「たいしたことない自分」だから、本を書いた--梅田望夫氏講演:後編

永井美智子(編集部)2007年11月16日 18時43分

 11月14日、東京丸の内にある丸善本店にて、経営コンサルタントの梅田望夫氏が新著「ウェブ時代をゆく―いかに働き、いかに学ぶか」について語る講演会が開催された。この講演の模様の後編をお届けする。前編については「リアルの世界に生きる人は、ウェブ時代をどう生きたらいいのか--梅田望夫氏講演:前編」をご覧いただきたい。


たいしたことができなかった自分

 そろそろ2つめの、何で自分の話を書いたかという話に移りましょう。

 この本でも書いたとおり、僕はもともと数学をやりたかったんです。高校生のときです。でもだめだな、とてもじゃないけど一生やっていく根性や才能がなくて、向いてないなと感じました。

 それで、コンピュータサイエンスをやって、大学院まで行ったんですけど、周りは僕よりもコンピュータサイエンスに愛情を持っている人ばっかり。ハッカーだよね。とにかく愛情のレベルが違う。この人ほどはうまくいかないだろうなと思うと、24歳までやってきたことが全滅になるんです。

 その後紆余曲折あって、経営コンサルタントになりました。でも、その道一筋でやってきた人、たとえば大前研一さんのような境地にはいけなかったし、シリコンバレーでも限られた領域で専門性を持ってやっています。米国に住んで13年になるけど、インサイダーになったかというと、日本向けの案件をいろいろやっていることもあって、本当のインサイダーにはなれていない。

 ベンチャーキャピタルを始めたけど、1号ファンドの規模が2500万ドル(邦貨換算で30億円程度)。それはそこそこうまく行っているけど、本気でベンチャーキャピタルをやろうとするなら、次にその10倍のお金を集めてやってないといけない。でも僕にはそこまでのガッツがなくて、そこまで絶対勝てると信じ込めなくて、1号だけでとどまってる。本当のプロなら、ファンドの結果が出るまでに10年くらいかかるから、預かった資金が増えるのを待つ前に「増やすからまたお金を出してください」といって資金を集めないといけない。それをできないやつはベンチャーキャピタルをやる資格はないんですよ、本当は。

 そう考えたとき、45歳でたいしたことできなかったな、と残念な気持ちになりました。米国でインサイダーになって、シリコンバレーで創業して上場させた日本人もいるのに、それに比べて自分が何をやったかと言われたら、何もできていない。そういう総括の仕方しかないのは寂しい。

 残念な気持ちとは言ったけど、生き方に筋を通して一所懸命やってきた自信はあるんです。僕のようなRest of us(※編集部注:ごく一部の優れた能力を持つ人以外の人々。詳しくは前編を参照) 、似たような感慨を持ちながら生きている人は多いと思うんだよね。Rest of usの生き方があるとは誰からも教わってない。そういう道筋があるなんて。だけど、多くの人の人生はそんなものですよね。

 1つの道で突き抜けられる人って、なかなかいないよね。でも、そうでない人生って、1個の尺度で何やったか、たとえば羽生さんやイチローのようなすごい人と比べてどうか、って判断されちゃうと、頭抱えて逃げ出すしかない。だけど、逃げ出すほどくだらない人生かっていうとそうでもない。

 たいしたことできなかったな、と思ったからこの本を書いたんです。「自慢話を書いて」って言われるけどそうじゃない。

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