(前編からの続き)
小池:サイボウズを創業しようとした当時は、もう1997年ぐらいになっていましたか。1997年というと、日本経済もどん底だったし、日本のベンチャーキャピタルもアーリーステージへの投資なんかあまりしていなかった時代だよね。
高須賀:もう山一證券が飛んで、拓殖銀行が飛んで、ジャストシステムは最安値といった最悪の時期でしたね。
小池:起業するには最悪の時期ですね。
高須賀:結局、自分たちの貯蓄と僕の親戚、嫁さんのお父さん、そういう身内から集めました。
小池:じゃあ、創業の資金はそういう親戚、友人連中を頼み倒してなんとか調達して。
高須賀:そうです。でも、結局予定の半分しか集まらなかったんです。仲間とか、いろいろお世話になった方とか、本当に「(このお金は)やるから」という感じでした。でも、結局足りなくて、大阪から松山に戻るきっかけはお金が足りなかったからなんです。
サイボウズのビジネスってすごく広告宣伝費が必要だったんですが、これはキーファクターだったので外すことができない。その予算を確保するとあとは全部削らないといけないので、オフィスなどにはお金をかけられず、松山に戻ったんです。さらに、一緒にやろうとした2人には申し訳ないことをしましたけど、半年ぐらい給料を払わなかったんです。
小池:スウェット・エクイティーですね。
高須賀:それは「こういう意味やから」ということで、「あとの部分を削らないと立ち上がるものも立ち上がらへんから」って説明しました。
小池:最初は製品を作っているわけですよね。だから、ほとんどは開発費なわけですよね。
高須賀:そうですね。でも、ソフトウェアの開発費は人件費ですから、給与を払わなければ開発費はゼロですね。原価ゼロです。
小池:高須賀さんも含めた3人ぐらいで作ったわけですか。
高須賀:いえ、3人のうちの1人です。畑慎也(現サイボウズ取締役、サイボウズ・ラボ代表取締役社長)だけが開発をしてました。あとの2人はノータッチ。私も青野慶久(現サイボウズ代表取締役社長)も、元はみんな工学部のコンピュータ技術者なんですね。だから心得はあるんですが。
小池:最初は、じゃあ畑さんと青野さんと高須賀さんの3人で。
高須賀:はい、3人です。青野も開発したいとか言っていたんですが、一切やらせなかったですね。
小池:1人に集中したほうが効率的なんだ?
高須賀:そういう意味だと、僕は社内ベンチャーの時に既に経験していたんです。人員を集めたときに技術者ばっかりを集めました。いい技術者を集めたらいい製品ができると、良い製品ができたらいいビジネスができると(思っていた)。それが大きな間違いで、“会社”は一言で言うとマーケティングそのものなのです。ビジネスコンセプトやビジネスモデルと、それを具現化するパワーだけ。そして、一番の要点はマーケティングにあるということを1年間学んだんです。
だから、もうとにかく僕はビジネスモデルを常に作っていって、具現するところと目標とのギャップをどうやって埋めていくかという経営をしていました。そして青野のほうは、とにかくマーケティングの仕事をやってくれと。マーケティングというとちょっと大げさで、サイボウズの初期の場合は宣伝ですね。インターネットの宣伝だけをやる。それ以外にまったく考えるなという感じでした。
小池:基本的にはグループウェアですよね。そこにフォーカスを当てたのはなぜですか。というのは、その時代ってやっぱりロータスあり、マイクロソフトありで、結構大手どころでいろいろな競合が常にありましたよね。なぜそこに狙いを定めたんですか。
高須賀:これは、実は僕じゃないんですよ。僕はグループウェアを商材とすることにすごく反対でした。
小池:じゃあ、もともと高須賀さんが熱狂的にこれをやりたいと言っていたのは何だったんですか。
高須賀:僕がその時に思っていたことは2つあります。1つ目はすべてのアプリケーションは、全部ウェブベースになると言うことだったんです。ですからウェブベースのアプリケーションにフォーカスしようと思いました。そして2つ目は、インターネットを使ったマーケティングと物流(ダウンロード)にすごくオポチュニティがあると。要するに通常莫大なマーケティングコストですが、インターネットでマーケティングを行えば弱者にとってもすごくチャンスがある。
さらにパッケージングコスト。要するに、ダウンロードされる製品の開発だと、原価がすごく抑えられる。ということは、本来汎用的なパッケージ商品はある程度本数を見込まないと作れないところですが、コストを抑えられれば小粒でニッチであっても汎用製品の市場がたくさん生まれるのではないかというのが僕の仮説だったんです。
だから、ウェブベースで、かつニッチな製品を山ほど作っていけば、雑貨屋じゃないですが、すごいビジネスチャンスがあるんだと思っていました。内容はなんでもいい。ただ、既存で競り合っているような市場にぶつけていっても勝ち目がない。そうしたら、僕はすごくグループウェアは反対だったんだけど、反対する前に畑が既にグループウェアを勝手に作っちゃったんですね。
そこで、これは変なんですけど、そのグループウェアを見たときに「おもしろい!」と思ったんですね。理屈じゃすでに激しく競り合っている市場に出ていっても勝ち目はないとわかっているんだけど、じゃあこれで(グループウェアで)いこうということになっちゃったんですね。感性ですかね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス