放送局が乗り出す番組ネット配信事業のインパクト

 フジテレビと日本テレビがインターネットを介した番組配信サービスへの参入を発表した。しかし、過去の番組ライブラリをネット上で公開するだけであれば、それほど大きなインパクトは生じない可能性が大きい。

ネットでテレビが見られたら

 「ネットでテレビが見られたら」という素朴な発想の実現にようやく現実が追いついてきた。純粋なユーザー発想であれば、別にそれがネット経由で配信される必然性はないのだが、「いつでも、どこでも、なんでも」といった、任意にテレビ番組を視聴したいという需要に対して、技術的な一番の近道はネットであろう。もちろん、ある程度まではVTRやPVR(パーソナルビデオレコーダー)などでもこの需要への対処はある程度可能だが、もちろん本質的な解にはならない。

 キーワードで該当するすべての番組を録画しておくというPVRの機能は、あらかじめ「見たい」番組の録画予約が必要だったVTRと比べて、非常に「これがほしかった!」という気持ちさせる。だが、キーワードや具体的な番組名まで知っている範囲の中で、僕らの「見たい」という需要がすべて満たされるとは限らない。

 むしろ、後になって個人的なコミュニケーションなどから、「そんな番組があったのか!」という発見がなされる可能性が多い。だとしたら、PVRの機能は不十分だ。「念のため」とか「もしかしたら」という理由で過剰な機能を求めがちな日本の消費者の発想で考えると、PVRやVTRは便利だが、しょせん「ないよりはマシ」でしかなく、究極の回答ではないだろう。

 とはいえ、番組の発掘が個人的なコミュニケーションによって行われているのであれば、僕らが求めているのはコンテンツとしてのテレビ番組「そのもの」ではない可能性がある。一種、コンテクスト(状況)を消費するため=「最新の流行を知りたがる」「友達と同じ情報を知っていないと不安」といった心理こそがテレビ視聴の根源的な動機であるとしたら、テレビ番組は基本的にあるコンテクストでのみ視聴されるのであって、「作品そのものに魅力があるから見よう」という動機だけではない可能性がある。欧米のテレビ放送以上に番組の主題や内容に流行性が高く、再放映番組が少なく、バラエティ情報番組比率の高い日本のテレビはコンテクスト依存度の高いメディアとして成熟しているといえるだろう。

テレビ番組の魅力とは

 2002年にも東京放送(TBS)、フジテレビ、テレビ朝日の3キー局がNTTデータ、NTTコミュニケーションズなどと共にネット上でのテレビ番組配信のジョイントベンチャー「トレソーラ」を開始したことがあった。そして、トレソーラは2度にわたる実証実験を経て、事実上の休眠状態にある。

 トレソーラの実証実験事業では、「高校教師」など放映当時非常に話題性が高かったドラマなど80年代から90年代にかけての番組と、比較的最近の番組も取り揃えたものであった。当初は話題性もあって利用登録も伸びたが、実際に利用する視聴者は少なかった。キー局3社の女子アナを動員したキャンペーンを行って認知度を高めたり、料金をドラマ1話あたり100円程度とそれほど高くない金額に設定したりしたものの、月替わりで数話ずつしか見られず、一括視聴ができないといった不自由さもあってか、大きな需要を取り込むことはできなかった。

 当時、同社の原田社長は「携帯電話での決済を考えるべきかな」、「あまりにも認証の仕組みが複雑すぎるのかな」など、いろいろお考えになられていたようだったが、具体的に実験には反映されなかったようだ。

 いずれにしても、事業として大々的に広げていくことができなかったトレソーラのケースから考えても、テレビ番組のオンライン配信は、ライブラリとして「ないよりはあったほうがいい」程度の需要以上には大きな可能性を見出すことはできなかったということだ。

 日本におけるテレビ視聴がリアルタイム性の高い、あるいはある一定の時間範囲の中=コンテクスト性の高い生活での視聴が重要なのであれば、オンラインサービスであっても過去の番組ライブラリを取り揃えただけでは不十分ということになる。むしろ、現在のテレビのリアルタイム・コンテクスト制をてこにしたサービスを指向する必要があるかもしれない。

 その点について、比較的リアルタイム性の高いコンテンツを当初から投入するとしているフジテレビや日本テレビの計画は、トレソーラの轍を踏まないようにしているといえるだろう。

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