日本とは違う2つのプロバイダ
日本では、インターネットや携帯電話に向けてコンテンツを提供する企業のことを「コンテンツプロバイダ(CP)」と呼んでいるが、中国ではCPのほかに「サービスプロバイダ(SP)」と呼ばれる企業がある。中国のCPは、インターネットや携帯電話に向けたコンテンツを作成しているが、必ずしもコンテンツを配信する権利を持っているわけではない。一方のSPは、政府や携帯電話キャリアと契約を結び、正式にコンテンツを配信するためのライセンスを得ている企業のことだ。ライセンスを持たないCPがコンテンツを配信する場合、SPに自社コンテンツを提供し、SP経由で配信しなくてはならない。
携帯電話向けコンテンツの場合、SPになるには携帯電話の地方キャリアとコンテンツ配信契約を結ぶ必要がある。ただし、地方キャリアと契約を結んだだけでは全国レベルでのコンテンツ配信は認められていない。コンテンツを全国で配信するには、中央政府の発行する「付加価値ライセンス」と呼ばれる許可証が必要だ。この許可証を持った企業のみが、全国での音声情報サービスやデータサービスなどの付加価値サービスを提供できる。
また、日本と違って中国の携帯電話キャリアは、コンテンツを購読しているユーザーの携帯電話番号をSPに提供する。これにより中国のSPは、キャリアのプラットフォームを経由して直接自分の顧客にコンタクトを取り、サービスを提供する自由を手に入れられるのだ。
コンテンツ市場の混乱と中国政府によるSPの整理
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チャイナモバイルは、同社の提供する携帯電話向けポータルサイト「移動夢網」をスタートした当初、数多くの携帯電話コンテンツを揃えるため、SPの資格に対する制限を緩和していた。しかし、SMS(ショートメッセージサービス)によるコンテンツ提供に大きなビジネスチャンスがあると察知した企業が一斉に携帯電話コンテンツ市場に進出しはじめ、2002年に300社しかなかったSPは、2004年には4000社まで急激に増えていた。
その4000社の大半は、携帯電話へのコンテンツ提供に何の経験もない小さな企業で、全国での配信権利を取得せずに一部地域でのみ営業する企業が多かった。こうした企業は特に優良なコンテンツを持っていたわけではなく、売上げを上げるためユーザーをだますような課金方法を採る企業もあった。その手法は、キャリア課金システムの盲点を利用したり、ユーザーに通知することなく課金したりと、実に巧妙かつ多様で、主に毎月の通話料明細書が発行されないプリペイドカードのユーザーが狙われていた。また、SPがキャリア内部の人間を買収し、勝手にプリペイドカードの携帯電話に自分のコンテンツサービスを購読させるよう細工することもあった。こうしたケースでは、ユーザーがプリペイドカードに通話料金を入金すると同時に多数のコンテンツ料金が引き落とされ、一瞬にして残額がゼロになってしまうこともあった。
このように詐欺同然の手段で簡単に大金を手にした企業を見て、大手を含む多くのSPがこの手法を模倣しはじめた。コンテンツサービスが普及し、携帯電話ユーザーはその便利さを実感しはじめていたが、同時にSPに対する不信感も増していくような状況だった。数々のクレームが携帯電話キャリアに殺到し、いくつかの事件はマスメディアで取り上げられた。そして中国政府は、この事態を収拾せざるを得なくなった。
2004年8月、チャイナモバイルは立て続けに数十社のSPの違法行為を発表した。同社はこうした違法行為を行う企業に対し、契約中止や罰金、もしくは新規業務停止の処罰を下した。チャイナモバイルはそれ以前にも数社を処罰してきたが、これほど大規模なものはこの時が初めてだ。その処罰リスト中には、常に売上げ上位に名を連ねた大手SPも多く含まれていた。
一方、中国政府は全国配信サービスを提供するために必要な許可証の資格をさらに厳しく制限し、1000万人民元(約1億3千万円)以上の資本金や、2カ所以上の地方キャリアと契約し、サービスを提供している実績などを要求した。全国でのコンテンツ配信許可を得ていたSPの許可証は2004年10月でいったん無効となり、再び全国でサービスを展開するには新たな条件を満たして許可証を申請し直さなくてはならなくなった。この中国政府の荒療治により、全国で携帯電話コンテンツを提供できるSPは81社しか残らなかった。
チャイナモバイルの新コンテンツプラットフォーム
調査会社CCIDNETのレポートによると、2004年1月から2004年12月までのチャイナモバイルの総収入の内、コンテンツサービスの手数料収入はわずか0.5%に過ぎなかった。しかし調査会社iResearchによると、チャイナモバイルが顧客から受けたクレームの数では、コンテンツサービス関連が70%を占めていた。こうした状況から、チャイナモバイルは制度面だけでなく、システムによってSPの不正行為を取り締まる仕組みを開発した。それはMISC(Mobile Information Service Center)プラットフォームと呼ばれるもので、チャイナモバイルの子会社である卓望科技(アスパイア・テクノロジー)が開発したコンテンツ管理プラットフォームだ。このプラットフォームの導入により、SPが直接ユーザーにコンタクトすることが厳しく制限されたほか、ユーザーへの課金も再三の確認が必要となり、以前のような詐欺課金の手段が使えなくなった。
近い将来やって来る第3世代(3G)携帯電話サービスに向けて、チャイナモバイルはSPからの新サービスや新ビジネスモデルを期待している。MISCプラットフォームの導入で、悪質SPの数は制限されるが、残されたSPはコンテンツの質の向上や新サービスの提供などを視野に入れなくてはならない。
政府やキャリアからの制約で、SPの淘汰は今後さらに進むだろう。しかし、これは業界に必ずしもネガティブな影響を与えるものではない。むしろ、コンテンツサービスの質やユーザーからの信頼度の向上という形で、中国の携帯電話ビジネスの発展に大きく寄与していくものだと思われる。
3Gの到来を見据え、さらなる飛躍と発展を続ける中国携帯電話ビジネスからはまだまだ目が離せそうにない。
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