月に10億人以上が利用し、1分間に100時間もの動画が投稿されている世界最大の動画共有サイト「YouTube」。 同サイトで料理のレシピ動画を投稿し、多くのファンを抱える日本人女性がいる。「ochikeron(オチケロン)」のハンドルネームで活動する西村亜美さんだ。
どのような動画を投稿しているのかは、実際にこちらを見て欲しい。
このように、彼女はすべての工程を英語で説明しながら調理し、そこに字幕をつけている。つまり日本ではなく海外のユーザー向けにレシピ動画を配信しているのだ。料理のジャンルも巻き寿司やタコ焼きといった一般的なものから、ラーメンケーキやキャラ弁などユニークなものまで幅広い。11月25日時点で公式チャンネルの投稿動画は250本を超え、ファンは約27万人におよぶ。
なぜ、彼女は日本ではなく海外をフィールドに選んだのか、またどのような動画が海外ユーザーには人気があるのか。11月19日に台湾で開催されたイベント「A Day with Google」で、各国のメディアに料理のデモを披露していた西村さんに聞いた。
2011年3月11日に起きた東日本大震災です。その時、私は東京にいたのですが「自分も死ぬかもしれない」と本気で思いました。震災を機に自分には何ができるかを考えた時に浮かんだのが「得意なもので日本の文化を世界に伝えたい」ということでした。そこで当時勤めていた商社をやめて、レシピの動画を作ることにしたんです。突然仕事をやめてゼロから始めるというのは何かきっかけがなければできません。やはり震災のショックが大きかった分、逆に動き出すための原動力になりました。
3年半ほど米国の大学に留学していたのですが、ずっとクリエイティブな仕事に就きたいと思っていました。そこで、アートとビジネスマネージメントという、全く違う2つの分野を専攻して、それらを組み合わせて広告代理店で働きたいという夢があったのですが、世の中そんなにうまくはいかないもので、どこにも受かりませんでした。それで商社に入社することにしたんです。
ただ、商社で働いていた頃から、よく趣味で料理のレシピコンテストに参加していました。クックパッドや食品メーカーが主催する「○○を使ったレシピ」みたいなものですね。懸賞に応募するのも好きだったので、コンテストで炊飯器がもらえたりすると嬉しくてずっと参加していたのですが、その中で「料理って実はクリエイティブだな」と思うようになっていったんです。
そして震災が起きた時に、自分ができることを考えたら、それが料理でした。英語も少しは話せるので、自分の足跡というかこれまでやってきたことを残したいという思いがあって、すぐにそういうことができる場所がYouTubeだと思いました。
撮影場所は自宅のキッチンです。ビデオカメラはキヤノンのiVISを使っていて、編集にはiMovieなど無料のソフトを使っています。
必ず毎週火曜日と金曜日に投稿するようにしています。今は結婚していて完全に趣味でやっているので、宿題のような感覚で、締め切りを決めることが継続するには大事だと思っています。体調が優れない日は集中するのが大変ですけど。
すべて1人でやっているので、撮影に1日、編集に半日かかります。なので、今回のイベントのように外出する時は事前に動画を用意しないといけない。それが一番大変で、出掛けるにも計画的にしないといけません。でも、いまはFacebookなどのSNSで友達ともつながっているので、外に出られないこと自体はまったく辛くはありません。今の時代だからこそ、この生活はできるんじゃないかと思いますね。
これまでに250本近く投稿していますが、ネタが被ったことはないですね。YouTubeのいいところはファンの数だけ意見が増えるところです。実は今回のイベントでもオーストラリアのユーザーからリクエストされたベジマイトを使った巻き寿司を作っています。普段はパンに塗ったりする調味料で味が苦手な人も多いんですが、意外と寿司とは合うんですよ。
海外の人は日本の「カワイイ」がすごく好きなんです。なので、少しでも多くの人に見てもらうために、選ぶ料理や盛り付けにも、そういったニュアンスを入れることは意識していますね。
あとはやはり海外の人だからこそ喜んでもらえるようなレシピですね。たとえば、オリジナルの「東京ばな奈」を作ったことがありました。東京ばな奈は、外国人からすると凄く有名な日本のお菓子らしいんです。でも日本人にとってはお土産のイメージが強いし、わざわざ作ろうとは思いませんよね。それにもちろんレシピも公開されていませんし。でもだからこそ、海外の人の夢を叶えるじゃないですけど、見る人を常に楽しませたいと思って、変わったレシピも作るようにしています。
交流はあるんですけど、みんなそれぞれ違う目的でやっているので、意外と話が合わなかったりします。私のように趣味でやっている人もいれば、投稿すること自体を仕事にしている人もいるので。なので、クリエイターは一匹狼の人が多いんじゃないでしょうか。
でも、それでもいいのがYouTubeなのかなと思っています。社会では協調性が重視されますが、YouTubeでは自分が作った動画をいいと思った人だけが支持してくれる。私の場合は料理と英語でしたが、自分の得意なことを足していけば、誰でもきっとすごくユニークでいいものができると思います。だから「自分には取り柄がない」と思っているような人にこそ、まずは投稿してみてほしいですね。
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