インターネットの生みの親と言われるTim Barners-Lee氏らが開発したウェブプログラミング言語「Curl」が、国内でも話題になっている。
CurlはBarners-Lee氏などMITの研究者が開発した、アプリケーションを構築するためのプログラミング言語。Javaと異なり、クライアント側でプログラム処理を行うリッチクライアント型の言語だ。このため、サーバやネットワークに負担をかけることなく、高速処理を行えるというメリットを持つ。
Curlが注目されている理由は他にもある。CurlはHTMLやJava、Flashなどの機能を包含し、1つの言語でクライアントのユーザーインターフェース部分を構築できる。そのため、複数の言語を組み合わせて開発するよりも、短期間でアプリケーションを作成することが可能だ。CurlはJavaと同じくオブジェクト指向言語であり、JavaScriptのようなスクリプト記述機能も備える。また、Flashのようなグラフィックス機能も備え、操作性の高いユーザーインターフェースが作れる。
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国内でCurlのライセンス事業を行っているのは、カール・アジアパシフィック(CAPC)だ。もともとはビジネスブレイン太田昭和の子会社だったが、2003年10月に住商情報システムの傘下に移った。
住商情報システムの取締役を務め、カール・アジアパシフィック代表取締役社長に就任した塩野谷光司氏は、企業のIT投資が減少している昨今、Javaによるシステム開発では顧客のニーズに応えきれないと語る。そしてその限界を打破する鍵がCurlだというのだ。
Curlの優位性と、日本のSIerが直面する課題について、塩野谷氏と同社企画本部長の田中秀明氏に話を聞いた。
---Curlとはどんな言語なのでしょうか。
田中: Curlはウェブ環境を前提に設計された、ウェブシステム開発用のプログラミング言語です。ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の開発者であるTim Barners-Lee氏を始めとしたMITの研究者たちが、米国防総省国防高等研究事業局(DARPA)の補助金を受けて開発したもので、クライアントサイドで動作する点が特徴です。
CurlはHTMLやJavaScript、Flash、Java、C++などの機能を包括しています。そのため、1つの言語でウェブアプリケーションの開発が可能です。他の言語とも親和性が良く、組み合わせて使うこともできます。
塩野谷: ウェブアプリケーションを開発するとき、今はユーザーの要望に合わせて複数の言語やツールを組み合わせています。1人の人間がすべての言語やツールを知っていればいいのですが、そうでない場合には複数の人間が開発に携わることになる。そうすると開発の生産性やその後の変更・保守といったワークフローが格段に大きくなります。Curlは複数の言語やツールが持つ機能を包括していますから、いくつもの言語を知らなくてはいけないという制約から解放されることになるんです。
Curlのもう1つの特徴は、リッチクライアントというコンセプトです。今のウェブシステムは基本的にサーバ中心で、クライアントで何かをするときには必ずサーバに情報を取りに行く必要がある。これが、ユーザーにとって「かったるい」という状態を生み出しています。処理能力がサーバやネットワークの容量に依存し、ユーザーは処理を待っている間にいらついてしまう。「ウェブは便利だけどまだまだ使い物にならない」と感じてしまうんです。そこを一気に解決するのがCurlです。
田中: Javaを利用した今のウェブシステムではサーバにかかる負担が大きい。サーバ/クライアント間で絶えず情報をやりとりするため、回線にも負荷もかかります。クライアント側の使い勝手も悪く、業務効率が上がりません。
Curlは一度プログラムやデータをサーバからダウンロードすれば、あとはクライアント側で処理します。これによって操作性が上がり、サーバや回線にかかる負荷も1回で済む。従って、投資効率が画期的に上がります。
---カール・アジアパシフィック(CAPC)の活動内容について聞かせてください。
田中: MITがDARPAからの補助金を受け、インターネットに特化した新しい言語を作成しようということでCurlプロジェクトを始めたのが1995年です。同じ年にはやはりDARPAからの補助金を受けて、W3C(World Wide Web Consortium)も設立されています。
1998年にはCurlという言語がほぼできあがり、米Curl Corporationが設立されました。ただし米国で本格的な営業活動が始まったのは2002年ですから、米国でもまだ歴史は浅いといえます。
CAPCはCurl Corporationのアジア・パシフィック地域の総代理店として、2002年7月に設立されました。もともとはビジネスブレイン太田昭和の子会社でしたが、2003年10月に住商情報システムが買収しています。
---日本法人は初めての海外法人ですか。
塩野谷: そうです。欧州は米国本社が直接扱っています。
---住商情報システムがCAPCを買収した理由は。
塩野谷: 我々はJavaのシステム開発にいろいろな限界を感じていました。それは機能の問題ではなく、開発コストの問題です。Javaをベースにして見積もりを出すと、ユーザーの予算と合わないんです。結局SIerは自社の利益を削るか、赤字で受注することになる。それでJava以外の技術を探していたときにCurlを知ったんです。
ただし、住商情報システムだけがCurlを使っても世界が広がりません。より多くの企業に利用してもらうために別会社としました。CAPCは住商情報システムのライバル企業にもCurlを売り込んでいくつもりです。
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