年明け初めてのエントリーになる。遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年もなにとぞよろしくお願いします。
鏡開きまで済んだ後にこの挨拶だ。どうも間が抜けてしまうかもしれないが、僕にとってはそれほど見当外れな感じはしない。今日が修士論文の締め切り日であったからだ。締め切りが迫る正月を正月気分で過ごすことが出来なかったので、感覚としては提出し終わった今日が元旦である。ひとまず1月13日を元旦として3日間、初詣に行ったり売り切れ間近の福袋を他所で物色したりと、10日遅れの三が日を楽しみたいと思っている。
僕に限らず、SFCにいる修士2年の学生は今日で一段落して、2月初頭の最終発表までつかの間の余裕ができる。一方、卒業論文を抱える学部4年生はまだまだ山が続く。提出日である1月31日までは必死で論文書きに追われるのだろう。もちろん他の学生だってレポートや試験やプレゼンテーションが押し寄せる学期末の季節である。学期始めの4月や10月に続いて、キャンパスには普段よりも人の多い日々がやってくるのだろう。
ところで僕の修士論文だが、あっという間に200ページになってしまった。とにかくたくさんの文字を一気に書いたものだ。文章をたくさん書くのはBlogなどを通じて慣れてはいたものの、論文を作る過程において慣れないことをした。それは印刷である。昨年末のコラムでプリンタを新調しておきながら印刷をしない、というのも変な話だし、一般的には論文と言えば紙という印象があるかもしれない。
ところが、思い返してみるとSFCでは印刷はおろか紙に触れずに生活を送っていくことも可能だった。例えば日々の授業資料はPowerPointやPDF形式のファイルがキャンパスのネットワーク上に置かれ、学生達は手もとのノートPCからその場で資料をダウンロードして手もとでめくっていくのだ。見づらい縮小版のスライド配布資料よりもはるかに見やすく、PowerPointであればノート欄に自分のメモを追加することもできる。そして何より、紙を学生の人数分使わなくて済む。
またSFCにあるレポートシステムは、課題で提出するレポートからも紙を奪い去った。学生は、どこにいてもレポートシステムに対してメールやセキュアなウェブサイトを通じて課題を提出できる。課題はメールやウェブのフォームにテキストをそのまま入力する方法に加えて、Word、PowerPoint、PDFなどの添付ファイルで提出することもできる。そのため、事務室や先生の研究室にある提出ボックスにレポートを持って駆け込む必要もない。
採点もペーパーレスになった。レポートシステムから提出されたファイルは一括ダウンロードできて、自分の手もとのディスプレイに表示させて課題を読むことができる。そうなってくると、今までは印刷した際の読みやすさを基準にレポートの制裁を整えていたが、これからはコンピュータのディスプレイに表示させたときに読みやすいようなテンプレートを用いた方がよいということになる。レポートの書式や誌面構成までも、ペーパーレスのキャンパス環境に置いては変わりそうだ。
ペーパーレスの極めつけは学部の卒業論文である。修士論文こそプリントして提出する規則になっているが、僕が学部の卒業論文を書いて提出したフォーマットはHTMLであった。ウェブサーバにアップロードして閲覧できるようにして、そのURLを専用のフォームに登録すれば提出完了となる。僕の場合はHTMLでドキュメントビューアのようなインターフェースを作って(といってもフレームを組み合わせただけだが)文章を流し込んだし、研究室の友人はWikiを用いたりBlogのエントリーにまとめたり、Flashで作り込んだ学生もいた。やり方は様々だったがとにかく皆が紙に出力せずに提出を済ませていた。そんなキャンパスで僕の200枚にもなる論文は、なんて環境に良くないのだろうと思ってしまう。
罪悪感を覚えつつ今もバックグラウンドで印刷が続いているが、紙をしばらく使わないでいると、気付くことがいくつかある。それはどれも当たり前のことだが、一度印刷したりボールペンなどで書いたりしたものはやり直しがきかないということだ。プリントアウトした後で誤植を発見したら、コンピュータの画面ではすぐに直せるが、紙の場合はもう一度そのページをプリントアウトし直さなければならない。
コンピュータの上での文字や画像は自由に書いたり消したり、位置を移動させたりできる。ショートカットを利用してクリップボードも大いに活用しているが、紙ではそう言うわけにはいかない。
さて1枚の白紙を前にして気付くことをもう一つ挙げると、それは自由度の高さだ。これも当たり前のことだが、紙にペンを走らせれば、多少絵心がなくてもイメージをそのまま絵として残しておくことが出来る。コンピュータでも描画ソフトを熟練すれば同じようにすらすらと絵を描くことが出来るかもしれないが、誰でも気持ちよくかけるという感覚にはならないのではないか。残念ながら僕が書いた200枚の紙にはその気持ちよさを生かしたページは1ページもなかった。
また、久しぶりに大量のドキュメントを印刷して実感したことだが、プリントアウトは時間がかかる。データなら作ったその場でファイルに保存して提出することもできるが、プリントはそう言うわけにはいかない。コンピュータ上でファイルができあがれば片づいたも同然だと思うのも、ペーパーレスのキャンパスならではの考え方だろう。200ページのプリントコマンドを出してからこの文章を書き始めたが、いまだにプリントし終わっていない。紙を使わない環境に優しい日常感覚が、論文を提出し損ねる事態を招くことにならないように気をつけなければならない。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」