前の記事でSFCで最も有効な連絡手段はメッセンジャーである事を紹介した。学生はそのメッセンジャーとどのように付き合っているのか。僕がアシスタントをしていて1年生・2年生が多く履修している情報通信文化論で「メッセンジャーとは何か?」という課題が出た。教室でディスカッションが行われたので、そこで出された意見を見てみよう。
メッセンジャーを使い始めた1年生は揃ってその中毒性の高さを指摘している。学校にいる間、家に帰ってきてから、夜寝る前に、とサインインしてチャットを楽しんでいるそうだ。メッセンジャーによるコミュニケーションにかかる費用は無料。それまでケータイの料金を気にしながら使っていた学生にとっては魅力的だ。
距離感がなくなったと指摘も多い。学校の近くに下宿している学生は、なかなか会えない地元の友達にメッセンジャーを入れさせてコミュニケーションを継続したり、遠距離恋愛を続けていたり。あるいはメッセンジャーのビデオチャットをするようになってから、電話口では恥ずかしがっていた父親との会話が増えたと話す学生もいた。
議論の中で授業をしている教授は「私語が減った」と変化を語った。メッセンジャーで私語をいそしんでいるのではないか?この予想は見事的中していた。教室にいない友人や同じ教室内にいる友人とメッセンジャーで会話しているという意見が出された。出席を取る事が分かった時点で、他の場所にいる学生に教室に来るよう呼びかけているようで、「今日は出席を取ります」と紙が配られ始めると、教室に人が少しずつ増えたりする。
さらに教室内どころか、隣同士で座っていてもメッセンジャーで私語にいそしんでいるという学生は、「座席の前から順に発言を求められている状況で、自分の番が迫ってくる緊張を隣の席の友人と共有している」と授業中の会話のログまで披露していた。コミュニケーションの記録が残るメッセンジャーは、会話の様子を共有したりリマインドする際に便利だ。
一方はじめは中毒的にメッセンジャーを利用していたものの、熱狂的なマイブームが過ぎ去ったという学生が多かった。レポートを集中して書いている時に「取り込み中」の表示でもお構いなく話しかけられ邪魔をされたという学生、だんだん暇の象徴のようで恥ずかしいのではないかと言う疑問が沸いた学生。メッセンジャーによって自分の生活サイクルを乱されたと感じている学生の意見が目立った。
SFCではMSN Messengerがスタンダードなメッセンジャーソフトとして利用されている。日常的に邪魔されたくないが親しい仲間とは繋がっていたいという学生は、AIMなど他のインスタントメッセージサービスを登録して、普段からAIMだけを立ち上げているという使い方を始めている。メッセンジャーソフトの種類で友達を分け、しかも片方だけをデフォルトで使うという選別が行われている。
しかしそんな学生達も、ファイルを転送したい時、急ぎで連絡を取りたい時にはオンラインになるし、暇な時には定置網漁のごとく話しかけられることを期待してサインインしているという。新たに使い始めたコミュニケーションツールが、自分の中でのブーム的な盛り上がりから日常のツールへと切り替わって、丁度良い付き合い方を見出していく様子が見て取れる。
メッセンジャーに登録するのは様々な繋がりの人だ。入学当初に先生ごとに学生がランダムに振り分けられて作られるアドバイザリーグループの同級生や先輩後輩、授業の課題を共同作業で行うグループワークのメンバー、もちろんサークルの仲間も登録する。学年が進むと複数のゼミのメンバーも登録するし、学校外での活動があればその人たちも加えてコミュニケーションを取る。
そんなSFCで3〜4年生活していると、コンタクトリストにメンバーを追加出来なくなる事態を招く人が出てくる。MSN Messengerのコンタクトリストには、150人という登録上限があるようで、150人に達してしまうとそれ以上メンバーを登録する事ができなくなってしまう。それでもコンタクトリストに加えるべき人は増え続けていき、対応を迫られることになる。
最も簡単な対処法は、コンタクトリストから既に入っている人を削除する事だ。長く連絡を取っていない人、もう連絡を取る事はないだろうという人をリストから消せば、消した分新しいメンバーを追加できるようになる。しかしケータイの電話帳から番号を消すのがためらわれるのと同じように、本当にもう連絡を取らないか? もう自分にとって必要ないのか? という葛藤や、そもそもコンタクトリストから人を消すという行為自体にためらいを感じてしまう。
ProteusとiChat |
そこでマルチアカウントに対応したメッセンジャーの互換ソフトが使われている。WindowsではRegnessem、MacではProteusがある。これらのソフトでは、複数のアカウントに同時にログインして一つのコンタクトリスト上で管理できるようになっている。新たなアカウントを取得すれば、既存のコンタクトリストからメンバーを消すことなく、新たなアカウント上でメンバーを増やしていく事ができるようになる。
一方で、そんな葛藤をしているくらいなら、新たにメッセンジャーのアドレスを取得し直して、まっさらな状態から再びコンタクトリストを作り直した方がいいと平然という学生もいた。人間関係をあっさりとリセットしてしまおうという考えだ。もし自分が本当に必要ならば登録するだろうとのことで、コンタクトリストから必要ない人を削除するのが消去法なら、全く逆のアプローチである。
「メッセンジャーとは何か?」という問いかけで目立ったのは「タイピングソフトである」という定義。SFCの学生のタイピング速度はメッセンジャーで養われているのかも知れないが、そのタイピングソフトに時間を食われているというのも皮肉なものだ。
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