KDDIにとってツーカーの売却は果たして損か得か

 ソフトバンクによる新たな買収観測が浮上して、これが株式市場をにぎわせている。15日の日本経済新聞が「ソフトバンクがKDDIからツーカーを2000億円強で買収する交渉に入った」と報じた。この買収が実現するにはいましばらく時間がかかりそうだが、市場関係者のあいだでは、ツーカーの売却が実現した場合、長期的な視野で判断してこれがKDDIにとって本当に損なのか得なのかで議論を呼んでいる。

 KDDIでは、いまのところ今回の観測報道に関してはノーコメント。一方で以前からKDDI代表取締役社長の小野寺正氏は「今年中にツーカーへの対応策を明らかにする」とコメントしている。他方、ソフトバンクは買収交渉の報道について「事実無根」としている。

 KDDIにとってツーカー売却のメリットが大きいとする準大手証券のアナリストは「今3月期末で約2000億円強になるツーカー3社合計の有利子負債の削減になることが最も大きなメリットといえる。さらに、これまでのツーカーとauという携帯電話事業を保有するという二重構造が解消されるという点もある」としている。

 これに対し、ツーカーの売却は中長期的に見て必ずしもKDDIにとってメリットばかりとは限らないとの見方も浮上している。外国証券のアナリストは「ソフトバンクは昨年、リップルウッド・ホールディングス傘下にあった固定通信事業者である日本テレコムを約3400億円で買収した。しかし、日本テレコムは携帯電話事業を持っていないため、ソフトバンクとしてはツーカーの買収によって念願の携帯電話事業への参入を果たすことになる。当初はネットワーク網の乏しいツーカーの影響力は限定されるものの、将来的にはauやNTTドコモにとって非常に強力な競争相手になる可能性を秘めている点は見逃すことができない」としている。

 ただ、一方で今回の買収交渉が必ずしも成立するとは限らないとする見方も根強い。KDDIは今年3月にツーカー3社を完全子会社化したうえで、他社への売却かau事業への吸収かを検討するとしている。ここにきてツーカーは、熟年層や高齢者向けに機能を大きく絞り込み、ほとんど通話のみに限定して使いやすさをセールスポイントとした新端末「ツーカーS」などの端末がヒットして、昨年11月から契約数が増加(月間純増数が2年7カ月ぶりにプラス転換)に転じている。このため、売却が先延ばしにされる可能性も否定できない状況となってきている。

 市場関係者からは「東名阪にしかネットワークを持たず、設備投資の面でもかなりの遅れをとっているうえ、通話専用の高齢者顧客の開拓を進めてきたツーカーを、データ活用のヘビーユーザーを主力顧客とするソフトバンクがどう変革していくかも見物」との見方さえ出ている。

 KDDIの株価は、昨年12月半ばの50万円から上昇軌道に乗り、直近55万円台に乗せてきている。約1カ月のあいだに約10%の上昇をみせてきたことから、今後は小幅な調整場面も想定しておかなければならないが、中期的には上昇トレンドが続きそうだ。もちろん、ツーカーを巡る今後の動向がKDDIの株価を大きく左右することはいうまでもない。

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