「インターネットという隕石」により広告枠支配の旧体制が自由化--Yahoo!の登場

加藤順彦(株式会社NIKKO 代表取締役社長)2007年03月12日 08時00分

 現在の広告業の新潮流を語るには、この10年余りに起きた事象がどのように現在に影響を及ぼしたのかを知っていなければ理解することはできません。なので、少し前のネット広告登場の変遷をあえて最初にまとめておきたいと思います。

  1. Yahoo!
  2. Google
  3. Youtube
という企業がもたらした、3つの大きな広告業界におけるインパクトを順に見てみましょう。今回はまずYahoo!を取り上げます。

 1999年の秋、当時のソニーCEOである出井伸之さんが「インターネットは隕石である」とおっしゃり、恐竜を滅ぼした隕石のように、インターネットは既存の産業体系を滅ぼすという認識を示しました。

 少し乱暴な表現をしますと、インターネットが登場する前、日本においては情報の発信手は数社しかありませんでした。僅か数十社の新聞社とテレビ局が言論を束ねていました。そのメディアが取り上げなかったら、どんな事件も「なかったこと」にできる状態だったともいえます。1億2000万人の国民は、それら言論機関の形成するコモンセンスや「事実」のみを大方のすう勢や世論として受け止めていたわけです。買いたいと思うものを知る、見るという媒体自体が圧倒的に少なかったのです。

メディアの多様化で変わる広告会社の実力

 そして、広告業。ほんの数年前までは、日本のあまねく広告代理店の事業規模を規定しているものは、取り扱いマス媒体の販売権益でした。マスメディアとヨロシク出来ている、あるいは資本関係のある広告会社が、事実上そのメディアビークルにまつわる広告市場の秩序をコントロールしていたのです。まさしく「良い広告枠を調達、確保できる会社が大きな会社」でした。

 しかし隕石が墜ちて、絶対のロジックであった広告枠の調達力が広告会社としての競争力の源泉につながらなくなってきました。その隕石によって最初に起きた「メディアの超多様化』は、突然変異の典型ともいえるYahoo!にあらわれているでしょう。

 11年前、はじめてインターネットと遭遇した1996年、Yahoo!の広告をお取り扱いしだしました。数か月経ち、毎月閲覧者の増加と共に猛烈にページビューが増えていく様を眺めていて「広告枠が膨張し増殖している」ことに気づいたのです。そう……広告枠が増えていくという感覚です。

 テレビも雑誌も、媒体における広告数は一定数以上にはなりません。増えてしまっては効果が下がるからです。では視聴者や読者が増えた場合どうなるのか。数は増えずに広告枠の値段が上がるのです。

 ところが黎明期のインターネットは違いました。広告の総量は無尽蔵に増えていき、そして人気が出れば出るほど1ページビューあたりの料金は上がるどころか、むしろ下がっていったのです。もちろん一方のマス広告も視聴者や読者が増えれば増えるほど(料金は上がりますが)、リーチあたりコストは安くなっていきます。いまも「到達コストが最も安いのはテレビだ!」というデータは数多く出ていますよね。

ベンチャー広告会社にもビジネスチャンス

 しかしながらマス広告は、いちどきに露出するリーチ規模が大きくなっても、広告枠そのものの総数は変動せず、枠あたりの値段が高くなります。インターネット広告のように枠数そのものが増えたりはしません。際限なく広告枠が増えていく現象こそ、この隕石によって発生した新しい広告の最大の変化だと感じたのです。

 そして広告枠の増殖という理屈上、買い占めができないのであればインターネット広告は当面、政治や経済力だけでは支配できない広告になる可能性が高い、つまり広告枠を調達する自由度が高まり、新しい広告会社といえども広告枠を調達することが可能になるに違いない、おもしろいことになる!と思いました。

 こうした一方で、最大手の電通さんはメディアレップという新業態を発明することで、Yahoo!の主要な広告枠を自社ですべて買い取るという方策はとらず、広告会社に対して広告枠の卸売を権利化し、この新しい広告の出現に対応されました。広告に対処する商流(関所)を確保されたかのように見えたわけです。

 Yahoo!が、広告「枠」支配の中で、新しいネット広告ベンチャー企業に自由と、チャンスをもたらしました。

加藤順彦
株式会社NIKKO 代表取締役社長

1967年4月7日生まれ、大阪府出身。関西学院大学商学部在学中の1986年に株式会社リョーマ設立に参加し、学生起業を興す。1991年同大学卒業後、株式会社徳間インテリジェンスネットワークに勤務。1992年に雑誌媒体専門の広告会社、日広(現NIKKO)を設立。1996年からインターネット広告の取り扱いを開始、ウェブサイトを軸としたインタラクティブマーケティングに強みを持つ総合広告会社へと発展。日本広告業協会 インタラクティブメディア研究小委員会委員、日経広告研究所 デジタル放送広告研究会委員。

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