神戸市職員が感じた民間と行政の違い--インターンでパーソルのDXを体験

大橋秀平(神戸市 企画調整局デジタル戦略部 CDO補佐官)2022年05月05日 09時00分

 神戸市職員研修所は、課長級職員を対象とした庁外インターンシップを実施した。業務効率化、デジタル化を推し進める上で必要なノウハウを民間企業から学び取り、実務に生かすことが狙いだ。神戸市が市民サービス業務の一部を委託しているパーソルテンプスタッフとソフトバンクが受け入れに応じ、2021年12月に実施した。

 パーソルテンプスタッフのインターンシップには、建設局北部建設事務所副所長の安田慎氏と、行財政局税務部市民税課 課長の三浦佳織氏が参加した。前編に続き、後編ではプログラムの感想と、職場における実情、展望についてインタビューした。

丸投げの原因はリテラシーの差--技術職との伴走でDXの認識乖離を防止

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建設局北部建設事務所副所長の安田慎氏

――今回の研修を振り返って、いかがでしたか?

安田氏:今回の研修を通して感じたことは、民間企業の取り組みは、汗をかいているなという点です。「そうせざるを得なかった」という危機感などの背景をよく考え、解決手段としてのDXの道を選んできているのでしょう。市の職員が汗をかいていないと言うわけではありませんが、今回のインターンシップでは、これまでパーソルテンプスタッフが苦労して取り組んできた中での、綺麗な上澄みの部分を教えてもらったように思います。

 神戸市のみならず、多くの自治体でもビジョンを掲げて取り組みを進めていますが、いざ現場に降りてくると、何をしたら良いのか具体的にわからない。またそれを考えられる人が殆どいないのも現実です。

 なぜそうなるのかといえば、アルファベット3文字恐怖症です。「BPR、RPA、BPOって何?」このような疑問を常に抱えてしまっています。「DX」という言葉にまとめて仕事を降ろすのが、もしかしたらあまり良くないのかもしれませんね。

――安田さんの仕事における目標設定を教えてください。

安田氏:「紙を可能な限りデジタル化したい」と言うのが私の大きな目標です。その上でどうすべきか、ですが、まずは上司である私自身がデジタル化の仕組みをしっかりと知ることだと思っています。指示を出すからには、元々デジタルリテラシーの高い若手職員にやってもらったり、彼らから上がってくる提案の声に依存しすぎたりしない。「小手先DX」のままで終わってしまわないように、上司が責任を持ち、仮に失敗があったとしても、彼らにとっては「上司の指示のもと取り組んだ」という逃げ道のような安心感を与えてやってみることが必要ではと思います。

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――建設事務所の職員は全体の9割近くが技術職と聞いています。この組織で、どのように実践していこうと思われていますか?

安田氏:建設事務所における課題は、まず導入方法だと思っています。神戸市の建設局には政策を担う本庁機能と、その出先機関という立ち位置の建設事務所が市内に6箇所あります。そういう組織体制になっているので、当然ながら現場からは「制度設計は本庁でやるべき」といった声が上がります。確かに出先機関の立場としては、本庁が方向性や実践方法を指し示してくれたら一番わかりやすいのですが、個々の事務所が起点となって動いていることが多いのが実態です。

 なので、前述した現場からの声を受け止めつつも、本庁のどこからみんなに伝えていけば良いか、それを選択するところから事務職である私の活用方法の始まりかなと思っています。小さく狭いところからでも動かしていけば、現場から具体性のあるフィードバックを得られそうだなと。

――民間と行政の違いを挙げればキリがありませんが、安田さんが注目したところはどんな点でしょう?

安田氏:今回とくに明確になったことは、民間企業は事業拡大が前提にある中での業務改善なので、従業員一人一人が「勤務(残業)時間が減る」とか、「仕事が楽になる」といった思想に基づいている点です。市役所ももちろん明るく取り組もうという姿勢を持ってはいますが、ネガティブ思考から始まることが多いので、どこかで信用ならないと思っている職員がいてもおかしくありません。PCが職場に導入され始めた時代、市役所の中では「PCR=人員削減手段」という噂が広まりました。いうならば、今回のDXもかつての噂話に似た思いを感じている人がいるのかもしれません。

 加えて、適切な仕事の振り方ができる上司の存在は大きいなと感じました。「適切」というのは、末端業務までにおいて必要とされるデジタルスキルやリテラシーが身に付いていることです。コア業務とノンコア業務の棚卸は、きっと上司自らができないと進まない。そしてただ動き方がわかるだけではもちろんダメで、現場一人一人がどうしたら意欲的に動いてくれるか、そのモチベーションの設計ができることも肝要です。

――行政の仕事は多岐に渡りますが、幅広くDXのノウハウを応用させていくにあたっての課題感はありますか?

