「総務省の情報通信政策の最近の動向」総務省・今川拓郎氏 - (page 4)

自治体のIT化

--それでは、やや話題が変わるのですが、総務省が進めているもう一つの大きな政策テーマである地方自治体の情報化、電子自治体に関する取り組みについて伺いたいのですが。

今川: 現在進められている「三位一体の改革」では、補助金をやめて、交付金という形で、地方が自由に使える割合を増やそうということをやっているわけですが、私も総務省に戻る前に大阪に居たんですが、大阪のような大規模な自治体ですら、地方自治体の政策的経費の中で、IT投資の優先順位は下がりがちになってしまいます。どうしても、地方に行くと放置自転車対策とか福祉系とか目先の施策の優先順位が高くなってしまうので、地方自治体の政策的経費の裁量自由度を高めたとして、ITインフラの整備は地方自治体主導でどこまで重点的に進められるのだろうか、という素朴な懸念があることは事実です。都市間の競争ということでは、地方分権の精神には見合うものだと言われれば、それまでなのですが、やはり情報通信ネットワーク整備というものはある程度は国策として推進していかなければならない種類の政策だと思うのです。全国的に整備していかなければネットワークとして機能しませんから。

 電子自治体の取り組みについては、まだ温度差はありますが、全国的に見て成功例といえるような事例も出てきていますから、そちらについてはそれほど大きな懸念はありません。電子自治体の場合、自治体の中の人、あるいは外のNPOや企業という場合もありますが、熱心なキーパーソンが居て推進力になってくれる所はうまくいきますね。こういう人たちの横のネットワークもできつつありますし。

 ただ、レガシーシステムをどうするか、という課題については、私たちも関心を持っていて、「地域における情報化の推進に関する検討会」を開催して検討をしているところです。

(※参考資料4:「地域における情報化の推進に関する検討会」)

 この中間報告書が4月に出ているのですが、レガシーの問題については、地方の情報投資は合計すると、全国で7000億円くらいの規模になるんですが、これをどう改革していくかという際に、個別のネットワークやアプリができてしまって、バラバラだよねという話があるので、そこに焦点を当てようと言うことで、「次世代地域情報プラットフォーム」というものを推進することにしています。これはいわゆるWEBサービス技術を使って、人事・給与・電子申請とか、それぞれでメーカーに独自のアプリケーションを作られて、自治体の中であっても、横同士でデータの共有をしてないという事例があったり、人事・給与システム一つ取っても、別の自治体では全然違うアプリだったりするので、データの交換方式などを共通化するとか、アプリケーションを共有できるようにして、個別の作り込みの部分を限りなく少なくする、あるいは作り込みを自治体間で共有できるようにするという仕組みをXMLベースのオープンな規格でやろうということになっています。データセンターへの共通ホスティングということもできるようになりますから、レガシーに費やされる予算を効率化しようと言うことです。ご存じのように、総務省の中には旧自治省の方々も居ますから、自治体とのパイプがある彼らとも連携して進めているところです。

--最近では、佐賀市でサムソンが電子自治体のシステムを納入する事例があって業界に衝撃が走りましたが、レガシー部分を改革することで、今までの大手ITベンダだけではなく、新規参入を促すという効果も期待できるわけですね。

今川: はい、そうです。それはレガシーに関して言えば国も地方も民間も共通の流れではあると思いますが、公共の部分で一番大きく、かつ遅れている分野は地方自治体のIT調達なので、そこは重点的に行っていく必要があると思います。

--民間の場合もまったく同じ話をこの前村上さんから伺ったのですが、仕様書を書く、発注者側の能力の向上ということの取り組みについてはどうでしょうか?

今川: この部分は人材育成の分野に入り込んできますが、自治体のCIOの育成を進める予定です。高度なIT人材の育成という枠組みの中で、CIOの育成とか、地域におけるIT職員の育成に向けての取り組みもありますが、むしろ、民間とかから優秀な人材をCIOとして迎え入れるということもできますから、そういった形で知見がある人を取り込んでいくことも必要でしょう。また、CIOは各自治体に必ず居なければならない、ということでもなくて、共通の仕様やアプリという段階が進めば、広域の自治体間で共通のCIOの役割を果たす人、あるいはNPOでも良いと思いますが、そういう役割を果たせれば良いわけです。個人的には、メーカーを辞めた人たちがそういう作業に従事してくれるというスキームが作れれば、非常に役に立つと思いますけどね。

--インタビューを通してみて、全般的な感想なのですが、総務省は以前と比べるとようやくエンジンが掛かってきたというか、政策的に動き出したという印象を強く受けますが。

今川: そうですね。パブコメではいろいろなご批判も頂きますが、そのようなご意見も頂きながら政策が動いていくというのは悪くないと思いますよ。まあ、技術的な問題を扱う分野で、役人があまり先頭を走るのもどうかと思いますが・・・経済省のような振興行政は役人が旗を振ってというのも有効だと思いますが、制度を扱う行政については、役人が突っ走るのは独りよがりになりがちなので、いろんな方からご意見を頂きながら冷静に進めていくということは重要でしょう。

 制度というものを扱う際には利害関係者が必ず居るので、声の強い人だけから話を聞いているとどうしても見失うことがあります。ですからいろんな方のお話を聞くことが重要だと思います。

筆者プロフィール
澁川 修一
1976年生。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同年、国際大学GLOCOM Research Associates。2001年より独立行政法人経済産業研究所(RIETI)に所属し、情報通信関連政策を担当。

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