彼や彼女を犠牲にしたことが伝えられます(後にFacebook側との協議で伝わらないように変更されました。またクーポンがもらえるのはアメリカ国内だけで、1アカンウントにつき1回という縛りがあります)。
このキャンペーンは、またたく間に口コミで広がり,大勢の人間が参加しました。ワッパーのために犠牲にされた友だちは数十万人にもなったとのことです。バーガーキング側の仕掛けは大成功しました。では何が消費者の心を掴んだのでしょう?それはサイトを見た人間が参加できるストーリーを作っていることです。サイトを見た人間はまず葛藤します。ワッパーを取るか?友だち10人を取るか?
本当は、そんなものが比べる対象でないことは明らかです。しかし誰もが「SNS上だけの友人に本当の価値があるのか?」という気持ちを少しは抱いていることも確かです。だから葛藤してしまいます。もちろん、友だちを犠牲にすると言っても、SNSのリストから削除するだけですから、シャレとして許容できる範囲です。
そして、結果としてどちらを選んだとしても、バーガーキングのワッパーのことが強く記憶に残ります。だから口コミします。店に食べに行った人も多いでしょう。普通にCMなどを打つよりも、はるかに効果的なアプローチだったのです。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみてつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「仕事はストーリーで動かそう」(クロスメディア・ パブリッシング)。
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