安田氏:職員一人一人の満足度をどう上げていくか、だと思います。少子化が進み、人口減少は続いていますが、私たちの仕事は市民サービスというインフラ事業ですので、増えることはあっても減ることはありません。そんな中、私たちの業務は市民サービスに直結するものとそうでないものとに分かれますが、いずれにしても対外的に何かが変わったことが職員自身に認知されないと、新しい動きはしにくいです。

 今回の研修では、パーソルテンプスタッフはブレーンとなる人達がしっかり考え、動かれている点が象徴的でした。さらに、現場を巻き込むというよりは、現場と一緒に動いてやっていく印象付けを相当努力されたのだと思います。現場との乖離を最小限にしていく努力をする必要性を感じました。

体系化されていない30のマニュアルと見えないカベ--税金を残業代に充てないカギはナレッジ共有

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行財政局税務部市民税課 課長の三浦佳織氏

――この研修は1週間という長丁場でした。振り返っていかがでしたか?

三浦氏:個人的には、研修は時間をかける割にはなかなか自分の身に定着せず、一瞬興味を惹かれてもスルーすることが大半。なので、今回のインターンシップは楽しみ半分、憂鬱半分といったところでした。でも1週間を通して、市民税課の課題は共通する部分が多く、まさにやろうとしていたことが目の前で行われていて、お尻を叩かれた気分になりました。

 今は市民税課で仕事をしていますが、「業務改革」がミッションの1つであると言われるものの、何をどうしたら良いかよくわからない状況が続いてきました。ですが今回の研修を通して、少しずつですがようやく見えてきました。例えばコールセンターの業務実習では、日頃受ける問合せの数が減らなかったり、解決の糸口が見つけづらいと思っていたりした業務をどのように改善していけるか、そう言うヒントをいただいたように思います。

 特に印象に残ったのは、RPAの導入や、業務標準化について議論をしたときです。このインターンシップに参加する直前、標準化の話が部内で立ち上がったばかりで、「総論賛成、各論は否定的」といった空気が職場内で漂っていました。どうしていこうかと考え始めていたタイミングでした。

――全市的に業務改革のスピードは速まっていますね。各論否定という標準化の話を具体的に教えてください。

三浦氏:今私が取り組んでいるのは、市民税の事務作業の標準化です。市民税課は現在、1つの大きいフロアで業務をしていて、担当区ごとに島が分かれています。新長田合同庁舎ができた際に、各区役所に配置されていた市税事務所を一気に集約したのです。それで判明したのは、担当区ごとに個別の業務フローがまだまだ残っていたことです。

――同じ業務をしているのに、それぞれの進め方が違う。背景に何かあるのですか?

三浦氏:税に関わる業務には膨大な知識が必要で、課には約30にもおよぶ数のマニュアルがあります。しっかりと体系化され、誰でも理解できるように作られていれば役立つものですが、現実は雑然と共有フォルダに置かれています。また、「念のためにやっておこう」「これもしておいた方が良いのではないか」と言う善意から独自のチェック項目をマニュアルに追加したり、先輩達が使ってきた言葉や手法をそのまま引き継いでしまったりした結果、それぞれの担当区の業務がガラパゴス化している状態も残っているようです。

 新長田合同庁舎へ集約した際、業務フローについて標準化した部分もありますが、コロナ禍でなかなか進みませんでした。とはいえこのままでは集約したメリットを出せないので、早急に取り組んでいこうと思っています。イメージとしては、幹のような標準化されたマニュアル・フローがあって、そこから適宜必要な個別マニュアルが派生していく(参照できる)形です。

――それぞれの区担当の職員が同じ業務フローならば、区ごとに島を分ける必要も無さそうですね。

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三浦氏:神戸市は行政区が9あり、人口の大きさに合わせて職員の配置も考えています。とはいえ、業務の締切時期が近づくと、土日出勤が度々発生します。表面上は同じ業務をしている職員同士ですので、もちろん助け合って早く終わらせようと努力するのですが、区ごとに作られた独自ルールや慣習が「見えないカベ」となって邪魔をします。相手にお節介だと思われないよう遠慮していることが、積もり積もって勤務時間や負荷の増大につながっていると見ています。

――「見えないカベ」をなくす方法、どのような検討をされていますか?

三浦氏:ワンフロアが故に俯瞰してわかった点は、実務レベルの情報の蓄積がなされていないことで、これが課題の根底だと思っています。仕事中の何気ない雑談の中に、実は業務上必要とされるノウハウが飛び交っている。でも貯められているようには見えません。イントラを使っていても、新しい情報が来ては流れていき、見落としてしまいます。知識、知恵の共有化をより強固にすることが、打開策なのではと考えています。これらの点は、もともと「なんとなくそうだろう」と思ってはいました。そしてこの研修で、その認識が間違っていなかったと、答え合わせができたことが大きな収穫です。

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――見えないカベをなくして、区ごとのカベもなくなれば、働き方に大きな変化が期待できそうですね。

三浦氏:役所って一子相伝のイメージが強くて、横に広がっていくことがなかなかありません。でも成功体験の積み重ねがうまくいけば、DXの一つの成果となるのではないでしょうか。1日でも早く、見えないカベを取り払ってお互いの共通言語を増やしたいです。

 今回の研修は、市民税課の課題と共通するところが多かったので、自信を持って仕事をしようと気持ちを新たにしました。迷いはまだありますが、会議や職員に説明する場で、自分が意思を持って取り組んでいる姿勢を見せていこうと思います。

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