一斉射撃の的になった気分、とはこのことだろうか。
2003年3月下旬、小宮山“Dick”英樹は米Sony Electronics の社長兼COOに就任した。東京の親会社が約10億ドルの損失を発表したのは、その1カ月後のことだ。
追い打ちをかけるように、Gateway、Hewlett-Packard、Dellが相次いで家電市場への参入計画を発表。同社がLG ElectronicsやSamsung Electronicsと繰り広げてきた戦いは、いっそう厳しいものとなった。
堅調だったブラウン管テレビとPCブランド「VAIO」の不振により、稼ぎ頭のエレクトロニクス分野は業績低迷にあえいでいた。Sony Electronicsの経営陣は家電市場が変わりつつあること、そして現在の縄張りを守るためには、すぐに変化を起こさなければならないことを悟った。
「5〜6年前までは平和だった市場に、企業が次々と、狩猟民族のように参入してきた」と小宮山は言う。
その後、Sony Electronicsは音楽ダウンロードサービスを発表し、液晶(LCD)テレビやDVDレコーダーといった新しい製品カテゴリにも力を入れた。
こうした努力は報われつつある。Sony Electronicsはホリデーシーズン前に、ほぼすべてのコンシューマ製品分野で2桁成長を記録した。CNET News.comは小宮山社長にインタビューを行い、家電事業の見通しとSonyの変革について話を聞いた。
---今年のコンシューマ市場では、どんな製品分野が伸びると思われますか。
まずはフラットパネルです。ハイビジョンテレビが伸び始めていますから、これは間違いないでしょう。種類を問わず、ディスプレイは当社にとって非常に重要な分野になると思います。それからハードディスク搭載DVDプレーヤーとBlu-ray。デジタルカメラも引き続き、進化するはずです。携帯音楽プレーヤーについては、Hi-MD対応製品やハードディスク搭載モデルに刺激的なビジネスチャンスがあると思います。ホームシアター市場も有望です。
---家電製品のライフサイクルは驚くほど短くなりました。これはなぜですか。
テクノロジーはかつてない速度で変化し、進化しています。消費者も新しい技術と機能を備えた製品をどん欲に求めるようになっている。最新の技術を使わなければ、消費者の心はつかめない時代になったのです。家電企業が音響・映像技術から情報技術に焦点を移すようになったことも、この傾向に拍車をかけています。市場優位を維持するためには、この流れに従うほかありません。
---ライフサイクルの短縮は製品の機能面にどんな影響を及ぼしていますか。
この2、3年の間に、ディスプレイ関連の技術は飛躍的に向上しました。プラズマもそうですし、液晶もそうです。向上したのは質だけではない。画面サイズも大きくなりました。つまり、より大きく、より高品質になったわけです。新しい技術のおかげで、製品の設計もどんどん変わっています。ハードディスクひとつをとっても、サイズは小さく、容量は大きくなりました。
---昨年の減収はSamsungとの競争が原因ですか。それとも、純粋に経営の問題だったのでしょうか。
需要の高い製品分野で、後手に回ってしまうケースがありました。そこで市場競争力の改善につとめ、製品ラインアップを整理しました。
---Samsungについてはどうですか。SamsungはSonyのライバルと見られていますが、Samsungの主力製品は半導体であり、必ずしも家電ではありません。
LG Electronicsをブランド力のある家電メーカーとすると、Samsungは基本デバイスのメーカーです。Samsungの強みは半導体、携帯電話、そして一部のデバイス群にあります。SonyとSamsungは協力関係にあり、次世代LCDの分野ではジョイントベンチャーを設立しました。しかし、Samsungは携帯電話事業で成功を収めましたから、今後は家電市場への攻勢を強めてくるでしょう。
---昨年はSony Electronicsにとって厳しい年となりましたが、先日のConsumer Electronics Show(CES)では、状況が確実に回復していると発言されましたね。昨年の数字が低かったので、業績が上がったように見えるだけでは?それとも、本当に成長しているのでしょうか。
今年度はこれまでに約17の新モデルを投入し、ディスプレイ市場でのポジショニングを強化しました。新しいテクノロジーも採用しました。これは「高温ポリシリコンLCD」というもので、Grand Wegaテレビにはこの技術が採用されています。DVDビデオカメラも自信のある分野のひとつです。この製品については「一から開発をやり直した」感がありますね。まったくの新製品ではありませんが、売れるという感触をつかんだ時点でこの技術を採用し、使い勝手を改善しました。これらの製品は予想以上の売れ行きを達成しました。
Sony Electronicsの構造改革にも取り組みました。6つあった部門は3つになり、一体感が強まりました。収益が改善したのはそのためでしょう。コスト構造と同時にマージンも改善され、すばらしい結果を出すことができました。
---近年、家電業界では委託生産企業の役割が拡大し、予想以上のスピードで価格とマージンの低下が進んでいます。Sonyにとって、生産を委託するメリットとデメリットは何ですか。
技術開発、製品開発、市場開発の面では、イノベーションと投資によって、現在のリーダーシップを維持できると考えています。しかし、他社との提携や生産委託の可能性を無視するつもりはありません。こうした関係がプラスになると思われる分野では、前向きに取り組むつもりです。Sonyも以前は自社生産を重視していました。今後もそれは変わりませんが、市場リーダーの座を維持するためには、生産の拡大にも取り組んでいくつもりです。
新しい技術を見つけること、技術開発のリードタイムを短縮すること、そして生産とサプライチェーンマネジメントを最適化すること。こうした点に重点を置くことが、今日のビジネス環境を生き抜く条件になると考えています。
---昨年と比べ、PC事業は持ち直していますか。
はい。デスクトップもノートPCも着々と伸びています。非常に満足できる状況です。この10年のPC市場をふりかえると、キープレーヤーの顔ぶれは変わりましたが、プロセッサや機能は進化し、市場は伸び続けています。ビジネスチャンスがなくなったわけではありません。また、PCにエンターテイメントの要素が加わったことで、製品の多様化も進みました。
---価格は重要なポイントですか。
価格が重要であることは変わりませんが、PC市場では他社と違う特徴を提供することが重要です。ローエンドの市場シェアを盲目的に追求するのは非常に危険です。魅力的で回転の速い製品を開発しなければ、過剰在庫に苦しむことになる。この業界では、在庫は悩みの種ですからね。オペレーションを管理することが非常に重要です。我々は市場シェアだけでなく、事業を健全で収益性の高いものに保つことが重要だと考えています。市場シェアを確保するためには、市場のローエンドを狙わなければなりませんが、そうなると利益を出すことはさらに難しくなります。
---Sonyは音楽サービスを立ち上げたとき、「これは第1弾にすぎない」と述べました。新たに提供するサービスの内容や提供価値は、何を基準に判断するのですか。
Sony Music Entertainment、Sony Pictures Digital、Sony Electronicsの3社はSonyグループの一員ですが、独自の予算と収益目標を持ち、独立して経営されています。ですから、自社の事業にとって意味があるか、短期と長期の両方で正当性のある投資かどうかを基準に、それぞれが経営判断を下すことになると思います。
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