突然の規制で混乱続くTwitter--イーロン・マスク氏の狙いとTwitterの今後を読み解く

 実業家のイーロン・マスク氏が買収して以降、多くの混乱が続いているSNS「Twitter」。日本時間の7月1日頃にはTwitterの投稿読み込みに突如制限がかかるなどして再び混乱が起きているようだが、さまざまな混乱の原因はどこにあり、今後TwitterがTwitterであり続けることはできるのだろうか。

7月に発生したTwitterの規制で大混乱

 日本では非常に人気が高いSNSとなるTwitterだが、2022年にイーロン・マスク氏が買収して以降、多くの混乱が起きているようだ。とりわけ最近、大きな混乱となったのが、7月に入って以降続いている、投稿の読み込み制限だ。

 これは7月1日頃から突如発生したもので、Twitterの投稿が読み込めない人が続出。その原因について現在Twitterを運営しているX Corp.を保有している実業家のイーロン・マスク氏は、「一時的に制限を加えているため」とTwitterに投稿した。有料プログラムの「Twitter Blue」などで認証されたユーザーは1日当たり6000件、認証されていないユーザーは1日当たり600件、新規の非認証ユーザーに至っては1日当たり300件しか投稿を見ることができないとされた。

イーロン・マスク氏のツイートより。7月に入り突如発生した規制では、当初認証ユーザーで1日6000件、新規ユーザーに至っては300件しか投稿を見ることができなくなっていた
イーロン・マスク氏のツイートより。7月に入り突如発生した規制では、当初認証ユーザーで1日6000件、新規ユーザーに至っては300件しか投稿を見ることができなくなっていた

 この処置はあくまで一時的なものとのことで、翌日の7月2日には、時間を追うごとに徐々に制限が緩和。筆者が確認した限りではそれぞれ1万件、1000件、500件にまで緩和したとのツイートがなされているが、執筆時点ではまだ完全に制限が解除されている訳ではないようだ。

 その理由についてイーロン・マスク氏はスクレイピング対策、要はウェブ上の情報を機械的に取得する行為が多発しており、その対処のために規制をかけたとしている。7月5日に公開されたTwitterのビジネス向けブログを見ると、悪意のある人達やボットがAIモデル構築のためTwitterのデータをスクレイピングしたり、さまざまな方法でTwitter上の会話を操作したりすることなどを防ぐため、事前通知なしで規制をかけたことを明らかにしている。

Twitterの広告主などに対するビジネス向けブログより。一連の規制はスクレイピングなどの対策のため事前通知なしで実施したとのことで、影響を受けた人は少数だとされている
Twitterの広告主などに対するビジネス向けブログより。一連の規制はスクレイピングなどの対策のため事前通知なしで実施したとのことで、影響を受けた人は少数だとされている

 加えてこのブログでは、影響を受けた人はあくまで少数とされているほか、広告への影響も最小限に抑えられたとしており、Twitter側ではあまり大きな影響は起きていないと認識している様子だ。しかしながら、ユーザーの反応を見る限り、その影響は決して小さいとは言えないように感じるのも確かである。

Twitterの変更から見えるイーロン・マスク氏の狙い

 だが、今回の件に限らず、Twitterを巡ってはイーロン・マスク氏の買収以降、急速なサービス内容の変化により多くの混乱が起きているのも確かだ。

 代表的な例を挙げれば、1つにTwitter上で著名人などのアカウントが本人であることを証明する「認証バッジ」が挙げられる。認証バッジは従来、ユーザーがTwitter側に申請をし、認証されない限り付与されなかった。しかし、イーロン・マスク氏による買収以降は、Twitter Blueに加入すれば基本的に誰でも付与されるようになるという大幅な変更が加えられた一方、従来付与されていたユーザーの認証バッジが突如削除されたり、復活したりするなどして混乱が起きていた。

かつては著名人などが本人であることを示すために付与されていた青の認証バッジだが、現在は有料の「Twitter Blue」に加入し、問題のあるアカウントでなければ基本的に誰でも付与が受けられるようになった
かつては著名人などが本人であることを示すために付与されていた青の認証バッジだが、現在は有料の「Twitter Blue」に加入し、問題のあるアカウントでなければ基本的に誰でも付与が受けられるようになった

 そしてもう1つは、APIの有料化だ。Twitterはツイートの投稿や取得などを外部のツールから利用できるAPIを提供しており、従来は無料で幅広い機能が利用できていた。それを活用して使い勝手を向上させたTwitterのクライアントアプリや、Twitterの投稿を活用したさまざまなツールやサービスが登場したことが、Twitterの人気を高める大きな要因の1つになっていたのである。

