Wall Street Journal(WSJ)は先ごろ、ブログに関する数量化する試みについて記したコラムを掲載した。このなかには、ブログの数、ブログを読んでいる米国人の数、ブログから張られているリンクなど、関連するさまざまな結果が盛り込まれていた。
これらの質問の多くは、広告媒体としてのブログの可能性に興味を持つ米国の広告代理店各社によって出されたものだ。
広告媒体としてのブログの問題は、それがナローキャスティングである点にあると私は見ている。広告主はブロードキャスティングを好む。何とか続いてた頃の「Star Trek」シリーズのような、あまり視聴率の高くないケーブルテレビの番組でも、広告を出せば毎週300万人近い人々が観ることになる。それに比べて、ブログの場合は、「MyDD」のような人気ブログでさえ、週146,000ページビューを稼ぐのがやっとだと、Blogads.comは説明する(Blogads.comは、ブログ広告の推進と販売を行っているブロガーのネットワーク)。一方、「Technorati.com」のようなブログ検索企業は、他のブログから張られているリンクの数によって各ブログの人気度を計測している。
ブログの人気をどのように測るかという問題は多くの場合扱いが難しいが、広告媒体としてのブログの問題点はBlogads.comのHenry Copelandが考案した広告のネットワーク化(私はこれを「ブログキャスティング」と呼びたい)という概念によってすでに解決済みだ。
ブロガーをグループ化できれば、ネットワークを立ち上げられる。これは進歩的なブロガーのグループが既にやっていることだ。「Liberal Blog Advertising Network」は、ネットワーク全体で、週におよそ100万程度のページビューを一挙に稼ぎ出すことができる。広告は、ネットワークの各メンバーが運営しているすべてのブログに掲載されるため、一種のブロ―ドキャスティング(ブログキャスティング)になる。ブログの読者数は明らかに増えているので、こうしたネットワークはまもなく、リーチ度という点では最低でもケーブルテレビと争えるレベルになるだろう。
Carl Bialikの手になるWSJのコラムによると、広告主によってはページビューよりも広告を見た人の数を知りたがるという。同じ人間が週に2回以上広告を見ているのに、その延べ回数に応じて広告料を払いたくないからだ。そもそも、ページビューというものが何を測定しているのか誰も正確には知らない。ページビューはブラウザがサイトにアクセスするたびにカウントされる(私のサーバーでは、どういうわけか参照回数--つまり私のサイトを訪問したブラウザの数がページビューよりも多くなっている)
多くの人々が大学のコンピュータ室、インターネットカフェ、オフィスの共有コンピュータでブログを読む。結果として、1つのIPアドレスからしかアクセスがなくても、場合によっては、それが1日で数十人の人たちのアクセスを意味することもある。その上、私の理解では、Comcastなど、大半の大手サービスプロバイダは、1人の顧客が最初にアクセスしてきたときにページをキャッシュし、以降はキャッシュ内のページを表示しているはずである。このため、多くのブログ読者がそのブログが置かれている大元のサーバーまで読みに行かない。つまり、これらのアクセスはまとめて1回とみなされる。もちろん、ブログの特定のエントリをそっくりコピーして、広告ごと友人にHTMLメールとして送ることもあるだろう。この場合も、その広告は複数の人間に読まれるにもかかわらず、1回と数えられてしまう。
こういったあらゆるケースを考慮すると、実際に広告を見た人の数を測定するのは不可能である。それでも、Technorati.comのようなツールとページビューカウントの中間あたりをとれば、実際に広告を見た人のおよその数を見積もることができ、ビジネスモデルとして機能するのではないかと私は見ている。
ところで、ブログ広告がこのメディアを堕落させてしまわないだろうか。
それについては私はあまり心配していない。
私は、従来の営利を目的としたニュースメディアが、広告よりも合併統合によってはるかに大きな害を被ってきたと見ている。合併すると、複数のニュースサイトが、数社の大手メディア企業に所有されることになるからだ。ニュース部門が15%の利益を上げるべきか、それとも赤字覚悟でもニュースの中立性を優先するかを判断するのは編集者の仕事である。CBSニュースはBill Paleyの時代にも広告を出していたが、当時、同社は規模も大きく、広告主に依存しない比較的独立した経営をしていた。しかし、わずか5社のメディア企業のCEOが実質的にテレビニュースの内容に関するすべての意志決定を下し、しかも5社がすべて敵対関係にあれば、各CEOは(スポンサー寄りの報道で)ニュースの中立性を犠牲にしても自社の利益を優先する可能性が非常に高くなるだろう。
しかし、ブログは参入コストが非常に低いため、ブログサイトの統合など決して起こらない。ブログは常に分散したメディアであり、従ってコントロールするのが非常に難しい。広告主に著しく依存した専業ブロガーが現れて、特定の話題について触れなくなったり、広告主寄りの立場をとるようになったとしても、スポンサーの縛りのない非専業ブロガーがすぐに現れて自由にものを書くようになるだろう。企業メディアがいくつかの著名なブログを買い取ったとしても、そうした企業は、企業に依存しない何百万というブロガーを敵に回すことになる。そうした独立したブロガーの1人が読者がほしがるコンテンツを提供すれば、トラフィックはそちらに流れてしまうだろう。ブログの世界では、何らかの検閲をかけると、そうした検閲から自由な他のブロガーに機会を与えることになる。
技術的な制約がある上、コストも高くつくため、新しく24時間のニュースチャンネルを立ち上げるのはほどんど不可能だ。しかし、ブログなら誰でも始められる。そのうち専業および非専業ジャーナリストの共同組合が出現して、ポッドキャスティングや、さらには映像のWebキャスティングなどを行い、最終的には、現在のブロードキャストニュースの部分独占状態を打ち破ることになるのではと私は予測している。
したがって、広告に関してはブログキャスティングという手法をとり、同時に広告に依存しない多くのブログも生き残っていくというのが最善のように思える。
そして、広告のブログキャスティングがついに広告料の問題を解決することになるかもしれない。現在のブログ広告の料金はあまりにも安すぎる。ブロガーは、ブログと同じくらいの読者数を持つ小さな街のタウン紙に小さな三行広告を掲載する程度の料金で、第一面(トップページ)の広告枠を提供しているのだ。
筆者略歴
Juan Cole
ミシガン大学歴史学教授であり「www.juancole.com」に毎日ブログを公開している。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」