Web3がもたらすゲームとブロックチェーンの未来--トークンエコノミクスだけではない多様な側面 - (page 2)

緒方文俊 (ディー・エヌ・エー)2023年03月01日 10時00分

猫の遺伝子に学ぶブロックチェーンゲームの魅力

 ブロックチェーン技術を使う目的として、経済的な結び付きばかりがフォーカスされますが、スマートコントラクトを用いてゲームのデータを分散管理するということ自体に、大きな可能性があると思います。たとえば、ブロックチェーン ゲームの元祖「CryptoKittes」では、猫の遺伝子をコントラクトに書き込むことによって、父猫、母猫の遺伝子を受け継いだ子供の猫が唯一無二の存在として生成されます。子猫のゲノムシーケンスは厳密なルールによって作られており、プレイヤーは新しい子猫を生み出すために知恵を絞ります。

 このようなロジックが生み出す生命体の面白さは、1970年にイギリスの数学者Conway氏が考案した、生命の誕生や死を計算機上でシミュレーションする「LIFE GAME(ライフゲーム)」にも見ることができます。この記事をPCで見ている方は、ぜひChromeを使って、検索窓に「LIFE GAME」と打ち込んでみてください。画面上に時間経過と共にさまざまな動きを見せる生命体が誕生します。NFTは、Art Blocksなどをはじめ、ジェネラティブアートといわれる分野がありますが、数学的な仕組みによって今この瞬間にしか生み出されないアート作品が作り出されることは、こういったロジックのみせる数学的な美しさを感じさせます。

LIFEGAMEのロジックを踏襲したプログラムを、筆者所有のThumbyで実行した。Thumbyは専用エディタから簡単にゲームプログラミングが行える超小型ゲーム機
LIFEGAMEのロジックを踏襲したプログラムを、筆者所有のThumbyで実行した。Thumbyは専用エディタから簡単にゲームプログラミングが行える超小型ゲーム機

 ロジックは、世界の創造にも活かされます。ある日、子どもが「マインクラフト」の世界の端っこまでたどり着く冒険に出ていて、小一時間ほど様子を見ていました。夕食の時間になってしまい、あえなく、その冒険は終了してしまったのですが、子供の発想力にはいつも驚かされます。結論からいうと、マインクラフトにおける世界の生成はロジックによるもので、理論上の限界点はありません。プレイヤーが動くたびに、特定のルールで塗り潰されていくわけですが、シード値を入れた段階で数学的には存在している世界で、プレイヤーが動くことで発見されていく様子は、その理屈を知っていたとしても、不思議に思えます。ちなみに、マシン性能によって、アプリがクラッシュすることから、マインクラフトにおける実際の果ては、ファーランド(Far Lands)と呼ばれる危険地帯とも呼ばれています。

 「神はサイコロを振らない」というアインシュタインの言葉は、世の中の物事には全て法則性があって、それに則ってすべてが動くという考えです。実際に、神がサイコロを降っているかどうかは議論の中ですが、自然界に存在するさまざまなものの多くが、一定の法則によって作り出されているというイメージは、なんとも不思議なものです。こうしたアルゴリズムが複数のノードに分散管理され、一つのサーバーを閉じても失われない様子は、ゲームのキャラクターやアイテムに命を吹き込むような面白さを感じてしまいます。

 もう一つ、技術をテーマとした場合には、前回も話題にだしたゼロ知識証明の利用は面白いテーマです。Bogotaで開催されたDevconでは、「DARKFOREST」というゼロ知識証明を用いたゲームの話題が登場し、私も非常にワクワクしながら、講演をみていました。

 完全情報ゲームというのは、オセロのような相手の情報を知っている状態で進めるゲームのことです。一方で、ポーカーのように相手の情報を知ることなく進めるものを不完全情報ゲームといいます。これまで、ブロックチェーンにおけるパブリックな仕組みでは、この不完全情報ゲームを作ることは難しいとされてきました。DARKFORESTで利用されているゼロ知識証明という技術は、Vitalik氏のブログなどにも記載されていまうが、プライバシーの担保などの目的で利用されるユースケースが主であったのに対して、エンタメに利用するというユニークなケースは注目を集めました。

 セッションの冒頭に、こうしたエンタメのプロジェクトが、イノベーションと暗号技術についてより広げていくと語られていますが、考えてみればCryptoKittiesが登場したことで、スマートコントラクト自体の注目を集め、さらに、そのコントラクトを真似して類似ゲームが登場することになりました。その結果、身近なプロジェクトを通じて、我々はNFTがどういうものかを多くの人が肌で感じることができたのではないかと思います。同様に、ゼロ知識証明などの技術がエンタメを通じて、活用方法が見出せる可能性があるかもしれません。

Web3時代におけるプラットフォームとしての価値

 先日、2ちゃんねるの開設者であるひろゆき氏が参加する、Web3の未来について語り合うイベント「GMO 渋谷FUTURE 2023」に参加してきました。そのセッションの、Web3とゲームの話題のなかで、ひろゆき氏がブラウザ技術について、DeNA前社長の守安功氏とTombo.Incについて話をしていたのが印象的でした。私自身もかつて、TomboSDKを使いゲームを開発したことがあり、懐かしくこのセッションを見ていました。

 当時、DeNAはTombo.Incに投資を行っており、アプリのネイティブコードをHTML5にコンバートできる技術として期待されていました。この頃、スマートフォンの普及とともに、ゲームはブラウザからアプリへ徐々にシフトしていった時代でもありましたし、DeNAは当時モバゲーを主体とするブラウザの会社でもあったため、HTML5技術に注力していたという事情もあります。結果として、世の中はApp StoreやGoogle Playといったストアへシフトしてしまったのですが、Web3の場合は、再びブラウザに回帰するのではないかという見方もあります。

