書籍「次世代広告テクノロジー」(ソフトバンク クリエイティブ)の中で、湯川鶴章時事通信編集委員が興味深いことを言っています。「日本という1つの社会の中に、メディア消費の変化をまったく感じていない層と、変化を認識している層、別のパラダイムに突入したため変化さえも認識できない層が混在している」と。
ここで言う「メディア消費の変化」とは、例えば、消費者は10年前は新聞やテレビを頻繁に見ていましたが、最近は、それに加え、一部ウェブでニュースを見たり、YouTubeのような次々に出現するウェブサイトでもメディア消費を行うようになったというその広がりと変化のことを言います。
今回私が注目しているのは上記の中で「別のパラダイムに突入したため変化さえも認識できない層」、つまりその「メディア消費の変化」とまったく違う世界に存在し、パソコンや携帯電話を中心に、あたかもそれらを使うことが生活の一部になっている層のことを言います。その層は既存4マスメディアを殆ど見ない若年層に近いと思われます。しかし実際はこの層が牽引している市場もたくさんあるのです。
2006年6月〜2007年5月における「通販・通教増収率ランキング上位20位」の中で特に目立って伸びているのは「ネット販売+衣料品」の企業群であります(通販新聞、2007年8月16日)。今や試着しないと興味が湧きづらいと言われる衣料品を、ネット通販で若い女性が積極的に購入しているのです。この層は、おそらくですが、カタログ通販やテレビ通販などの習慣が無かった人達、意識さえもしたことが無い人達なのではないでしょうか
また、講談社や小学館など出版大手は携帯電話の画面上で漫画を表示する「電子コミック事業」を加速しています。その背景には若い女性を中心に急成長(前年対比約3倍)している電子書籍市場があるからです(日本経済新聞、2007年5月28日)。推測ですが、電子コミックを読む若い女性は、移動中や就寝前に書籍や雑誌などを読む習慣の無かった人達、それさえも意識したことが無かった人達なのではないでしょうか。つまり上記2事例にみる層は、湯川氏の言う「メディア利用の変化さえも認識できない層」なのでしょう。
米国で成長しているSNS市場をみてみましょう。MySpace.com(2006年9月ユニークユーザー数1位)、Facebook.com(同3位)は、いずれもユニークユーザー数の前年対比で+50%以上成長しているウェブサイトです。それらのサイトにおける「18歳〜24歳」の比率は、18.1%、34.0%と、いずれも「その層の全ネットユーザー比率」11.3%を上回っています。
このことからしても、若い層とは一概に決めつけることはできませんが、その「メディア利用の変化さえも認識できない層」、つまり「旧来型のメディアの利用方法を余り知らず、パソコンや携帯電話からメディア接触を主に行う層」は、インターネット上では、臆することなく積極的に発言、意見交流または購買等を行う人なのではないでしょうか
今から10年〜15年後、その層が、労働市場の中心になってきます。広告に携わる企業にとって、無視できないユーザー層な筈なのです。むしろこの層を重要視しなければいけないという危機感を持つべきです。
大手広告代理店退職後、財団法人社会経済生産性本部において経営コンサルタントの認定を受け、その後1999年9月株式会社オプト入社。2001年1月より同社代表取締役COO。2006年1月より同社代表取締役CEO。慶應義塾大学経済学部卒、産能大学大学院経営情報学研究科(MBA課程)卒、中小企業診断士。デジタルハリウッド大学院教授(「インターネットマーケティング」担当)。「サイバーコミュニティを使った『ニーズ調査』の有効性に関する比較研究」(経営情報学会2000年、共同研究)、「インターネット広告による売上革新」(同文舘出版2006年、共著)等学会・講演活動多数。
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