最終更新時刻:2008年10月8日(水) 12時27分

脳を繋ぐテキストチャット、空間を繋ぐビデオチャット

松村太郎

2004/07/29 10:00  

 SFCの学生はとにかくキーボードを打つのが早い。カット&ペーストぐらいの動作はショートカットでやるのが当たり前だし、人と話ながらだって文字を打っていられるくらいだ。これはメッセンジャーによるトレーニングの効果が出ているからだと以前の記事で触れた。まずはそのトレーニング風景を紹介しよう。

 夜11時頃に帰宅して、コンピュータの電源を立ち上げ、届いているメールをチェックする。パソコンを起動すると同時にメッセンジャーにもログインしているので、まず1人から話しかけられる。 他愛もない会話をしているうちに、自分にメールをくれていた人がメッセンジャーにログインした事が小窓で知らされ、小窓をクリックしてメールの返事をメッセンジャーで返す。これで2人と会話状態になる。

 ステイタスメッセージで自分の状態を簡単に表現していると初回記事で紹介したが、これらも話しかけられるきっかけになっている。いわばチャットの定置網のようなものだ。見ているテレビ番組や聴いているCD、つまんでいるおやつ、眠さの度合い、先生や友人に言われた言葉などをステイタスに表示しているとそれ反応した人が話しかけてくる。

 先日、僕の後輩が、指導教官に言われた「君は4.5年生になる気がする」という言葉を、ステイタスメッセージに設定した。SFCでは春入学・卒業だけでなく、秋入学・卒業もあるため、4.5年生ということは半期卒業が伸びるという意味だ。ステイタスメッセージを設定した直後に4人から、その後ログインするたびに1人、また1人と声をかける人が増えていき、1日で10人以上から励ましのメッセージをもらったそうだ。それだけお互いのステイタスメッセージをよく見ているし、軽く反応してコミュニケーションを取る振る舞いをしている。

 このようにして同時に会話をする人数がだんだん増えていき、20分もすればすぐに4人〜5人とチャット状態になる。もちろん全てがずっと継続するわけではないし、密な会話やインターバルが長い会話などいろいろあるが、同時に4人と会話をするというのはなかなか大変なものだ。1つのウインドウに応えて次、また次、と順々にウインドウに会話を書き込んでいくが、書き込んだらそれへの返事がまた返ってくる。そうやってメッセンジャーの会話ウインドウをぐるぐる巡回しながら入力を繰り返す。

 そうしていると、ちょっとでも反応が遅くなると会話の先を越されたり、間が空いて会話がとぎれてしまったりして、コミュニケーションが成り立たなくなってしまう。あるいは面白い事を言おうとしたら、自分で会話の流れを作らなければならない。そのためには、ある程度の誤変換もお構いなしに、反射神経的にキーボードを叩く必要がある。この状態を僕は以前から「脳みそと指先が直結している状態」と言い表しているが、多くのSFCの学生は考えた事がそのままタイピングされているようなスピード感あるタイピング方法を体得していくのだ。

 ここまでくると、授業やミーティングのログ取りやテープ起こしは、頭に残っているかどうかは別として、ほぼ聴いたままテキストに残す事が出来るようになるし、キーボードからのタイピングを全くいとわなくなってくる。SFCの学生がどちらかというとケータイメールでの連絡を避けがちになるのは、料金がかかるという理由と共に、パソコンの方がタイピングが楽だからという理由もあるのではないか。

 ところで最近使われ始めているのが音声チャットやビデオチャットだ。WindowsではMSN Messengerで、MacではiChat行う事ができる。ウェブカムがなければノートパソコン内蔵のマイクとスピーカーで音声チャットが、ウェブカムあればビデオチャットが楽しめる。音声やビデオのチャットを行う前に、テキストで一言「今からビデオチャット出来ますか?」と呼びかけてから接続する。これはケータイに電話をかける前にケータイメールで「電話していい?」と訪ねるのと似ている。

 自宅でビデオチャットをしている場合は自分の顔を映す。やってみると分かるのだが、テキストのチャットをしているよりもとても楽だ。いくらタイピングになれているとはいえ、人に話を伝える時に指を動かすよりも口を動かす方が楽だと言う事だろう。映像があるからといって相手の顔が映っている画面を常に見ているではなく、視線はディスプレイの他のウインドウにあったりする。それでもビデオチャットを使用するインセンティブはどこにあるのか。

 これを紐解く事が出来そうな経験をした事がある。以前グループワークの時に、他のメンバーはキャンパスで集まっていて、僕だけ自宅にいるという状況になった事がある。このシチュエーションでビデオチャットをしながら作業をしようとした。僕の側にはグループワークのメンバーがパソコンに向かっている様子が映し出され、誰かが何かを喋る時も、誰が喋ったかが確認できる。キャンパス側には1台のパソコンに僕が映っていて、僕が何か喋ると聞こえるようになっている。

 ここで共有されたのは映像や音声というよりは、空間だったのではないかと思った。集まって作業をする事に意味があるとすれば、ビデオチャットを繋ぎっぱなしにしてある事によって、2点間の空間が共有されている感覚を覚えた。テキストチャットでは、キーボードを介して脳みそが直結されるとすれば、ビデオチャットでは空間が繋がれた感覚になる。そう考えると、1対1でビデオチャットをしているのにお互いの顔をあまり見ないで会話をしているのも納得できる。

 同じように映像で通信するメディアにテレビ電話がある。「ケータイでテレビ電話を実現するのは通信屋の夢だった」とはPHS開発を担当したSFCの小檜山賢二教授の言葉である。多くの場合は内側のカメラで自分の顔を映しながら会話をしているが、実は内側のカメラではなく外側のカメラの映像を見せてあげた方が良いのではないか。ケータイでビデオチャットのように空間を繋ぐ感覚が得られるかどうか、試してみる価値はあると思う。

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