ロシアのウクライナ侵攻が報じられたことを受けて、@AndreyZhukovvというTwitterユーザーが1本の動画を投稿した。暗闇の中に建物が浮かび上がり、空にまばゆい光が走った次の瞬間、大きな爆発音が鳴り響く。動画に添えられた説明は、「マリウポリ」の1単語だけだった。
たちまち、この動画の再生回数は数百万を超えた。マリウポリはウクライナ東南の都市で、ジャーナリストから動画の転載許可を求める問い合わせが殺到した。悲しい顔や祈る手の絵文字が付いたリプライも多く寄せられていた。「これが編集されたおふざけ動画だったら、どんなによかったか」と嘆くユーザーもいた。
蓋を開けてみると、この動画は誤解を招くものだと判明する。現地時間2月23日に投稿されたこの動画は、それ以前にショートムービーアプリ「TikTok」に投稿されたものだと、数人のTwitterユーザーが発見したのだ。1月に投稿されており、キャプションも「発電所に雷が!」という全く別のロシア語だった。
25日には既に、Twitterは規約に反しているとしてこの動画を削除していた。同社は、誤解を招くメディアを禁止するルールを設けており、虚偽の情報やねつ造した映像の共有を禁じている。だが、既に手遅れだった。Twitterがこのツイートを削除するまでに、問題の動画は600万回も再生されていた。
操作された動画や誤解を招く動画は、しばらく前からソーシャルメディアを悩ませている。よく知られた例の1つが、米下院議長Nancy Pelosi氏の動画だろう。再生速度を落として、同氏が酩酊しているように見せかけた動画がFacebookに投稿された。これは誤解を招くコンテンツへのソーシャルネットワークの対応が、注意深く精査されるきっかけとなった事例だ。さらに高度なねつ造になると、人工知能(AI)を利用して、人が実際には言っていないことを発言したように見せる、いわゆるディープフェイクも登場している。
世の中が危機的状況にあるときに、@AndreyZhukovvが投稿したような誤解を招く動画は瞬時に拡散する可能性があり、Twitterをはじめとするソーシャルメディアプラットフォームが直面する、意図しない誤情報や故意のデマをいかに封じ込めるかという課題を浮き彫りにしている。削除を審議するプロセスを進めているうちに、投稿はあっという間に広まってしまう。
Twitterの認証済みバッジを取得しているBNO Newsも、@AndreyZhukovvの誤解を招く動画をツイートし、「速報:ウクライナの港湾都市マリウポリで大規模な爆発」と報じてしまった。このツイートの動画も300万回近く再生され、規約違反として23日にTwitterが削除するまでには、リツイートや「いいね」が多数付けられていた。
BNO Newsのツイートは、Twitterのパイロットプログラムである「Birdwatch」にも登場した。Birdwatchは、ユーザーがファクトチェックしてツイートに注釈を付けられるサービスで、この動画にも、「これは、(稲光)を撮った古い動画で、TikTokに投稿されたもの。爆発でも爆撃でもない」という注釈が付けられている(この注釈では、lightning(稲光)をlighting(照明)とする誤字があった)。
Twitterは、虚偽のコンテンツや誤解を招くコンテンツについて対策を試みているという。
「われわれは、合成または操作されたメディアに関するポリシーや、プラットフォームの操作に関するポリシーを含むTwitterルールに反する内容の投稿を、積極的に監視している」と、同社広報担当者は声明で述べている。
人が誤解を招く情報を共有する理由はさまざまだ。中には、容易にだまされて動画の内容を事実だと思い込み、映像が改変されていたり、前後関係を無視して切り取られていたりするという可能性を疑わない人もいる。
ワシントン大学のCenter for an Informed Publicでリサーチサイエンティストを務めるMike Caulfield氏によると、古い映像を使うのは、ソーシャルメディアで人を欺く常套手段だという。
「クリックやシェアの数を稼ごうとする人にも、積極的なデマの拡散に血道をあげる人にも使われる手口だ」(Caulfield氏)
@AndreyZhukovvとBNO Newsにはコメントを求めたが、回答は得られていない。
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