欧米製パッケージはビジネスモデルが異なる
新ITインフラが備えるべき要件として、(1)ベンダに依存しない、オープンな技術を採用すること、(2)インフラ上に構築する新規アプリケーションの品質を一定に保つこと、(3)高い開発生産性を実現し、経営や現場のニーズに迅速に応えること、などを挙げた。
エムアンドシーシステム システム企画本部 システム企画部 高橋純一部長 |
エムアンドシーシステム システム企画本部 常務取締役 佐藤元彦本部長 |
こうした要件を満たす基盤技術は、「J2EEしかなかった」(エムアンドシーシステム・システム企画本部高橋純一部長)という。.NETも検討はしたが、マイクロソフトというベンダに依存してしまう点が問題だった。「最適なタイミングで最適なシステムをリリースするには、基盤技術に縛られる事態は避けたかったのです」(佐藤本部長)と言う。
小売業向けのパッケージの導入も検討した。だが、「丸井独特のビジネスモデルに適合した製品はなかった」とのことだ。
欧米製が中心のパッケージ製品は、想定しているビジネスが違う。ビジネスプロセス自体は同じに見えても、目的が「いかに欠品を排除するか」という点に置かれている。これは、比較的少数のアイテムを大量に販売するGMS(総合スーパー)の考え方だ。
これに対して丸井は、膨大なアイテム数を管理してプロパー消費率を高めることが重要と考えている。丸井が取り扱うアイテム数は衣料だけで130万SKU(Stock Keeping Unit)と、他の百貨店に比べるとケタ違いに多い上、シーズン限りで追加調達できない商品が大半だ。これは、若年層をターゲットにした「ハイファッション」ビジネスだからだ。商品投入後の単品・店別の動向を敏感に察知し、好調店舗への商品移動、不調商品の追加生産停止、タイムリーな値下げなどの期中対応を行う事で調達した商品を早期に売り切るキメ細かなMDが求められる。こうした要求に応えるパッケージは存在しなかったため、自社開発することにした。
UMLautを採用人材育成にも威力を発揮
J2EEの採用を決定したものの、これまでの経験から、オープンシステムの開発には品質面のバラつきが大きな問題になると予想していた。そこで、ルールに基づいてJavaのプログラム開発をパターン化し、品質と保守性を向上させるフレームワークツールの導入が必要となった。
そんな時に、高橋部長はウルシステムズの漆原茂社長に出会った。そこで、「フレームワーク製品の機能だけでなく、自社の状況に合わせた開発標準の作成や、導入支援・教育体制といった運用面が重要だと理解しました」(高橋部長)。また、自社内にJava開発者が少ない状況も解決する必要があった。
ウルシステムズの「UMLautソフトウェア・フレームワーク」は、ソフトウェアと構築支援・コンサルティングといった人的サービスをセットにした製品だ。品質を保証できるだけでなく、Java開発者をOJTで育成することもできると考え、UMLautを基盤に採用した。
プロジェクトのスタートは2003年の春。丸井側の50名と、協力会社200名からなる開発チームを設置した。
J2EEという新技術を採用することもあり、リスクを分散するため段階的なカットオーバーを目指した。まず、2004年10月には共通インフラと情報系システムを稼働させる。その上で、2005年4月までに販売支援や商品処理、バイヤー業務・商品センター支援などの機能をリリースする。並行して顧客系システムも稼働させるというスケジュールだ。これだけの規模のシステムを、1年〜2年で順次稼働させるのだから、「すべてがチャレンジでした」(高橋部長)。
プロジェクトを推進する上での最大の課題は、要員のスキルにあった。ベテランエンジニアは丸井の業務に通暁しているが、Javaには明るくない。一方、Javaに強い若手エンジニアは業務に詳しくない。この混成チームをうまくマネジメントしなければならなかった。こうした点で、UMLautの果たした役割は大きかったという。
図は、新基幹システムの概念図だ。営業情報・単品情報分析システムにより、週次で型番単位の消化計画を自動生成。販売実績によって乖離をチェックし、アラートを上げる。また、販売実績を反映した店頭単品在庫数をリアルタイムで把握できる。これにより、売れている店舗に商品を移動するといった対応をとれるようになった。「現在の消費者は、商品情報を携帯メールで友人に飛ばします。人気のある商品にはすぐに顧客が殺到し、売り切れてしまいます」(佐藤本部長)。こうした消費行動に対応するには、リアルタイムの単品管理が必須というわけだ。
また、丸井が展開するプライベートブランド商品を生産進捗管理を、デザイナーやバイヤー、工場の間で共有することで、リードタイムを短縮。商品センターを経由する全梱包の所在もリアルタイム管理し、売場で働く販売員のPDAから照会できるようにした。
エムアンドシーシステムでは、新インフラによって、今後発生が予想されるIT化ニーズに応えていけると考えている。同時に、今回のプロジェクトの成果をパッケージ化し、他の企業へ販売していくことも構想しているという。
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