ライブドアショックを超えた「融合」のあり方

 ライブドアによるニッポン放送とフジテレビへの敵対的買収騒動が、ようやく収束した。この騒動は、2つの点について我々に再考をうながしたと言える。1つ目が企業のあり方、特に株主と事業統治の関連についてであり、2つ目がメディアのあり方、特に放送と通信(インターネット)の融合という点である。

 特に後者については、これまでのらりくらりと状況を直視することを避けつつ、サーバー型放送や携帯電話への地上波デジタル放送(いわゆる1セグ放送)で「通信」に対して構造的に有利な状況を作り上げようとしてきた放送局の立ち位置がいかに虚弱なものであったかを露呈させた。結果として放送とインターネットの融合とはいかなるものであるべきかを、今こそ誰もが真剣に論ぜざるをえないという状況を作り出したのではないか。

ホリエモン・ショックとはなんだったのか?

 ニッポン放送はフジテレビよりも事業規模や影響力が小さいにもかかわらず、長年フジテレビの筆頭株主にあった。このフジサンケイグループの放送関連企業同士のねじれた関係を解消すべく、フジテレビがニッポン放送という「小さな親会社」からの脱却を目指してニッポン放送株を取得するためのTOB(株式の公開買い付け)を開始したのは今年1月のことだ。そしてそこに乱入したのは、堀江貴文社長率いるライブドアだった。ライブドア株を外資系証券会社に担保に出すことで調達した資金を用いて、時間外取引などで一挙にニッポン放送株の大量取得に成功したことを発表。今回の騒動に発展した。

 これ以降の経過については、みなさんもご承知のとおり。そして、その一応の決着が今週初めについた(関連記事)。実質的には、体力的にも消耗した当事者双方が「もうやめようか」とつぶやきつつへたり込んだ格好となった。「勝者のない戦い」など虚無感溢れる表現が用いられ、一種のマネーゲームを当てこすった報道がなされたことは、まだ鮮烈な記憶の中にある。

 今回の一件は落ち着くところに落ち着いたとも言える。しかし騒動の過程で露呈したさまざまな疑問や課題は、解答の方向性すら見えていないものも多い。

 その1つが冒頭に挙げた、企業の株主と事業統治のあり方であろう。学校で「報道機関は経済的な影響力の介入を排除するために、未公開企業であり続けます」といった説明を新聞社などのあり方について受けた記憶がある。しかし実際のところ、ラジオ局やテレビ局は株式公開をしてしまった。それらの企業に対して買収を持ちかけたところで、道義的問題は何も生じない。

メディア企業は特殊な存在か?

 にもかかわらず、「メディアという使命を持った企業が社会的に公正であり続けるためには、ライブドアは適切な親会社ではない」などというとんでもない発言が、客観公平であるべき「報道機関」としてのテレビ番組、とくにニュースやバラエティ、エンターテインメント番組の中で多数発せられた。既存のメディア企業は「公正」であり、それに敵対的買収をかけてきた企業は「不公正」であるという理屈だ。

 これは昨年のプロ野球騒動で聞かれたプロ野球オーナー会議の長老方のセリフに類似してはいないか。あの発言に対し、一般市民がどんな印象を持ったかは、あえて言うまい。結果、プロ野球オーナー会議は自らの立場を180度転換させざるを得なくなった。そんなことを、つい最近誰もが経験しているにもかかわらず、現在のメディア企業やそのオーナーだけが社会的に公正であるとなぜ言いきれるのか。ほかの企業は公正ではないとなぜ言えるのか。

 企業、特に株式公開を遂げた企業に社会的責任を全うするという義務が課せられるのは当然である。それは必ずしもメディア企業だけではない。であれば、既存のメディア企業が「公正」で敵対的買収をかけてきた企業が「不公正」であるという議論は、きわめて感情的であり、根拠のない発言であるとしか言えない。多数の「メディア研究者」や「ジャーナリズム論専攻」などと称する大学教員や専門家が何の臆面もなく、このような発言を当然のごとく行う現状は非常に悲観的な状況だと言わざるを得ない。

 ほかにも、「メディアの集中排除規制ってなかったっけ」など、一般的な市民にとってさまざまな「当然」が吹き飛んでしまうような「現実」が多数現われた。メディア企業が中立公平、清廉潔白と自ら申し立てたころで、社員の経理上での不正行為や麻薬などの不法所持など、一般的な企業では考えられない事件が数多く起こっているというのが、きわめて普通の印象としてあるのではないか。

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