2023年春に卒業予定の大学生らを対象にした新卒採用の会社説明会が解禁となり、就職活動が本格的に開始した。コロナ禍でオンラインが浸透、働き方が多様化する中、将来的に複業を行うことを視野に入れ、就職活動に臨む学生も増えてきているのではないだろうか。
本稿では、3月1日に開催したパラレルプレナージャパンのイベントから、就職、起業に並ぶ社会人の働き方としての「複業」という新たな選択肢の可能性と魅力を紹介する。
なお、“パラレルプレナー”は、「パラレルキャリア」と「イントレプレナー」を組み合わせた造語で、複業(パラレルキャリア)で得た外部の知識、経験、人脈を生かし、会社員や公務員として本業で変革を起こしている人材(イントレプレナー)のことを指している。ここでいう複業(パラレルキャリア)とは、本業と本業以外の社会活動を同時に実践することを指し、労働の対価として報酬を受け取る「副業」に加え、ボランティア活動やプロボノ活動、社内の有志団体活動など報酬を受け取らない活動も含んでいる。
及部 一堯(およべ かずたか)氏
NTT西日本 イノベーション戦略室、パラレルパートナーズ 代表取締役、ICOLA 共同代表、総合エンターテイナー
新村 真由乃(にいむら まゆの)氏
富士通、MC・ナレーター、服飾デザイナー・衣装製作
山口 嘉竜(やまぐち よしたつ)氏
関西電力 経営企画室 イノベーション推進G 主査、認知科学プロコーチ、キャリアアドバイザー、Community rapport 顧問
増永 静奈(ますなが せいな)氏
静岡文化芸術大学 文化政策学部 国際文化学科、学生団体with、学生団体FRESH、WISH、ジュースクラス
増永氏:パラレルプレナーの皆さんは、自分のやりたいことというのはどのように見つけたのでしょうか?
山口氏:私は漠然と起業したいという気持ちはありましたが、当時の自分にはスキルも才能もなく、自分には無理だと思い込んでいました。そんな中で6年前、たった1人との出会いで人生がブレイクスルーしました。ある方に半年で35kgダイエットした経験を話したところ、「それだけで十分ビジネスになる。価値になるよ」と言っていただき、認識が変わりました。自分にとって当たり前のことや、息を吸うようにできていることにこそ才能が眠っているのに、気づかないことが多いのです。
新村氏:私の場合、MCを始めたきっかけは苦手なことを克服したかったからです。元々あがり症で、人前で手を挙げて発言をすることに苦手意識がありましたが、大学生のとき、社会に出ればあらゆる場面で自分の意見が求められることを考えて「このままではいけない」と一念発起しました。続けるうちに、司会者としてイベントの空気を作るこの仕事の面白さに気づいて、現在も継続しています。
服飾デザイナーの仕事は、小さい頃から絵を描くこと、とりわけ洋服のデザインをすることが好きで、自分のデザインを実物にしたいという思いから縫製技術を独学で学びました。自分で製作した洋服をSNSにアップしていたらオーダーをいただくことになったのがきっかけで、元々は複業としてやるつもりはなかったのです。
増永氏:皆さんのお話を伺っていると、点と点が線でつながって、本業と副業の相乗効果を生み出していると感じました。学生時代に、「点」をつくることに取り組んだり、何かにトライしたりすることを意識的にしていたのですか?
新村氏:そうですね。学生時代は、アプリ開発、マジックやバンドのボーカル、絵、作文など、いろいろな表現活動に挑戦してきました。そこで得た経験やスキルを組み合わせることで、自分ならではの価値を生み出せるのではないかという期待からさまざまなことにチャレンジしてきて、行き着いたのがMCと服飾デザイナーです。本業と一見遠い活動に見えますが、自分自身でマーケティングやプロモーションを行う立場でもあるため、今のポジションで生きることもたくさんあります。
及部氏:私は大学生時代に20種類以上のアルバイトにチャレンジしました。家庭教師、塾の先生を始め、ゴルフ場のキャディー、池のゲンゴロウを数える、消防設備士、自転車の組み立てなど、自分が挑戦したいと思ったアルバイトをやりました。これによって、何かにチャレンジするということに対するハードルが下がり、社会人になってから新たに挑戦することが全く苦にならなくなりました。
そして、やりたいことを見つけるきっかけとなった出来事は4つあります。まず1つ目が足のケガです。入院生活や足が不自由だった時、周囲の人々に支えられていたことに気付き、感謝の気持ちを伝えたいにもかかわらず、何をしたらいいか分からない自分がいました。
2つ目はライブイベントで音楽は感謝も伝えられるし、元気も与えられることに気付いたことで、シンガーソングライターを始めたことです。そして、3つ目はエンターテイナー活動がきっかけで行った国際支援活動です。カンボジアの洪水被害に遭った地域の支援に行った際、その場では音楽やマジックで人々を笑顔にできても、継続的な支援ができなければ根本的な解決にはならないと気付いたことで、新規事業へ興味を持ちました。
最後に4つ目は、プライベートにおけるエンターテイナーの活動をきっかけに、本業で事業化ができたことです。これによって、プライベートでの知識、人脈、経験を会社に還元し、社会に貢献したいという思いが強くなりました。
増永氏:複業を始めるには一定のスキルや時間が必要と思います。正直なところ、コストや時間はかかりましたか?
