パナソニック流デザイン経営--担当役員が話す「未来構想」の取り組み - (page 2)

関係性の豊かさが求められる時代

 そして、いまは第3の波が訪れているという。「これからは、関係性の豊かさが求められる時代になる」と指摘する。

 臼井執行役員は、「変化が起きるところにビジネスチャンスがあるのは明らかである」と前置きしながら、「以前は、その変化を技術が起こしていた。しかし、いま変化を起こしているのは、社会や顧客の価値観の変化や、環境の変化などである。未来に向けて変化しているところをみつけて、自分たちの事業にどう紐づけるかが、大きなビジネスチャンスを作ることにつながる」という。

 その一方で、臼井執行役員は、「いまは、凪(なぎ)の時代である」とも語る。臼井執行役員は、2007年に中国上海に赴任し、現地で中国人のデザイナーを数多く採用し、現地発のデザインによって、中国における家電事業の拡大に大きく貢献した。

 「北京オリンピックや上海万博の開催直前であり、スピードと数の論理で、どんどん新しいものを出した。それで、仕事をした気になっていたが、中国という激流のなかを、エンジンがついていないイカダで下っているようなものだった。2016年に日本に帰ってくると、日本はどんな動力を使って、どこに向かっていくのかということを考えさせられた。さらに、コロナ禍になり、閉鎖的になり、どういう動力を作り、どんな未来に向かっていくのかをより真剣に考えないと厳しい時代になってきたことを痛感している」とする。

 臼井執行役員は、それを「凪の時代」と表現している。パナソニックデザインは、京都に本社機能を持ち、東京、大阪に拠点を展開。さらに、ニューヨーク、上海、クアラルンプール、ロンドンにも拠点を持つ。

 また、家電事業を担当するパナソニックにはデザイン本部を設置。住宅事業を行うパナソニックハウジングソリューションズにはデザイン・コミュニケーションセンター、BtoBソリューション事業を行うパナソニックコネクトではビジネスデザイン部を設置。車載システムなどを担当するパナソニックオートモーティブシステムズでは車室空間ソリューション室を通じて、ビジネス、技術、デザインが一体となった組織体制を敷いているという。

 パナソニックグループでは、デザインフィロソフィとして、「Future Craft」を掲げ、人の思いを察し、場に馴染み、時に順応していくことや、未来を丁寧に創りつづけることを基本姿勢に掲げている。

 「パナソニックのデザインというと、家電製品をはじめとしたプロダクトデザインが思い浮かぶだろう。確かに、いまから30年前はそうであり、技術の見える化が中心であった。これが、いまでは顧客の潜在的ペインを解決するUXデザインへと変化してきている」とする。

 たとえば、よりよい炊飯器を作るのではなく、人を起点に、誰のためになにを作るのかというところから考えるのが、UXデザインであり、パナソニックデザインでは、炊飯器でおいしいご飯を炊き、それを食べるというシーンだけでなく、健康の観点や家族団らん、食卓に置いた際のご飯の役割なども捉えて、デザインをしているという。ここでは、観察、解決、発想、伝達まで、顧客起点による一貫したプロセスを用いたデザイン思考を取り入れている。

企業におけるデザインの潮流
企業におけるデザインの潮流

 「大量生産の時代には、作るという領域のスペシャリストが大切であり、デザイン部門にはそうした人たちが多かった。だが、UXデザインになると、作るだけでなく、気づく、考える、伝えるといった要素も重要になり、人や組織の在り方も大きく変化してきた」とする。

 また、「これまでのBTC(ビジネス、テクノロジー、クリエイション)のバランスは、デザイン部門が担当するCの影響力が小さかったが、UXデザインをするには、そのままでは限界がある。多様な人材が入ることで、Cを大きくして、BやTの領域にも越境していくことが大切である。かつてのデザイン部門は、なにをやっているかがわからない秘密結社のような組織であったが、多様な人材が集まり、BやTの領域の人たちと融合しながら、新たな製品やサービスを作っているのが、この数年の変化である」とする。

従来のBTCバランス
従来のBTCバランス
BTCバランスの最適化
BTCバランスの最適化

 Cが越境をしていく「越境型BTC組織」になったことで、難しかった横連携がつながったり、グッズドミナントからサービスドミナントに事業ジャンルが広がったり、リアルな「現場の声」をすくいあげることが積極的に行えるようになったという。

越境型BTC組織の実践でわかったこと「BTCがハブになる」
越境型BTC組織の実践でわかったこと「BTCがハブになる」

 たとえば、家電事業を担当するパナソニックでは、デザイン本部のなかに「FLUX」と呼ぶプロジェクトを立ち上げ、インサイトリサーチにより、長期視点での新たな価値領域を特定する活動を行ってきたという。

 「パナソニックは、お客様に向き合っていないという指摘があるなかで、FLUXでは、徹底的にお客様に寄り添い、向き合うべき新たな価値領域をリサーチし、未来の事業領域を提言する活動を行った。高齢や介護といったテーマでも、子供に介護をしてもらいたいという気持ちはあるものの、徹底したリサーチを行うと、子供に介護されることは、親としての尊厳が無くなると感じていることがわかった。これは、リサーチャーが何度もインタビューをしてようやく引き出した本音である。これが大切である。そして、こうした話を聞いたリサーチャーは、自らがなんとかしてあげたいという気持ちになり、課題解決に向けた熱量も高まった。親身になること、本質を追求することが、UXデザインには大切であるということを社員が理解することができた」とも語る。

 こうした経験が、製品開発を変化させたという。「いまは、競合他社に勝つことを前提に、ベンチマークをもとにしたデザインから脱却し、無駄なものを省き、ユーザーの使いやすさを前提にするなど、パナソニックの新たなデザインの姿が生まれている」とする。

 現在、パナソニックデザインには、プロダクトデザイナーだけでなく、UXデザイナー、インサイトリサーチャー、CMFスペシャリスト、デザインストラテジスト、サービスデザイナー、デザインエンジニア、UIデザイナー、ビジネスデザイナー、コミュニケーションデザイナーなどが在籍しているという。

 臼井執行役員は「今後は、社会のあるべき姿を問うビジョンデザインが大事になる」とし、「未来を描くには、イマジネーションによる想像と、クリエイションの創造が掛け合わせる必要がある。そのために、多様な専門人材を採用している」という。

 それが、いまのパナソニックデザインの姿だ。「多様で専門的な人材が集まり、魅力的な未来を描くことができる。この未来の姿をもとに、事業の目的が明確化し、エンゲージメントが高まるため、従業員の熱量が上がるという効果のほか、社会変化に先回りして、投資効果を高め、収益性があがるという効果や、質の高いビジョンが投資家の共感を呼び、株価が上がるという効果が生まれる。このサイクルに代表されるのがテスラである。明確なビジョンを描いて、そこに進んでいくことになる。いまのような不明確な時代にこそ、未来を示すことは大切なことである」

 パナソニック流デザイン経営は、不確かな時代における成長において、羅針盤の役目を果たすことになる。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]