CNET Japanでも特集されたように、検索エンジンに注目したSEO(検索エンジン最適化)といったテクノロジーベースのマーケティング手法が定着しつつある。だがSEO、あるいはSEM(検索エンジンマーケティング)といえども、所詮はマーケティング「手法」の1つでしかない。過剰な期待は禁物だ。むしろ、検索エンジンが今後インターネットの中でどのような役割を担うかについて考えることこそが、幅広い層にとっての戦略に繋がる、より本質的な議論ではないか。
SEOというブーム
前回、前々回とテレコム系企業の買収に関連した現実的な分析と、それから得られた結果にまつわるまじめな考察を書いてみたが、今回はもう少しコンセプチュアルな話題に注目してみたい。
俎上にのせるのは、SEOと検索エンジンに絡んだ話題だ。
6月。GoogleのIPO計画の発表やYahoo! JAPANのYahoo! Search Technology(YST)導入決定など、ソノ筋の皆さんにはなかなかワクワク・ドキドキのトピックが続いた。しかしちょっと距離を置いて冷静に眺めてみると、それほどのことでもないようにも見える。
人ごとのように言えば、IT業界の人間というのはやたらと小さなスパイク・ノイズに振り回されるのが好きな人種なのだ。他人事ながら、ちょっとした変化に一喜一憂し、それを話題に右に左にと駆け巡り、結果的には何も自分の身には変化がない(あっても極めて少なかったり、一時的な変化であったりといったように、今すぐに影響が出るものでもないことが多い)にも関わらず、鵜の目鷹の目、変化はないかと触角を絶えず動かし続ける。別にそれが悪いことだとは言わないが、なかなか周囲の世界からは白い目で見られていることに気が付いていないケースがほとんどなのが始末に悪い・・・。
さて、そんなブームのひとつとして、最近ではSEO/SEMがあるだろう。
まあ、変化のスピードが速いといわれるIT業界の人々の性向を云々言っていても仕方がないので話を進めると・・・。
そもそもSEOやSEMがなぜ注目されたかという点は、直感的にはわかるものの具体的なことを知っている人は少ない。簡単な分析をしてみよう。
インターネットアクセスの大半を占める検索エンジン
ビデオリサーチインタラクティブが発表する週間世帯内パソコンインターネット利用集計を見てみると、アクセス概要では「検索・ポータル系」の接触者率が非常に高いことがわかる。
例えば、7月14日に発表された6月28日〜7月4日までの数字を見ると、全推定接触者2205万7000人のうち1999万3000人(90.6%)が検索エンジンやポータルを利用している。ポータルといっても何らかの形で検索エンジン機能が提供されており、その主要な機能は検索エンジンサービスであることから、検索エンジンが非常に一般的に利用されていることがわかる。
推定接触者数上位30ドメインに限ってもう少し突っ込んで見てみると、検索系ポータル、特にYahoo! JAPANの圧倒的な威力がわかる。一覧表の数字だけを見ても、推定接触者数が「1618万6000人」となっており、2位のinfoseekの「696万3000人」と大差をつけている。それだけに留まらず、接触回数や平均視聴ページなどを見ても大きな差があることがわかる。
もっとわかりやすい分析をしてみよう。上位30ドメインのページビューを算出してみると、上位30ドメインの全ページビューの実に91%までをYahoo! JAPANが独占しており、これに他の検索サイトのページビューを合計すると、全体の95%以上を検索エンジンが叩き出していることがわかる。もちろんYahoo! JAPANの場合、検索やディレクトリー以外のいわゆるディスティネーション系(オークションなどのサービスやコンテンツ)があるため、一概には言えないことを考慮する必要がある。しかし、コンテンツ面での厚みでYahoo! Japanに迫る楽天のページビューが上位30ドメインの1%以下であることを考えると、Yahoo!の検索系サービスのパワーを過小評価することはできまい。
図1.上位30ドメインのページビュー分布(ビデオリサーチインタラクティブのデータをもとに作成) |
この傾向は、上位30ドメインだけではなく、上位100ドメインでも、上位500ドメインでも、同様であろうことが予想される。それは、「べき乗則」として知られている現象だ。すなわち、ごく少数の上位プレーヤーが圧倒的なパワー(度数)を有し、それ以外は小さな度数の多数のプレーヤーが大量に存在するというもので、縦軸を対数で表示するとほぼ直線を示すのが特徴だ(図1)。
さて、この分析からも、Yahoo! JAPANを中心に圧倒的なページビューは検索エンジンによってもたらされており、それは全ウェブのページビューの大半を占めるほどであることがわかる。であれば、何らかの形でインターネット上に顧客導線を張りたいビジネスプレーヤーにとっては、検索エンジンの結果表示で上位、あるいは目立つ部分に掲載されることが大きなメリットになる可能性が高い。
検索ワードも一極に集中
だが、集中しているからそこを目指せというだけでは、あまりにも単純すぎる。
全体のウェブのトラフィックの多くが検索エンジンにつながるものであっても、それは検索エンジンのドメインで表示されるものの総数でしかないのだ。すなわち、膨大なページビューが検索エンジンサイトで発生するものの、その中身についてもやはりべき乗則が成立する可能性があるのではないか。
図2.上位100ワードの検索回数の分布(gooのデータをもとに作成) |
もったいぶらずに結論を言ってしまうと、べき乗則はやはり成立している。たとえば、gooが発表している「2003年間検索ワードランキング」では、1位の「Yahoo!」を100としたインデックスではあるものの、指数表示をすると上位への極端な集中を除きほぼ線形になることがわかる(図2)。このことから、全体としてはごく限られたワードへの極端な集中と、それ以外の非常に多くの幅広い分散が起きていることが検索ワードでも見られるのだ。
#これらは概算であり、全体的な動向こそ示すが、厳密なものではないことをお断りしておく
このようにインターネット利用者の行動を示すトラフィックとワードの分散は、二重にべき乗則に従っているわけだから、検索エンジンをなんとしても活用しないことには、顧客導線の抽出なんて無理だということになるだろう。だから、SEO/SEMということになるわけだ。
だが、いくら大量のトラフィックが検索エンジンに集まっていても、自分につながるワードを探すであろう利用者との遭遇機会というと、所詮ごくごくわずかしかないことも事実だ。
そもそも圧倒的に独自性があることが明らかなプレーヤーであれば検索結果は自明だから、漏斗に入った砂粒のごとく、ごくごく自然に利用者は件のプレーヤーのところに行き着くだろう。しかし、独自性を主張することが難しい場合や、競合が多い、あるいは類似のサービスや取扱商品が多いというビジネスの場合は、客引きをいかに行うかということになるわけで、そこで初めてSEO/SEMという手法に注目することになる。要するに何でもかんでもSEO/SEMという話になっているわけではなく、何らかの自己分析やマーケティング戦略の結果採用されるべき一手法として存在するに過ぎない。
にもかかわらず、「GoogleとYSTでは、最適化のためのロジックが厳密には異なり・・・」ということを言い始めるから、話がややこしくなる。SEO/SEMから得られるリターンは機会コストの最適化でしかなく、導入するためのコストという絶対的な支出を並列して、コストを正当化するという議論自体、土台無理なのだ。
機会コストの最適化効率は、往々にして一定のシーリング(上限)に簡単に突き当たることが多い。にもかかわらず導入コスト、ましてやチューニングのコストとなると青天井になってしまう危険がある。そこそこでやっておけばいいものの、完全なる最適化などを目指すものならば、あっという間に行為の目的化が進んでしまい、ROIなんて話ではなくなる。この類のトピックは、こういった危険性をはらんでいるということを、一応の結論にしておこう。
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