アイ・グリッド・ソリューションズと子会社のアイ・グリッド・ラボ、伊藤忠商事は3月15日、太陽光発電と宅配用EVをAIで最適制御する エネルギーマネジメントの実証実験を実施、その結果について発表した。AIによるEVの自動充放電制御により、約5.6kWのピーク抑制効果が得られたという。
実証実験は、1~2月に埼玉県内で展開するスーパーマーケットヤオコー川越的場店にて実施。店舗の屋根に設置した太陽光発電と蓄電池、EV等を組み合わせ、AI(強化学習)によるエネルギーマネジメントにより、ラストワンマイル物流の脱炭素化を目指す。
AI(強化学習)とは、教師データが無い場合などに試行錯誤を繰り返して最適な行動パターンを学習するというもの。エージェントの行動に報酬を与え、エージェントは受け取った状態と報酬を元に累積報酬の最大化を目指すことで、最適な行動パターンの精度を高めていく。
中核を担う「R.E.A.L. New Energy Platform」は、AI、IoT、クラウド、デジタル技術を活用し、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーをネットワーク化して、蓄電池、EVとも連携して再生可能エネルギーを循環させる分散、集約型の新しい電源マネジメントシステム。太陽光発電、蓄電池、EVといった各設備をAIにより自動で最適制御する。
実証実験では、電力需要量、太陽光発電量の予測とEV走行計画、電力価格情報等を基に、蓄電池やEV等の充放電を自動で最適制御。EVは配送時に使う電力量を残しつつ放電することで、効率のよいエネルギーマネジメントができるとしている。
ヤオコーでは、ネットスーパー対応が10店舗あり、軽バン4台で1日2便の配送を実施している。今回の実証実験では、1台をダイハツ「ハイゼットカーゴ」をベースにEVに改造したコンバージョンEVに変更して使用した。
コンバージョンEVへの変更は、次世代EVに取り組むAZAPAが担当。エンジンをモーターに積み替え、電池を搭載し、フロント部分に充放電できる設備を整えた。運転席横にはタブレット端末を設置し、蓄電池の残量など、車両情報の管理が可能だ。
店舗側の配送作業をする建屋には、電気自動車への充電と、貯めた電気を設備内で使用する仕組みV2Hを設置。EVは配送時以外は常時接続することで充放電をコントロールしているという。
アイ・グリッド・ラボ 取締役CTOの岩崎哲氏は「実証実験のもう1つの目的が災害時、停電時のBCP対策。停電時のスーパーは避難所としての役割も果たすため、最低限の業務が継続できるよう、蓄電池とEVから放電できるようになっている。蓄電池で足りない時はEVがほかの店舗などから電気を充電してくることもできる」と説明した。
実験結果としては、EVによる配送車は加速感が高評価であり、運転性能の完成度は高かったとのこと。ただし、蓄電池搭載分の積載容量不足が宅配における課題になったという。エネルギーコストでは、現行ガソリン車に比べ、燃費が2.8倍に向上。1台当たり年間CO2排出量を約1.0t削減できるとしている。
EVの自動充放電制御については、夜間の充電と系統買電量が増える時間帯のEVからの放電による約5.6kWのピーク抑制効果が得られたという。
岩崎氏は「EVの導入による配送時のエネルギーコストの削減とCO2排出量の削減効果が検証できた。強化学習AIを用いて、店舗電力需要量、太陽光発電量及び配送時間帯を加味したEV充放電の最適化モデルを構築することで、EVでのピークカットによる店舗の電気代基本料金削減とその効果も検証に至った。蓄電池とEVを併用したBCP対策により、停電時に柔軟な業務継続ができる仕組みを構築した」と今回の実証実験についてまとめた。
また、コンバージョンEVについては「走行距離が短く、充電の場所が必要という制約があるため、物流用途におけるEV化はラストワンマイルから広がるという仮説を持っている。そのため、軽自動車のEVに注目しているが、日本の自動車メーカーから対応車両が出そろってくるのは2025年くらい。当面の間ラストワンマイルを担うニーズに応えるのはコンバージョンEVだと考えている」(伊藤忠商事 電力・環境ソリューション部門次世代エネルギービジネス部電池ビジネス課の坪井秀人氏)とコメントした。
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