栗川敦子(編集部)
2007/05/15 18:03
2006年9月、ナイキジャパンは、特定シューズの素材やカラーを自由にカスタマイズして購入できるサイト「NIKE iD」のマーケティングの一環として、YouTubeに「NikeCosplay」という動画を公開した。
秋葉原のど真ん中で、戦隊ヒーロー「アキバマン」たちが、グレーのスーツに身を包んだ地味な男性を追いかけ回し、囲い込んで全裸姿に。戸惑う男性にアキバマンの1人がアキバマンスーツとナイキのシューズを手渡し、それを身にまとうと男性は一転して笑顔になる……。
こうしたストーリーのNikeCosplayは、ブログやSNSなどのクチコミマーケティングの一環として、トレンドに敏感で情報収集力に長けたインフルエンサーを対象に公開された。この動画は、ブログやSNSに加えて、派生したパロディなどを通して話題を呼び、現在までに視聴回数は80万を超えている。
5月10日に開催されたネットマーケティングに関するイベント「Internet Marketing & Creative Forum 2007」(宣伝会議主催)の中で、ナイキジャパンのマーケティング本部でNIKE iDマネージャーを務める簑輪光浩氏は、ジャーナリストの佐々木俊尚氏との対談で、NikeCosplayを中心とした今回のマーケティングの手法や、その舞台裏などを明らかにしている。
簑輪氏は、今回のマーケティングの目的について、Nike iDの認知度向上という目的に加えて、効率的な資本投資、「Buzz to Biz」という目的もあったと説明している。また簑輪氏は、NikeCosplayを制作するにあたって「クチコミを誘発するには、信憑性を疑いたくなる“謎めき”や“毒”が重要である」ことを念頭に置いたとしている。
「面白いだけでは、ただでさえ期待度の高いYouTubeの中では注目されない。また、特定言語を使用してしまうと世界へ向けたメッセージが薄れてしまうため、今回のNikeCosplayにおいても、台詞はほとんど盛り込まれていない」(同氏)
このようなポイントを押さえて制作されたNikeCosplayは、当初の目的通り、効率的な資本投下のもとでクチコミを誘発し、「NIKE iDの認知度を飛躍的を向上させることに成功した」(同氏)という。
同氏はまた、NikeCosplayが成功した秘訣として、骨太な企画、細かい演出、社内を通す近道、チームワーク、遊び心を挙げている。
NikeCosplayを制作するにあたって同氏は、「企画案自体は2006年2月頃から考え始めた。ダンボールを敷いた上でブレイクダンスを踊るなど、細かい“突っ込みどころ”を盛り込んだ演出も含め、数カ月に渡って考案していった」と、細かい演出が心掛けたことを説明する。
加えて同氏は、「しかし何よりも良かったのは、プロダクトやブランドコンセプトを広告代理店がよく理解してくれたために、軸がブレなかったことだ」と、企画そのものが骨太だったことが成功につながっていると見ている。
こうした新しいマーケティング手法はいざ実現するとなると、企画を社内で通すためには、何かと問題を起こしやすい。ここで、社内を通す近道が重要となる。この点について、企画を社内で通すために、同氏は「事前に理解と権力がある人に頭を下げた」ことを打ち明けている。
さらに、ブログを中心としたクチコミマーケティングでは、ブログでの“炎上”リスクが常に伴う。今回展開したマーケティングに、そうしたリスクが内在することを認識しており、「(企画に対して)まだノーと言えるギリギリの時期に法務へ調整を行った」(簑輪氏)ことも明らかにしている。
対談の中で蓑輪氏が強調したのは、今回の成功がチームワークによるところが大きいという点だ。
「クライアントという立場を利用して威張りたくなかった。代理店やプロデューサーだけじゃなく、メイクさんやウェブサイトを作ってくれているスタッフともフラットな関係構築を努め、みんなで作っていくという感覚を出すことに尽力した」
しかし、クチコミを誘発することだけがNikeCosplayの目的ではない。クチコミが実際の売り上げ増加といった形につながる「Buzz to Biz」も重要である。
同氏はこの目的を果たすため、NIKE iDのサイトを単なるECサイトではなく「遊んで、学習して、買ってもらえるサイト」にすべく、アキバマンスーツをカスタマイズして遊ぶページを設けて、購入までの敷居を下げる工夫を行った。この工夫が売り上げの向上にもつながっているという。これが成功の秘訣である遊び心だ。
簑輪氏のこうした説明に対して、佐々木氏は次のように解釈する。
「クチコミマーケティングにおいて、“こうすればいい”というような成功法則がまだ確立されていない中、NikeCosplayは口コミマーケティングの成功伝説となるだろう」
また、炎上のリスクを常にはらんでいるクチコミマーケティングでは、今回のような成功事例を聞いて、「その皮膚感覚を知ることが重要」とも佐々木氏は語っている。
NIKE iDで炎上が抑えられた理由について、蓑輪氏は「ナイキであることを隠さず可視化していること」「コマーシャリズムではないこと」――という2点を挙げた。それに対して佐々木氏は「このケースがすべてのクチコミマーケティングに当てはまるわけではない」と釘を刺すとともに「クチコミを誘発するには親和性をもたらすラフさとライブ感が重要」と述べ、「慎重な媒体選定を行い、最後はユーザーの良識を信頼するのみだ」と提言した。
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