米国ではネットバブルのころに、ネット領域を専門にしたエージェンシーが台頭してきたが、それらは出発点別に主に3つのタイプに分けられる。
ひとつはダイレクトマーケティングサービス系の代理店、ひとつはウェブテクロノロジー系代理店、そして広告コミュニケーション系の代理店である。一時は企業サイトの開発運営をサポートするのが中心のSIPS(Strategic Internet Professional Service)と呼ばれるサービス業態がもてはやされた時期もあった。
現状欧米の広告業界で、大きな勢力になっているいわゆる「インタラクティブエージェンシー」は、これらの文化が、広告コミュニケーション開発文化を中核にしながら融合したものといっていい。企業のウェブマーケティングが、ダイレクトマーケティングだけでなく、マスマーケティング系のブランディング活動にも大きな市場を形成する米国の状況が、こうした広告会社を成長させている。特にインタラクティブなコミュニケーション開発、要するに「インタラクティブなブランデッドコンテンツ開発」の市場と文化が形成されつつあるのが大きい。
またこれらのインタラクティブエージェンシーには、有力な広告会社グループが次々に資本を投入してきている。そして、企業グループとして共同でクライアントを攻略しようとしている。一方で、有力なインタラクティブエージェンシーは、ウェブがブランドコミュニケーションの中核になるクライアントでは、ここを抑えることで、マスメディアの扱いまで担当領域を拡大するところもでてきた。彼らの一部は既に専門広告会社ではなく、インタラクティブ領域を起点とするトータルエージェンシーに育っている。
さて、こうした業態は今日本にはない。インタラクティブなメディアやツールを駆使して、企業のマーケティングメッセージを生活者に求められるコミュニケーションコンテンツに変換する作業は、今後急速にニーズが拡大するだろうが、こうしたスキルを構築し、実践することで職能と組織、そして何より次世代広対応のスキルを再生産する人材育成のメカニズムを確立する会社というのがない。
ネット広告専業代理店も、コミュニケーション開発というところで、簡単にはスキル獲得という訳にはいかない。総合広告会社から見れば「長年かけてつくりあげたスキルだから、そう簡単にできるものか」と言いたいところだろう。しかし、そういう総合広告会社もインタラクティブ領域の対応では、プロ化するクライアントについて行けない営業マンばかりだ。特にクライアントとインターフェースする営業に、インタラクティブのスキルや知見がなさ過ぎる。
今や単に「インタラクティブ領域」というだけでも領域は幅広い。ウェブマーケティング、ネット広告、モバイル広告、SEO、リスティング、CGMマーケティング……これらすべてに精通した人材などまずいない。だからこそそれぞれに一定以上の知見をもって、スペシャリストたちをプロデュースする人材がクライアントとのインターフェース役をすべきである。そもそも広告ビジネスとはそういうものであるはずだ(さすがにGRPって何?という奴がTVスポットを売ってないでしょう)。
また営業マンばかりではない。クリエーターも既存の広告フォーマット上に表現する職人としては能力が発揮できても、コミュニケーション設計そのものをできる人材は少ない。消費者が求めるものは「メディア」でも「広告」でもない。コンテンツである。「広告クリエイティブ」ではなく、クライアントのマーケティングメッセージを「ブランデッドコンテンツ」に変換してみせるスキルが開発されなければならない。
欧米のインタラクティブエージェンシーにおいては、一見クリエイティブとテクノロジーという相反する文化の融合、せめぎ合いのなかで新しいサービス価値が創出されているイメージがある。日本でも同様の構造は必要ではあるが、それ以前にこうしたサービス業態をプロデュースする能力の構築が必要だろう。
日本で本格的なインタラクティブエージェンシーを生み出すためには、広告主の皆様の関心とサポートを賜る必要があるだろう。なぜなら、こうした新しい広告コミュニケーション開発のスキルを育成することで一番ハッピーになるのは、誰あろう広告主ご本人であるからだ。
このコラムでは、広告業は「ヒト」のスキルに依存するサービス業だと書いている。まずは、インタラクティブをコアにしたコミュニケーション構造なるものがあって、これを企画し、広告主に理解説得できるコミュニケーション能力をもち、実施運営をそつなくこなすスキルが、新しいスキル育成の場でないと出来ないことを認識することが必要だ。アメリカで起こったことは大概日本でも起きる。特にインターネットに関わる世界ではその確率は高い。
インタラクティブエージェンシーが、独自の企業文化で独自に発達することもおそらく踏襲するであろう。広告主が求めるものが欧米と日本でまったく違うわけではないので、当然このニーズに対応するサービス業態も近いものになるはずだ。
青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。
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