オープンソース特許をめぐる難問

 ソフトウェア特許をめぐる戦いのなかで一番新しい戦術は、オープンソースのソフトウェア開発者に特許の無償利用を認めるというものだ。だが、こうした動きに出ている企業は本当に「羊の皮を着た狼」なのだろうか。

 ソフトウェア特許をめぐる動きはこれだけではない。欧州で提案されているソフトウェア特許が承認されれば、米国と欧州でソフトウェア特許侵害訴訟が次々と起こり、オープンソースコミュニティだけでなくプロプライエタリなソフトウェアにも影響が及ぶ可能性がある。

 これらの動きについて詳しく見てみよう。

 Sun Microsystemsは先ごろ、オープンソース開発者向けに自社のソフトウェア特許を公開した。ただしこの公開は条件付きであった。つまり、公開された約1600の特許は同社のCommon Development and Distribution License(CDDL)でのみ使用を許可するというのである。このSun独自のライセンス規定はLinuxで使用されているGPLとは異なる。

 したがって、Sunは、表向きはオープンソース開発者にソフトウェア特許を公開すると言いながら、実はSolarisではなくLinuxの開発に取り組む者を訴えることができる。この独自のオープンソースライセンスがMozillaで使用されているのと同じライセンスから派生したものであるというのは、何とも皮肉なことである。

 ただし、Sunと違って、Mozillaの開発者らはそのほとんどのソフトウェアを独自のライセンス規定だけでなくGPLの下でも使用できるようにしている。Sunがオープンソースコミュニティと連帯関係を深めたいなら、Linux開発者を閉め出すのは得策ではない。

 このSunの動きと、先頃ソフトウェア特許の無償公開を発表したIBMの動きを比較してみよう。IBMは、今回公開した特許をOpen-Source Initiative(OSI)が管理するすべてのオープンソースライセンスの下で使用することを許可している。なおOSIが管理しているライセンスの数は、1月11日時点で50を超えている。

 このタイミングは偶然ではない。IBMは欧州でソフトウェア特許の承認を求めるロビー活動で中心的な役割を演じている。IBMのこうした動きを見て、欧州の議員たちは、オープンソースとソフトウェア特許は両立すると思うかもしれない。しかし、IBMは毎年1500件近いソフトウェア特許を申請している。しかも、欧州特許庁では既に3万件のソフトウェア特許を認めており、米国でも毎年数十万件に及ぶ特許が申請されている。この数に比べれば、IBMが今回無償公開した500件の特許は、微々たるものである。

 American Intellectual Property Law Associationによると、ソフトウェア特許訴訟の費用は300万ドルにも上るという。ひとたび訴訟が起これば、典型的な中小のアプリケーション開発企業は、審理がすべて終わる前に倒産してしまうだろう。まして、個人のオープンソース開発者となれば、訴訟など到底不可能である。

 IBMはオープンソース開発者用のソフトウェア特許の共有プールを開設することを提案した。これが実現すれば、Open Source Development Labsが運営することになるだろう。OSDLはすでオープンソース開発者を訴訟で守るための基金に数百万ドルを提供している。しかし、その程度の資金では1つか2つの特許訴訟にかかる費用を賄うのがやっとだろう。

 OSDLのメンバーには、IBM、Intel、Hewlett-Packardなど、世界で最も多くソフトウェア特許を保有している大企業が名を連ねている。これらの企業の資金力があれば特許訴訟に伴う財政的な重荷がいくらかは軽減される可能性はあるが、しかしOSDLが、オープンソース開発者コミュニティの利益のためにソフトウェア特許に対抗するなどということは信じがたい。

 ソフトウェア特許で最も大きな打撃を受けるのは、オープンソース関連企業ではなく、中小のプロプラエタリソフトウェアを開発する企業やオンラインストアである。こうした企業が利用している重要なソフトウェアやウェブサイトは、米国で承認されている1つ以上のソフトウェア特許に違反している。これらの中小企業は、ソフトウェア特許によって莫大な損害を被ることになることをようやく理解し始めている。

 一方、欧州の企業は、自分たちは米国企業ほど訴訟好きではないので、特許訴訟も起こらないと信じたがっている。彼らは、欧州各国の特許庁の承認基準は米国よりもはるかに厳しいと思っているようだが、それは間違いだ。事実、米国で承認されているソフトウェア特許は欧州でも承認されており、訴訟好きな企業は欧州でも米国でも特許を申請している。

 1月に、欧州議会のあわせて61人の議員が、審議が政治的思惑によって歪められているとして、ソフトウェア特許法案を再審議するように要請した。しかし、任命された官僚たちは選挙で選出された議員たちを参加させまいと、動議の日程を2回も変更した。官僚たちは議員による投票なしでソフトウェア特許の可決を目論んでいるようだ。今までのところ、ポーランド代表の反対で承認は延期されているが、2月2日のJURI(欧州市場委員会)で最終承認される可能性もある。

 多くのソフトウェア特許保有企業は、欧州でソフトウェア特許法が可決されるまで訴訟を控えている。今、下手に動いて自分たちの望む法律の立法化が遅れては困るからだ。同法案が可決されれば、米国と欧州の両方で大量の特許訴訟が起こるだろう。

 欧州の企業は、ソフトウェア特許論争はオープンソース対プロプライエタリの論争として簡単に片づけられないことを理解し始めている。彼らは、ソフトウェア特許を再審議に持ち込もうとしている欧州議会の議員を支持すべきだ。そして、そうした議員たちは、今度こそ必ず動議に参加する必要がある。

 欧州では、少なくとも論争が始められた。これに対し、米国ではソフトウェアおよびビジネス特許に関して2つの判例があるに過ぎない。米国は、問題を解決するための法律の制定にもまだ着手していない。

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