新村氏:私の場合、服飾デザインは趣味としてやっていたことなので、趣味や好きなことにお金をかけるのと同じ意識でした。服飾のお仕事をご依頼いただく際は、私から希望金額を提示せず、お客さま自身に価値を付けていただいて、それを私のモチベーションにしています。パラレルキャリアとして本業があるからこそ、利益を気にせず、作品のクオリティアップにとことんこだわることができたと感じます。
山口氏:6年前の私は脱サラを前提に副業を始めましたが、収益を得るために、意に沿わない仕事を受けざるを得ないことへの違和感や、「もっと社会にプラスのインパクトを与えたい」という想いが湧いてきました。組織に属して安定的な収入を得ながら、自分が本当にやりたいことに全力投球できるのは複業の魅力だと思いますね。
及部氏:コストも時間もかかっています。複業を始めてから今の状態になるまで約11年かかっていますが、それでもまだ発展途上です。複業が軌道に乗り始めた頃は、さまざまな横のつながりができたことで、ある時は月に8回も結婚式にご招待いただくなど、食費を最小限に抑えなくてはいけないくらい、お金に困った経験がたくさんあります。
ただ、そのおかげで「人脈」というかけがえのない財産を手にすることができ、今では本業よりも複業の収入の方が上回っています。自分自身への投資という観点で考えた際、ここまでストイックにやる必要はないと思いますが(笑)。苦しくても自分の信念を貫き通す意志の強さは大事だと感じています。
増永氏:最後に、学生の皆さんへメッセージをお願いします。
山口氏:よく「何がメインの仕事なのですか?」という質問をいただきますが、今携わっている仕事すべてがやりたいこと、つまり私にとっての「志事(しごと)」なのです。志事の軸は、Can(スキル<才能)、Will(肯定されなくてもやりたいこと)、Need(最も価値を発揮できる適所)の3つが重なり合う部分を考えることで探ることができます。
学生の皆さんも自分にぴったりの志事軸が見つかれば、必ず自分のポテンシャルを発揮できます。そして、私自身が些細なきっかけで人生が激変したように、”誰でも、いつからでも、未来は変えられる”と、自身の経験と、多くの方の支援を通して確信しています。
新村氏:私は、パラレルプレナーとは「やりたいことをあきらめずに自分らしく生きていく方法」だと思っています。私は富士通に中途入社したのですが、実は転職活動をはじめたときは、別の企業を志望していました。しかし、希望していた他業界の選考で、複業含むこれまでの経験はその会社では生かせない、1からのスタートになると言われ、今まで取り組んできたことに対する価値を自問自答しました。
ところが、富士通の最終選考では、「営業やマーケティングの経験を持ちつつMCや衣装作家の経験がある人材はなかなかいない。その力を生かしてほしい」と言っていただき、「今までやってきたことは間違いではなかった」と思うことができて、入社を決めました。パラレルキャリアを認めてくれる企業は数多くあるので、学生の皆さんも、自分らしく、自分にしかできないことを実現していく1つの選択肢として、パラレルプレナーを検討していただけたら、うれしいです。
及部氏:皆さんが自分自身の可能性を信じれば、その可能性は無限大です。私は「世界中の人に元気と夢を与え続ける」という目標を持ち続けていますが、その目標を叶えるためには、いろんな手段があると思っています。
ただ、小さな目標にすると自分の可能性が限られてしまうので、せっかくだから大きな目標を掲げていただきたいです。苦しい時ももちろんあると思いますが、あきらめるとそこで終わってしまうので、どうしたら乗り越えられるか、知恵を絞った分だけ成長できると思います。一番大切なのは自分を信じることです。
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