KDDIは1月28日、2022年3月期第3四半期決算を発表した。売上高が前年同期比2.3%増の4兆138億円、営業利益が前年同期比0.4%増の8746億円と、減益に転じた第2四半期から回復して再び増収増益の決算となった。
同社の代表取締役社長である高橋誠氏によると、増益要因は1つに、同社が成長領域と位置付けるライフデザイン領域やビジネスセグメントの伸びが挙げられるという。それぞれの営業利益は1810億円、1417億円であり、通期目標に対する進捗率もそれぞれ72.4%、77.0%と、順調に推移している。
そして、もう1つは楽天モバイルからのローミング収入だ。ローミング収入とグループMVNOの収入の合計は634億円となり、一連の料金引き下げ影響で564億円のマイナスとなっている、「au」「UQ mobile」「povo」のマルチブランド通信ARPU収入を補って増益に寄与している。
ただ、楽天モバイルはKDDIとのローミングを今後大幅に縮小していく方針を打ち出しているため、ローミング収入は減少していくと考えられる。だが高橋氏は「ローミング収入があったおかげで他社よりも3Gの終了をかなり早く実行できた」と話しており、2022年3月末に終了予定の3Gの償却費用やオペレーションコストの減少で、ローミング収入の減少は十分補えるとのことだ。
一方、高橋氏は携帯料金引き下げの影響について「年間の通信料金収入減少幅が大体600〜700億円と予測したが、実はもう少し膨らんできている」と、通期では想定以上の影響が出ることを明らかにした。ただ「値下げやマルチブランドの話については、各キャリアとも一息ついている感じがある」と高橋氏は説明。一部調査で日本の携帯電話料金が世界で最も安いという結果が出るなど、ある程度の成果が出たこともあって携帯料金引き下げへの対応はひと段落したという認識のようだ。
高橋氏は、NTTドコモが展開する「エコノミーMVNO」について「povoで十分対抗できている」と答えたほか、キャリアメールの持ち運びサービスに関しても「正直あまり影響はない」と回答。低価格サービスの増加で解約率は高まっているものの、低価格・乗り換え競争に関してこれ以上何らかの対抗策を打つ考えはない様子を見せている。
ただ、ここ最近急増しているスマートフォンの大幅値引き販売について、高橋氏は所感として「顧客がスマートフォンを買い求める時に、、料金は非常に重視されていると改めて感じている」と回答。電気通信事業法改正でスマートフォンの値引きが大幅に規制された現在でも端末値引きの重要性が高いことから、法の範囲内で対応を進めるとしている。
その一方で、KDDIが力を入れようとしているのが通信事業の業績回復に向けた取り組みだ。その基盤となるグループID数はここ最近純減傾向が続いていたものの、今四半期では4.8万の純増に転換している。
高橋氏はその要因について、各ブランドのモメンタム回復を挙げているが、中でもauに関しては「コストコンシャスな人達がauからUQ mobileやpovoに1割程度移行すると思っていたが、iPhone販売などが功を奏して1割に満たなかった」と説明、UQ mobileからauにアップグレードするも「前年から2.6倍に増えている」など、想定以上に好調だと評価している。
UQ mobileとpovoの契約数も順調に伸びており、UQ mobileの契約数は400万超。povoは「povo 1.0」の契約が微減傾向にあるものの、「povo 2.0」が伸びて契約数は百数十万に達しているという。高橋氏はpovo 2.0について「まだ緒に就いたばかりだと思っている」と話しており、今後プロモーションを積極化していく方針も示した。
その上で今後力を入れようとしているのが、OTTとの連携によるセットプランの拡大である。同社は1月26日、スポーツ動画配信サービスの「DAZN」とのセットプラン「使い放題MAX 5G/4G DAZNパック」の提供に加え、「使い放題MAX 5G ALL STARパック」にも料金据え置きで、DAZNのほか「Amazonプライム」「GeForce NOW Powered by au」を追加することを発表している。
一連のプランはDAZNが大幅値上げを発表した直後ながら、実質的にDAZNを低価格で利用できることから注目を集めることとなった。それだけ低価格の料金を実現した理由について高橋氏は明確な回答は避けたものの、「セットプランは解約率が極めて低い」などセットプランを長く手がけている実績と、契約などの工夫によって実現したとしている。
高橋氏は5Gの拡大とセットプランなどのサービス強化によって「今下がっている通信ARPUを、もう一度右肩上がりにしないといけない」と話す。米国や韓国のキャリアは5Gによるトラフィックの拡大でARPUを伸ばしており、それが日本との差になっていることから「5Gで素晴らしいサービスを頑張ってARPUを伸ばしていきたい」としている。
その5Gについては、対応端末の累計販売台数が2021年12月末時点で620万台に達しており、利用者の1人当たりのデータトラフィックは2.5倍に上昇しているとのこと。引き続き都市部の鉄道路線沿線など、生活動線を重視した5Gエリア整備を進めているが、半導体不足に加え新型コロナウイルスの感染が急拡大したことの影響もあって2021年度末の人口カバー率90%達成という目標に対する進捗は「若干遅れている」と高橋氏は説明。2022年度の早い時期の達成を目指すとしている。
また5Gに関しては、岸田文雄内閣総理大臣が打ち出す「デジタル田園都市構想」の影響で、地方での5Gエリア整備を急ぐことが求められるようになった。この点について高橋氏は「5Gのネットワークが拡大することで、いろいろな物に通信が溶け込む時代になる。これからのデジタルトランスフォーメーションにおいて大事なこと」と積極的に取り組む姿勢を打ち出しており、MaaSやドローンなど地方活性化につながる事業の同時展開や、地方でのデジタルデバイド解消に向けた取り組みにも力を入れていくとしている。
実際KDDIは、2021年12月にWILLERが展開するAIオンデマンド交通「mobi」を共同運営することを発表しているほか、ドローンに関しても今回の決算に合わせ、同社のドローン事業を承継する子会社「KDDIスマートドローン」の設立を打ち出している。ドローン事業を切り離すことについて高橋氏は「スピンオフベンチャーみたいな感じになっていて、経営陣を若手にしようと思っている」と説明、より機動的に事業展開する体制を整えることが狙いだとしている。
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