文:Charles Cooper
翻訳校正:吉井美有
これで「Eric Schmidt氏は愚か者」ということになった。
「YouTubeを買う人がいたらその人の知性を疑う」と、テクノロジ業界の反逆児Mark Cuban氏は数週間前に公言していた。
Cuban氏は、広告主たちに向かってスピーチをした際に、YouTubeはとにかく訴訟リスクが高すぎると語っていた。たちの悪い弁護士に絶対に勝てる事例で訴えられたらそこで終わりで、大変な裁判に巻き込まれることになる。それに、YouTubeは一般視聴者のアップロードする映像で成り立っている会社であることを忘れてはならない。
ウォール街の連中は大喜びしただろうが、Googleは10月9日にYouTubeを16億5000万ドルで買収すると発表した。将来起こるだろう訴訟について、Googleは心配していないようだ。Googleは、自分たちほどに十分な資金力があれば、半永久的に厄介な訴訟に対抗できることを分かっている。一方で同社幹部たちは、検索ビジネスとソーシャルネットワークの活用をうまく組み合わせる方法があると信じている。
ならば、GoogleのCEO(最高経営責任者)Schmidt氏がそこまでひどい失敗をする、ということがあり得るだろうか。
わたしはGoogleの発表後Cuban氏に確認してみたが、彼は意見を変えていなかった(Cuban氏の詳細なコメントについては彼のブログを参照していただきたい)。
Cuban氏は賢い男で、このビジネスの仕組みもよくわかっている。彼は1999年にBroadcast.comをYahooに売却し、50億ドル以上を手にした。これは赤字経営のドットコム企業としては途方もない額だったが、当時はインターネットバブルの絶頂期だったため、多くの企業が世間を驚かすような派手な買収を行っていた。以来、テクノロジ企業は2度と同じ轍を踏むまいと誓っている(これについては後で触れる)。
この買収においてYahooは、深手とならなかったとはいえ、当然ともいえる結末を迎えている。一方、Cuban氏はまんまと売り抜けて巨額の売却益を手にしている(ちなみに、Yahoo経営陣はあまりに無知だったため、同じ年にGeoCitiesも28億ドルで買収している)。愚考の末に思えるこうしたYahooの決断も、125億ドルでLycosを買収したTerraや72億ドルでExciteを買収した@Homeに比べれば序の口だった。
しかし、今は事情がちがう。専門家がそう言っているのだ。
Schmidt氏は、今回の買収を愚かだとは少しも思っていない。彼は、報道関係者やアナリストとの電話会議で、今回の買収はインターネット映像革命の幕開けだとまで言っている。YouTubeの共同設立者Chad Hurley氏も、エンターテインメントの性質が変化していると熱っぽく語った。
しかし、そこまで興奮するのは時期尚早だ。現時点では、この買収による成果はPowerPointのプレゼンテーションの段階であり、まだまだ不確定要素のほうが多い。わたしは、どうもこうした大仰な予測を聞かされると懐疑的な気分になってしまう。シナジー効果で潜在的な売上高が向上するなどと言っているが、こういうケースは前にもあったのではないだろうか。YouTubeは、確かに現代エンターテインメントの将来を担う存在になるのかもしれない。しかし、現時点では、仕事を怠けてドジな猫の映像を見たりするサイトでしかない。
Googleの策略が功を奏すれば、もちろん、現代にマッチしたサイトになるだろう。故上院議員Daniel Patrick Moynihan氏に敬意を表したうえで言うが、アメリカという国のレベルを下げる行為はもう珍しくなくなった。YouTubeにアップロードされた映像の大半は、くつろぎのひとときを途方もなく浪費する存在なのだ。YouTubeがネット上で最も人気のあるサイトのひとつになっているのは果たして単なる偶然だろうか。
YouTubeは人々が欲しがるものを与えているだけじゃないかという声もあるだろう。もちろんそのとおりだ。Schmidt氏やHurley氏などの幹部たちは、将来を鮮明に映し出すことができる水晶玉でも持っているのかもしれない。これからはLonelygirl15みたいな映像が好まれる社会になっていくのだとしたら、Googleは今後数カ月か数年で、あと数十億は稼げそうだ。
そのとき、Schmidt氏は最も富裕な愚か者として歴史にその名を刻むことだろう。
著者紹介
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者
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