 だが、イーロン・マスク氏の買収によってそのAPIにも大幅な改変が加えられている。3月から新たに提供されているAPIのプラン内容を見ると、無料で利用できるプランで利用できるのはツイートの投稿などごく一部に限られてしまう。それゆえ無料でTwitterのAPIを活用していた多くのアプリやサービスが提供終了を余儀なくされ、それらツールを活用していたユーザーに大きな影響が出るなどしてやはり混乱が起きてしまっている。

TwitterのAPIも2023年3月に大幅な変更がなされ、無料の「Free」ではツイートの投稿などごく一部の機能しか利用できなくなっている
TwitterのAPIも2023年3月に大幅な変更がなされ、無料の「Free」ではツイートの投稿などごく一部の機能しか利用できなくなっている

 そしてこのAPI有料化が、今回の規制に影響したと見る向きも少なからずあるようだ。従来APIを使って無料で投稿を取得していた人たちが、それができなくなったことからウェブのスクレイピングによる取得に切り替え、結果Twitterに高い負荷を与えるようになり規制に踏み切ったのではないか――という見方である。

 ほかにも、イーロン・マスク氏による買収以降、Twitterには非常に多くの変化が起きている。一連の変化を見るに、イーロン・マスク氏の狙いはTwitterの収益性を高めることであることが分かる。実際イーロン・マスク氏はTwitterの買収後、Twitterが多額の赤字を出していることを非常に問題視しており、買収直後から大規模なリストラを実施し、社員が大量に解雇されたことで大きな話題となった。

 その一方で進められたのが、Twitter Blueの拡大やAPIの有料化であり、サービスへの直接課金によって広告に依存していた収益体制を大きく変え“稼げるTwitter”にしたいというのがイーロン・マスク氏らの狙いと見ることができる。

 さらに言えば、イーロン・マスク氏は「言論の自由絶対主義」を掲げ、Twitterでも買収後、凍結された一部のアカウントが解除されるなどの動きが見られたことから、自身が実現したい言論の場を実現する上でも周囲からの評価にビジネスが左右されやすい広告から、左右されにくい直接課金を主軸にしたい思いもあるのかもしれない。

代替のSNSはTwitterの代わりになり得るか?

 ただ、イーロン・マスク氏が目指すTwitterと、ユーザーが求めるTwitterの方向性が必ずしも一致している訳ではない。それだけにイーロン・マスク氏の一連の施策を支持する人がいる一方で、従来のTwitterのあり方が“真”であるとし、反発する人も少なからずいるのも確かだ。

 とりわけ今回のように事前の予告なしに規制するというのは、利用者からしてみればサービスに対する不信感を高める大きな要因となったことに間違いない。それだけに、イーロン・マスク氏の方針に賛同できず、Twitterから新天地に移ろうという動きも少なからず出てきている。

 そうした動きは、競合にとってチャンスとなるのもまた確かである。実際Twitterに生じた一連の混乱を機として、Twitterの共同創業者であるジャック・ドーシー氏が立ち上げた「Bluesky」などTwitterの代替となるSNSが急速に盛り上がりを見せている。

 また、7月6日にはより大きな動きとして、SNS大手の米メタ・プラットフォームズがTwitterの競合というべきサービス「Threads」の提供を開始。「Instagram」のアカウントを使って利用できることもあり、開始からわずか1日で3000万の登録者を獲得するなど急速な伸びを見せている。

メタ・プラットフォームズが新たに提供した「Threads」は、SNS大手が提供するTwitterライクなSNSで、「Instagram」のアカウントで開始できることもあって1日で登録者3000万を突破している
メタ・プラットフォームズが新たに提供した「Threads」は、SNS大手が提供するTwitterライクなSNSで、「Instagram」のアカウントで開始できることもあって1日で登録者3000万を突破している

 ただ、Twitterが長年培った利用者と基盤、文化といったものがそれら競合サービスにそのまま移り、Twitterの代替として成長するかどうかは未知数でもある。Threadsを例に挙げるならば、Instagramのアカウントを用いることもあって、Twitterとは異なる層のユーザーが主流を占める可能性が考えられる。既存のTwitterユーザーにとって居心地がよい場所となり得るかどうかは分からない。

 また、かつての「Clubhouse」がそうであったように、一時的に大きな盛り上がりを見せたがその後急速に利用者が離れてしまうというケースはSNSで従来よく見られたものでもある。混乱がある程度収束した時点で、再び人々がTwitterに戻っていくことも十分考えられるだろう。

 そうしたことからTwitterと競合サービスの今後を見通すのはなかなか難しいのだが、今後もTwitterの混乱が続くようであれば、ユーザーの不安が一層高まり、離脱の動きがより加速する可能性は高い。

 そうした不安を払拭(ふっしょく)するためにも、Twitter側には今後の明確な方向性やビジョンを見せていくことが必要であるように思う。

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