 現状のゲームプラットフォームでは、SteamがNFTゲームを禁止しているように、一般的なゲームプラットフォームにとって、NFTの扱いは難しい状況があります。AppleStoreでも、2022年にNFTの審査基準が追加されたものの、いまだ多くの制約がある一方で、ブラウザには、こうした審査などの制約はありません。制約という意味では、スペックによる表現力の差は、当時のブラウザかアプリかの議論のなかでも、度々話題となっていましたが、現在では、WebGPUなどの技術によってブラウザにおいても描画性能が引き上げられる期待があります。また、「Xbox Cloud Gaming」などのように、クラウド ゲーミングを通じることでブラウザを入り口としてハイスペックなゲームを遊ぶような手法も考えられるでしょう。

 意外なところでは、昨今のメタバースブームなどとともに、VRの世界でもWebVRという形でブラウザ技術が活用されていたりします。私も、最近の勉強会などでBabylon.jsを使ってWebXR実装のプロダクトなどを作っていますが、ハンドトラッキング操作によって空間の中のオブジェクトを自在に自分の手に取るなどの複雑な操作も可能です。このように、アプリと同じ様な高度な体験を提供しながらも、インストールの手間やストアの審査の手間なく行えるという点は、ブラウザを利用するメリットとなるでしょう。

 ブラウザによる分散型ゲームといっても、コンテンツがバラバラと存在しているのは、ユーザーにとっては使いにくい面もあるため、Web3の世界では、Gala Gamesなどをはじめ、さまざまプラットフォームが登場してきています。既存のプラットフォームが必要な理由としては、ユーザーが新しいゲームを見つけるための回遊性、決済やソーシャルグラフなどさまざまな機能や要素があります。Web3ゲームの場合には、それらに加え、より包括的な動きが求められます。エコシステムとも表現されますが、独自のトークン経済圏であるとか、Modやプラグインのようなゲームが成長していくことを想定した仕組み、エコシステム内部でのアイテムの相互運用など、さまざまな仕組みが考えられるでしょう。こうした動きは、ゲーマーだけではなく、ゲームのコミュニティ、ゲームを運用する企業や開発者たちがより強固な結びつきとなり、双方向の関わり合いを行うことに繋がることが期待されます。既存のプラットフォームとは相容れない部分も多いこのような世界観は、専用のプラットフォームの存在によって、新しい生態系が作られる可能性もあり、非常に楽しみでもあります。

Conclusion

 本編では、CryptoKittiesというNFTゲームがあることを説明しましたが、遺伝子が子どもに伝わっていく様子をみて、「俺の屍を越えてゆけ」というゲームを思い出す方もいるのではないでしょうか。1999年にPlayStationで発売されたタイトルで、強い遺伝子を持つ神様と交神し、一族を強化しボスを倒すことがゲームの目的となります。短命の呪いがかけられた一族は、数倍のスピードで成長するため、2年程度の寿命しかありません。プレイヤーは、次々と交神することで、一族を絶やさないことが課されますが、プレイヤー自身がレベルアップするのではなく、DNAを通じて一族自体を強化するゲームは知る限りでは類似のものがなく、いまだに繰り返しプレイするほど大好きなゲームです。

 DNAといえば、ノーベル化学賞を受賞した女性科学者のジェニファー・ダウドナ氏にスポットをあてたノンフィクション小説「コードブレイカー 生命科学革命と人類の未来(文藝春秋)」を、年末年始に読んでいました。この本は、ビル・ゲイツ氏の推薦図書にも入っていることでも注目された小説でもあります。ダウドナ氏が開発したクリスパー技術は、遺伝子コードを切断して、遺伝子を削除したり置き換えたりすることを可能とし、農産物の品種改良や、遺伝子疾患などの治療法になる可能性のある技術だそうです。

 我々の生命は、こうしたDNAをデータベースとしているため、情報を辿っていくことで、さまざまな発見にも繋がります。このようなことは、中央管理ではなく、分散的に管理されたブロックチェーンのデータ管理のあり方と共通点があるというと、言い過ぎでしょうか。しかしながら、このような生物のデータベースの仕組みを学ぶことで、ブロックチェーン技術がどのように応用できるかという役割を見出せるような気がします。

 さて、改めて本稿で伝えたかった点は、ブロックチェーンゲームには多様な側面があり、トークンエコノミクスばかりではなく、分散化、トレーサビリティなどをはじめ、面白いテーマが数多く存在するという部分です。それらを活用することで、これまで作ることのできなかった新たなエンターテイメントの形が世の中に生まれる可能性があるのではないかと考えています。

緒方文俊

株式会社ディー・エヌ・エー 技術統括部技術開発室

2012年から株式会社ディー・エヌ・エーでMobageのシステム開発、リアルタイムHTML5ゲームタイトル開発、Cocos2d-xやUnityによる新規ゲームタイトル開発、ゲーム実況動画配信アプリの開発などサーバーサイドからクライアントまで幅広くエンジニアとして経験。2017年、フィンテック関連の事業開発をきっかけにブロックチェーンによるシステム開発をスタート。現在は、同社の技術開発室で、ブロックチェーン技術に関する研究開発、個人として外部顧問などの活動を行いながら、エンジニア目線での、日本におけるWeb3やブロックチェーン技術の普及・促進活動を行っている。「エンジニアがみるブロックチェーンの分散化と自動化の未来」を定期的に執筆中。

https://note.com/oggata/m/m8e413ae8b082

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