1989年にリリースされたJanet Jacksonのヒット曲「Rhythm Nation」を一部の古いノートPCで再生すると、クラッシュすることがある。Microsoftに長く勤務するRaymond Chen氏がその理由を説明している。
Chen氏によると、ある「大手コンピューターメーカー」が以前、Rhythm Nationを再生した一部のノートPCがクラッシュする現象を発見したという。近くにあった別のノートPCも、この曲を再生していなかったにもかかわらずクラッシュしたという。
その理由は、回転数5400rpmのHDDを搭載したノートPC(現在のノートPCのほとんどは、回転ディスクのないSSDを搭載している)の「固有共振周波数」の1つがRhythm Nationに含まれていたからだとChen氏は説明する。
同氏は、「Windows XP」のサポートを担当していた同僚からこの話を聞いたとして、「問題を発見した企業やその他のメーカーが採用していた5400rpmのノートPC向けHDDモデルの固有共振周波数の1つが、この曲に含まれていたことが判明した」と説明している。
テクノロジー系ニュースサイトThe Registerによると、このバグには現在、MITREによって共通脆弱性識別子(CVE)が割り当てられているという。MITREは、米政府の支援を受ける非営利団体で、セキュリティのバグを追跡するCVEシステムを管理している。MITREは「CVE-2022-38392」について、Rhythm Nationのミュージックビデオを介した「共振周波数攻撃」によるサービス拒否(DoS)を可能にする不具合だと説明している。
「2005年頃にノートPCに搭載されていた一部の5400rpmのOEM製HDDでは、物理的に近くにいる攻撃者がRhythm Nationのミュージックビデオから発信されるオーディオ信号を使って共振周波数攻撃を実行することにより、サービス拒否(デバイスの誤動作やシステムのクラッシュ)を引き起せる」(MITRE)
The Registerのある読者によると、「共振フィードバック」はよく知られている工学的問題で、兵士が橋を渡るときに敢えて歩調を乱すのはこれが理由だという。1831年には、英マンチェスターで歩調を合わせて行進していた英兵らがブロートン吊り橋にさしかかったところ、兵士の足音で機械的共振が誘発されて橋が崩壊したと伝えられている。
Chen氏は、シアトルのMicrosoft本社近くにあるタコマナローズ橋が、1940年に強風のために崩壊した事故に触れている。History.comによると、この橋は風による振動を受けやすく、周波振動が大きくなったことで崩壊したという。
音も振動を引き起こし、ディスクの性能に負の影響を与えることが知られている。Chen氏は、著名なエンジニアであるBrendan Gregg氏が2009年に公開したユーモラスな動画を紹介している(Gregg氏は当時、Sun Microsystemsで「Solaris」OS向け分析ソフトウエア「Fishworks」の開発に携わっていた人物だ)。Gregg氏はディスクアレイに向かって叫び声をあげた場合に、ディスクの性能がどうなるかを実際にやってみせた。その結果、叫び声によってディスクのレイテンシーが明らかに高まり、入出力が遅くなることが分かった。「ディスクの振動によって引き起こされるレイテンシーの増大は、現実にある問題だ」とGregg氏は結論付けている。
Rhythm Nationでクラッシュする問題が発生したノートPCのOEM企業は、オーディオパイプラインにカスタムフィルターを追加し、オーディオ再生時に特定の周波数を検出して除去することで、この問題に対処した。フィルターが役目を終えた今、このベンダーが忘れずにフィルターを削除していればよいのだが、とChen氏は書いている。
近年は、発生するノイズからCPUの動作状況を読み取る音響ベースのサイドチャネル攻撃が研究者らによって複数発見されている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」