「たいしたことない自分」だから、本を書いた--梅田望夫氏講演:後編 - (page 5)

永井美智子(編集部)2007年11月16日 18時43分

――この本は大人の世代であれば理解すると思います。ただ、小中学校くらいの子どもでは正しく理解できない可能性があるので、そういった世代に向けて何かメッセージをもらえますか。

 茂木健一郎さんと書いた「フューチャリスト宣言」の付録に、中学2年生に向けて講演した内容を付けたので、それを読んでください。

 面白いと思ったのは、中学2年生に向けて喋ったことについては、「楽観的すぎる」とか「ばかじゃないか」とか言われないんですよね。シニカルな大人も、子どもには夢を語ろうというコンセンサスがあるらしい。それは新しい発見でした。

 中学生に向けて「これから世の中は良くなる」と言ってるけど、そんなに良くなるわけないんですよ、簡単には。でも、(ブログなどで)そう書いてきた人はいない。

 子どもに向けて言うべきことは、これからわくわくする時代がやってくるということ。嘘を言えとは言わないけど、良い面を伝えていくしかない。子ども向けの講演について批判がないのは自信になりました。

――池田さんのブログ(※編集部注:「池田信夫 blog」の「ウェブ時代をゆく」)は読まれましたか?

 Googleで検索すると検索結果の2番目くらいに出てきますね。頭で読むとああいう感想になるんだろうなぁという認識です。「ありきたりな内容で知っていることばかり、新しいことが何もない」というようなことが書かれていたのですが、ダメージはありません。

 池田さんは、非常にオープンソースも含めていろいろなことに詳しくて、本当に勉強されている先生です。だからあの感想はダメージではなく、良かったなぁというと嘘になるけど、何を思ったかというと、「ああ、書いていることは間違ってなかったんだなぁ」ということなんです。

 僕は本を出すのに非常に謙虚な気持ちを持っていて、自分が知っていることはあんまり多くないんです。オープンソースの開発者人口を300万人「に達する」のか、「しかいない」のか、そういうことを何度も推敲します。

 オープンソースの開発者人口が何人かなんていう調査結果はないから、自分で推定するしかない。もしそれが30万人とかだったら、本当に伝えたい3章以降のことが崩れてしまうんです。

 だから、僕にとって本当につらい指摘は事実誤認に関することです。自分のロジックを組み立てる根拠となるファクトで、僕が完全に間違っていることがある。ミスならいいけど、本当にロジックが完全に狂うような間違いの指摘があると一番つらい。

 池田さんは15分で読んで何も新しいことがなかったと書かれていましたが、彼の感覚で読んだときに間違っていることがなかったということ。これはありがたかったし、良かった。

――梅田さんは「けものみち」を生きるうえで戦略的に生きてこられたと感じます。個性を身に付けておけと書かれていましたが、ご自身で意図的にこういうふうにしたということがあれば教えてください。

 個性ではないんですよ、僕が言いたかったのは。個性で選ばれるのは大事なんですが、「けものみち」で本当に大事なのは人間性。人に好かれる性格、人との出会いを大事に生きていることの大切さを言いたかったんです。

 他人から選ばれる理由というのは、圧倒的に能力があるからとかじゃないんですよ。その人と一緒に仕事したら楽しいとか、ある場所に呼んだらいいだろうなとか、そういうこと。

 それは誰でも開かれているもので、つまり丁寧に生きるということなんです。そこを功利的にやったら駄目で、何十億人という人間の中で出会えた人たちとの一瞬を丁寧に生きるということ。

 能力を磨くことは大事です。でも、個性とか強みと呼ばれるものに関しては、自分が思っている以上に世間に優秀な人は多いんです。それだけで競争しても、いつまでたってもコモディティのままで終わる。本当に頭のいい優秀な人が多いから、僕はそういう意味で優越感を持ったことはあまりないです。自分を振り返ると、唯一、丁寧にこつこつやってきたなということだけですね。

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