米国のFriendsterやorkut、日本のGREEやmixiなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の成功のおかげで、社会的ネットワークに対する興味が高まっている。よく引き合いに出されるのは、ハーバードでの多様な活躍で知られる社会心理学者スタンレー・ミルグラムの「小さな世界」実験だ。しかし、実はミルグラムの実験結果から得られた社会的ネットワークの解釈は、SNSの成功理由として僕らが想像するものとは必ずしも一緒ではない。
「6次の隔たり」の拡大解釈
後に有名になるミルグラムの実験は、1967年Psychology Today誌に「The Small World Problem」として発表された。ネブラスカ州オハマの住人の中から無作為に抽出した人に手紙を渡し、それぞれの知人へ手紙を転送しながら、マサチューセッツ州ボストン在住のある人へその手紙を届けるよう依頼したのである。この結果、届いた手紙は平均6人を経由して届いていることがわかった。
ミルグラムは、行動科学者のアナトール・ラパポートに触発されて人のつながりに興味を持ち、この実験を企画した。当然ながらその手法は極めて厳密だった。最近になってジュディス・クラインフェルトなどが「COULD IT BE A BIG WORLD?(実は大きな世界じゃないの?)」と揶揄した反論を投げかけているが、僕にはその反論自体が筋違いに思えてならない。
まあアカデミックな厳密性はともかく、世に言うところではこんな解釈が一般的なようだ。すなわち:
しかし、これは大間違いなのだ。
たとえば、「グリーについて」で6次の隔たりを説明していると引用されているコラムでも、
として、ミルグラムの実験の内容を紹介されておられる。そもそもこのコラムの趣旨が、ネットワーク構造の基本的な分析概念を解説するものであり、必ずしもミルグラムの実験自体を検証するものではないと理解しているので、その非を問うことはできないと思う。むしろこのような研究者の方でも:
と、受け取ってしまうほどに「小さな世界」というコンセプトは魅力的なのだ。
実際には、ミルグラム自身は「6次の隔たり」という表現は一切使っていないし、「世界中すべての人と知人関係を結べる」という結論も導き出していない (このあたりの議論やエピソードは、ミルグラム研究家のトーマス・ブラスのサイトや、ノートルダム大学のアルバート=ラズロ・バラバシのべき乗則やスケールフリーネットワークなどを紹介している好著『新ネットワーク思考 -世界のしくみを読み解く- 』の第3章に詳しい) 。
ではなぜミルグラムの、方法論的にも極めて科学的な実験がそんな「神話」に変化してしまうのだろうか。
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