RFID(無線認識)タグ技術はメーカーや卸売業者、小売業者が商品・在庫の追跡方法を根本から変える技術だ、と一般的には言われている。
しかし、この新技術がどのように進化し、利用されるべきかについては、依然として議論が続いている。話し合いはRFIDという小さなチップが送信するデータの保護方法から、RFID読取装置が収集した多量のデータの管理方法にまで及ぶ。
この問題は多くの人を非常に混乱させている。IBMのRFID関連のミドルウェア開発担当アーキテクト、Rainer Kerthもその1人だ。Kerthは、突如注目され始めたRFID技術の可能性と誤解について、CNET News.comに語った。
---RFIDは大げさに騒がれ過ぎていますか。
RFID関連の業界では面白いことがたくさん起こっていると思います。騒がれ過ぎとまで言えるかはわかりません。RFIDには多くの可能性があります。人々の注目は、RFIDをどう実現するかではなく、RFIDがどう活用できるかに偏っているようですね。RFIDが既存のITインフラをさまざまな面で大きく変える可能性を持っているのは確かです。しかしそれは、既存のITインフラがRFIDを支えられるレベルにまで進化するということでもあります。
---RFIDの主要な成果が、実際にすべて提供されるのはいつ頃でしょう。
実はそんなに先のことではありません。Wal-Mart Storesや米国防総省の要請により、RFIDの導入を進めている企業は多数あります。ドイツのMetro GroupもRFIDを導入すると発表しましたし、英国でも取り組んでいる人々がいます。この業界のほぼ全員が、ある程度の成果を2004年から2005年初めには実現しようと努力しています。
しかし、最高の成果が得られるかというと、おそらく違います。この技術から最大限の効果を得るには、何年にも渡る努力が必要でしょう。しかし人は、歩けるようになって初めて走れるようにもなるものです。今後1年半の間に、RFIDを支えるITの機能が何か出てくると思います。これは短期間でできるものではありません。
---ほかの業界に比べて、小売業のほうがRFIDを利用するための設備が整っているのですか。
明らかに、小売業者や消費財メーカーが現時点で一歩リードしています。この業界はRFIDの基礎技術の確立に対して非常に意欲的です。そこに強みがあります。ほかの業界はRFIDに関して、小売業者や消費財メーカーほど成熟した段階には到達していません。
---RFIDによるデータの読み取り方式について、どの企業が最も優れたアイデアを持っていますか。
小売業者はさまざまなデータ管理戦略を持っています。それに基づいてRFIDにも対応していくでしょう。しかし、データ管理とRFIDに関して何か特定の導入事項を決めなければならない段階だとは思いません。これは、今まさに皆が把握しようと努力していることで、いくつもの変数があります。実際に手に入るデータの量や提供方法、保存期間、既存のシステムへの関連付けなどです。小売業界や消費財メーカーの中でさえも、ある企業が他社を大きくリードしていると決めつけるのは早すぎます。
---RFIDにとって最も重要な規格はどれですか。また、その規格はRFID技術の開発全体にとって、どの程度不可欠なものなのでしょうか。
RFIDの機能性を決める重要な規格はいくつかあります。特に鍵を握るのは無線機能です。RFID技術は国際的な課題であり、世界レベルで互換性を持たせる方法があるはずです。それが、現時点での課題です。無線に関する各国の規制は依然として異なっていますが、我々がこうして話をしている間にもこの課題に対する取り組みは進められています。
---RFIDに関する問題の中で、最も見落とされがちなものは何ですか。
何といっても一般的なシステム統合の問題です。つまり、RFIDのインフラからデータを取り出し、既存のITインフラにどう入力し直すか。この問題に気付き、内輪で話題にしている人々は確かにいます。しかし重要な課題として明文化はされてはいません。
---ほかに、あまり注目が集まっていないと感じる問題はありますか。
例えば数百の配給センターと数千の店舗にRFIDを展開する場合、事前にどう管理するかを設計しなければ、最終的に大きな問題を抱える可能性があります。RFID環境を監視して、何か問題がおきたら介入できるようにする必要があります。RFIDのインフラ全体を1つのシステムとして見渡せることが重要です。
---エンドユーザーは、RFID関連のシステム統合という課題に対して、どのように取り組むべきなのでしょう。
ほかのビジネスシーンで見られる似たような課題と基本的には変わりありません。複数階層のアプローチが必要です。まず、どの特定の課題に取り組むべきか、システム統合を行う投資効果はどの程度かを評価します。そこから、細かい技術要件へと掘り下げていきます。
---RFIDへの対応に興味を持っている企業は、現在どのような状況にあると思いますか。
大半の企業は、RFIDの基礎技術を理解しようとしている最中です。読取装置やタグ、タグ上のデータ形式、そして倉庫内でこれらの技術を採用することによる影響などを理解しようとしています。また、液体や金属など様々な物質が無線周波数に与える影響について、実験や調査をしているところです。規定のパレットやケースのどこにタグを付ければ最適な読み取り率を得られるかも調べています。これまでの焦点は無線周波数や、RFIDを利用したサプライチェーンの最適化方法を理解することに当てられています。
---これらの企業は、まずどのような種類のIT課題に取り掛かろうとしているのでしょうか。
現時点では、最大の問題点が明らかになっているかどうかも分かりません。時が経てば、RFIDが提供する基本機能の上に正しいビジネスロジックを設定し、実際にビジネス価値を生み出すような方法でそのロジックを定義づけることが最大の重要課題となるでしょう。
---ひとつ例を挙げてもらえますか。
あるケースを想定しましょう。発送センターで貨物を受け取る人に対して情報を提供できるようにしたいとします。既存のオペレーションの成熟度にもよりますが、これはこれで比較的新しい1つの機能となる可能性があります。しかし、プロセスの変更が必要な新機能となる可能性もあります。技術的観点から言えば、データを収集してITインフラに情報を提供し、そこで情報を処理することだけが問題ではありません。その情報を発送センターの入り口にいる人物にリアルタイムで提供することで、彼らが適切な判断を行い、やがては本質的に生産性を向上させることもできるのです。
RFIDの力を本当に活用するためには、明確にしなければならない新しいプロセスがいくつかあります。RFIDを導入しても、過去5年間に行ってきたのと同じことをしようとするのであれば、RFID技術を最大限活用することにはならないでしょう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス