2014年の展望

ヤフー宮坂社長に聞く“爆速経営”の手応え--2014年は「×10倍」

 2012年4月の新体制以降、“爆速”をスローガンに次々と新サービスやアプリを提供してきたヤフー。2013年の10月には「Yahoo! ショッピング」と「ヤフオク!」の出店料の無料化を打ち出し、EC関係者のみならずネット業界全体に大きな衝撃を与えた。新体制から間もなく2年が経とうとしているが、その成果は現れているのか。同社代表取締役社長の宮坂学氏に聞いた。


ヤフー代表取締役社長の宮坂学氏

――新体制となって2年目ですが、宮坂さんにとって2013年はどのような年でしたか。

 いい年でしたね。もちろん、事業に対して満足することはないのですが、社内全体の頑張りについては私の期待に応えてくれたと思っています。また、2013年は戦略的な方向転換が大きく2つありました。ひとつは10月に発表したEC革命、もうひとつは11月に発表した新しい広告戦略ですね。それと、不正アクセスが起きてしまったことは、すごく重く受けとめています。

――方向転換した2つの事業の戦略について。まずはECの出店料を無料にした狙いを改めて教えて下さい。

 もっと日本でECを大きくしたいんですよね。インターネットによって誰でも簡単に買い物ができるようになりました。じゃあその次は、誰でもお店を持てるようにしたいなという思いが凄くあって、無料化したというのが思想的な背景ですね。

――「STORES.jp」や「BASE」などネットショップが簡単に作れるサービスも続々と登場していますが、そこも意識したのでしょうか。

 ほとんど意識していないですね。そういったサービスが流行っているから無料化したのではなく、やはりYahoo! ショッピングをさらに大きく成長させたいと。ヤフーはEC領域では後発ですから、これまではアマゾンや楽天を見ては「いいものはすぐに真似しよう」とやっていたのですが、当然それでは上手くいかないですよね。であれば、やはりヤフーらしいやり方がいいだろうと。ヤフーは基本的に広告の会社ですから情報が多ければ多いほどいいんです。そこで出店の制限をなくして、誰もがネットでモノを売れるようにしました。プレーヤーが増えればそこに広告を出すことができますから。後追いではなく、ヤフーにしかできないコマースを作りたいという思いがありますね。

 また、オークション事業については、リーマン・ショック以降は伸びが止まっていたんですけど、いまはリユース(再使用)を前面に打ち出してやっていこうと思っています。日本の社会全体でもっとリユースをやるべきだと思うんです。環境にもいいですし、何よりもモノを大切に使うということはやっていて楽しいですよね。ネットはこのリユースを普及させるための最高のツールだと思います。それと1月には福岡のヤフオクドームで初めて大きなフリーマーケットイベントもやる予定です。ネットもリアルも分け隔てなく、リユースを促進していきたいですね。

――続いては新戦略を発表した広告事業について。ヤフーでは広告をどのように位置づけ、今後はどうあるべきと考えているのでしょう。

 広告はヤフーの業績を引っ張るもっとも基盤となる事業です。ただ、あくまでひとつの手段であって、本当にやりたいことはクライアントにとってのマーケティングの課題を解決することなんですよね。何か事業をしたことのある人の8割くらいが抱える最大の悩みが「人が来ない」ことだと思います。恐らくこの問題は数百年以上前からあって、その解決策のひとつとして広告があったのだと思います。ですので、この先も数百年続く事業なのではないでしょうか。そして手を変え品を変え、最新のテクノロジーなどが使われて、時代にあわせてトレンドも日々変化していくのだと思います。

 その中でいま大切だと思っているのが、“テクノロジー”と“アート”を兼ね備えることだと思っています。アート重視で感性ばかりに訴えても駄目ですし、データサイエンスに偏りすぎてもよくない。本質的には人を相手にするビジネスなので、この両方を使って人の右脳と左脳に訴える広告事業を組み立てていくのが大切だと思います。なので、DSPのような極めてデータドリブンなサイエンス重視の広告を展開する一方で、「進撃の巨人」のジャック広告のようなアートやアイデアもすごく大切だと思っています。

――広告について少し長いタームで考えると、今後はいかに質の高い個人情報を保有して、それぞれのユーザーに最適な広告を配信できるかが、勝負のポイントになるのではないでしょうか。

 もちろん質の高い情報を持つことは大切だと思っています。データはエンジンを動かすガソリンのようなものなので、そのデータがないと非常に燃費が悪いですよね。いまは情報が爆発的に増え続けていて、スマートフォンの普及によってその速度も上がっています。大学時代に読んだ本で、すごく印象に残っているのですが、1980年台の一般的なニューヨーカーと17世紀のイギリスの知識人が1日に摂取する情報量は、ほぼ同じなんだそうです。つまり人が理解できる情報量には限界があるんですね。人の脳の処理速度は変わりませんから、増え続ける情報量とバージョンアップしない自分の脳のギャップをどう埋めるかという問題があって、そうなるとパーソナライゼーションは必要ですよね。これは広告もコンテンツも同じだと思います。

――2013年7月にID・ポイント連携を開始した、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)もリアル店舗での個人情報を保有している企業です。

 情報の取り扱いについてはかなり慎重です。ヤフーではユーザー情報を「個人情報」と「属性情報」で分けて話すようにしています。個人が特定されているものが個人情報で、いわゆるCookieなどの情報が属性情報ですね。やはり社会的慣習として、いろいろな会社の属性情報が紐付いていくと個人が特定できてしまうのではないかという恐怖や、そこに対する社会的な受容性がまだはっきりしていないところもあるので、CCCとIDは連携していますが、それを生かしてターゲティングをするというところまでは進んでいませんね。

 技術の進化によってパーソナライゼーションなどが可能になる一方で、人の感情って同じ速度でついていかないと思うんです。よく、その速度についていける人がITリテラシーの高い人で、それ以外の人は情弱って切り捨てられたりするのですが、そういう問題でもないと思うんです。先ほどもお話しましたが、やはりテクノロジーの進歩の速度ほど、人の脳はそんなに簡単にバージョンアップするものではないので、そこは寄り添いながらやるしかないと思いますね。

――2013年は“スマホファースト”のサービスやアプリも続々とリリースされました。

 ヤフーの2013年のテーマがビックリするようなサービスを作るということで、40くらいサービスを出すことができましたが、その中から世の中をビックリさせるようなサービスが生まれたかというと、全然そんなことはないですね。ただ、1~2年ですぐに生まれるとは思っていないので、引き続き継続課題として取り組むべきことだと思いますね。新体制になる前は、アプリを作る以前にブラウザのスマートフォン化も全然進んでいなくて、ややもすると「スマートフォンは面倒くさい」みたいな感じもなくもなかったのですが、最近は社員にもスマホファーストが浸透してきているので、それはこの1年半での大きな成果ですね。打席に立つことの面白さを感じてくれて、みんなスマホ版のサービスをバンバン作り始めているので、あとは場外に飛ぶかですよね(笑)。

――この一方で、いくつか終了したサービスもありました。

 ヤフー番付というものがあって、Y1、Y2、Y3、Y4とカテゴリ別けしているのですが、基本的にはY4のサービスは閉じていく方向で考えています。もちろん、それぞれのサービスにはユーザーがいるので、なくなる際には「すごく残念だ」とお叱りを受けるのですが、やはり業績も含めて縮小していくところに社員を置いておくのはもったいないと思うんです。成長している事業でこそ、得るものは大きいし人は伸びると思うので、できるだけそういう環境に移してあげたいと思っています。

――終了したサービスの多くがPC時代のサービスだったように思えます。これまではポータルサイトとして利用されてきたヤフーですが、スマートフォンではどう戦うのでしょう。


 実は2000年頃からポータルサイトという言い方はやめていて、“インターネットメディアカンパニー”になりたいと言ってきました。よくヤフーは玄関(入り口)が強いからサービスが強いよねと言われるのですが、それはまったくの逆で、検索やニュースなど、玄関の先にある1つ1つの部屋(コンテンツ)がそれなりに強いサービスの集合体だからこそ、結果的に玄関も強いんです。ただ、スマートフォンだとアプリが中心になって玄関すらいらなくなる可能性もあるのですが、結局やるべきことは入り口に頼らずに目的地であるコンテンツをナンバーワンにしないと生き残れないのだと思います。

――スマートフォンになるとポータルに変わるキーワードとしてSNSなどの「タイムライン」を挙げる人もいます。ヤフーでもカカオトークを提供していますが、この点については。

 パーソナライズされたタイムラインは見せ方としてはすごく面白いですし、これからも増えていくのではないでしょうか。ただ見せ方というのは日々変わっていきますので、その手前にあるずっと変わらない価値を提供することが大切だと思っています。たとえば、明日の天気とか株価とかスポーツの結果とか、そういうニーズはネットが登場する前からあるわけですよね。恐らくこれは今後も変わらないと思いますので、まずはそこに対してしっかりといいサービスを作って、その時々に応じた見せ方をするということだと思いますね。

――スマートフォン領域では「LINE」が急成長しており、ニュースやEC事業に参入するなどヤフーを意識しているようにも思えます。同社についてはどう捉えているのでしょう。

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